• 不動産投資について

不動産投資について

副業としての不動産投資を考える
今や不動産投資は、一部資産家や高額所得者だけが行う資産運用方法ではなくなっており、
ごく一般的な給与所得者(会社員)が、副業として行えるものになっています。
とはいえ、本業に影響しないでできるのか、
資産が大きく目減りするようなリスクはないのかなど、気になることは多いものです。
特にこれから不動産投資を始めようとお考えの人は、そのあたりをきちんと押さえておくことが大切です。

なぜ不動産投資が副業に選ばれるのか
多くの人は、労働による対価として生活に必要な収入を得ており、これを本業としています。
つまり勤労所得により暮らしているわけです。
これに対し、銀行預金の利息や株式の配当、物権の売買による差益など、
労働することなく手に入る収入のことを不労所得と言います。
不動産投資によって得られる売却益や家賃収入も不労所得に入ります。
 
では、会社員の副業という観点で不動産投資を見ていきましよう。
まず本業がおろそかになっては本末転倒ですので、手間や時間がかからないことが重要な条件になります。
その点、不動産投資は、対象物件の候補選びは不動産ポータルサイトなどを利用すれば、
夜間や昼休みなど仕事の手が空いている時間にいつでもできますし、
土日を使ってめぼしい物件の内覧もできます。実際の賃貸物件経営については、
管理・運営の実務は不動産管理会社に業務委託してしまえば、オーナーにはほとんど手間がかかりません。
言い方を変えれば、素人のオーナーには、入居者が満足する不動産管理業務を行うことはほぼ無理なので、
最初から管理会社に任せるつもりでその経費を投資資金に算入しておくべきでしょう。
 
こうしたことから、会社員の副業として不動産投資が選ばれていると考えられます。
また、本業が安定している会社員は、金融機関のローン審査に通りやすい傾向があります。
これは、不動産投資を始めるに当たって、入りやすさの一つの理由になっていると思われます。

不動産投資のさまざまな魅力
不動産投資には、不動産売却益や家賃収入を得ること以外にもさまざまな魅力があります。
 
【ミドルリスク・ミドルリターンのメリット】
まず、不動産投資は基本的にミドルリスクだと言われています。例えば土地の価値が急落し、
いきなり半値に落ち込むなどということがほぼないこと
、建物も経年で徐々に価値が目減りしていくものであること、つまり価値の変動が緩やかだというのがその理由です。
これは一つの大きなメリットと言えるでしょう。
 
一方で、不動産投資はミドルリターンでもあります。理由はミドルリスクであることと同じです。
しかし、賃貸経営をするときに、きちんと損益分岐点を把握して黒字経営が行えるならば、
例え利幅は大きくなくても長い目で見てメリットがあります。
 
将来受給する年金の額に不安を持つ人は、家賃収入によるプラスの収入分を、老後の生活資金として貯蓄に充当することができます。
 
【生命保険としての効用】
投資資金を金融機関からの融資で賄う場合、「団体信用生命保険」への加入が条件になります。
団体信用生命保険に加入すれば、当然保険金の支払いが発生しますが、
もしも契約者がローンの返済途中で死亡したり高度障害に陥ったりした場合、保険からローン残債が支払われるシステムになっています。
遺族には無借金の投資物件が残り、家賃収入もそのまま引き継がれることになります。これが、不動産投資の生命保険としての効用です。
 
【さまざまな節税対策】
不動産投資で得られる不動産所得と本業の給与所得は損益通算することが可能です。
仮に、不動産投資で赤字が発生した場合、その赤字分は給与所得から差し引いて所得税が課税されます。
つまり課税対象額が小さくなるという節税効果が得られるわけです。
しっかりと確定申告することで、所得税の還付と住民税の軽減措置を受けることが可能です。
 
ただし、帳簿上の赤字により節税効果を見込んだとしても、減価償却費やローンの利息分といった経費は減っていきますし、
そもそも赤字の状態が続くというのは事業上正しい形とは言えません。
節税の一方で資産を減らさないように、キャッシュフローの確認をきちんと行う必要があります。
 
また不動産投資は、相続税対策としても大きな効果を発揮します。
現金をはじめ金融資産は、額面に対し100%で相続税が課税されますが、
不動産は相続税評価額が時価よりかなり低く算出されるので、相続税額も大幅に減額できるためです。

不動産投資のリスク
最後に不動産投資のリスクを見ていきましよう。
 
【空室・家賃滞納リスク】
賃貸経営の場合、まず入居者が入らない「空室リスク」と入居者が家賃を支払ってくれない「滞納リスク」があります。
空室リスクはどんな物件にも常に存在するリスクですが、これを回避するためには、
まずは投資物件を探す段階で、入居者にとって魅力的な条件がそろったものを選ぶことです。
購入後については、状況に応じ対策を講じていくしかありません。
 
滞納リスクは、起きてしまうとなかなか面倒な問題です。対応策は、まず入居審査を適正に行うことでしょう。
それでも起きてしまう、またはオーナーチェンジで入居者を選べない場合の対策としては、
管理会社との契約に「家賃保証」を加えておくことが挙げられます。
 
【建物損壊リスク】
地震や水害、火災といった災害により、建物が損壊するリスクです。
大きな天災による被害を防ぐことはほぼ無理ですが、もしものときの対策として、保険に加入しておくことは必須です。
また、燃えにくい建材を使っている物件や路面から上がった土地に立つ物件を選ぶなど、災害リスクを減らすための事前の回避策は考えられます。
 
【流動性リスク】
不動産は株式や金融商品と違い、換金性が低いという特性があります。
売ろうと決めても、実際に買主が決まって売買契約が成立するまでには、かなりの期間を要します。
これを「流動性リスク」と言います。
しかし、売却益を得るための購入・転売が目的ではなく、家賃収入目当ての長期投資を行うならば、
実際には換金できないことで大きな問題とはならないでしょう。


不動産投資とはどういうものかを知ろう
「投資」とは、利益を得ることを目的に、対象となる物に資金を投じることを言います。
投資対象が土地や建築物といった不動産であるものが「不動産投資」です。具体的には不動産を売買したり、
賃貸したりすることで利益をあげることを指します。
まずは不動産投資とはどういうものか、簡単に説明していきます。

会社員の副業として広がる不動産投資
不動産投資と言えば、昔は資産家や土地所有者による資産運用、相続税対策というイメージがありました。
しかし、今や会社員(給与所得者)が、副業として不動産投資を行うことが珍しくなくなっています。
 
投資物件を購入するには、高額な資金を必要としますが、普通、一般的な会社員はそのような大金を保有していません。
ですから不動産投資ローンを組むことで資金調達を行います。手持ち資金が希薄でも、不動産投資が始められるわけです。
 
不動産投資ローンは、住宅ローンと異なり、借入れ者の給与収入による返済能力の有無以外の大きな審査基準があります。
それは、事業として不動産をどのように保有・経営していくかという事業計画が必要だということです。
住宅ローンと違い、不動産投資ローンは経営状態の変動が返済の不安要素になるので、融資する側は事業の採算性や継続性といった計画を重視することになります。
ただし、不動産情報サイトなどで売り出されている投資用物件は、元々テナントが付いている「オーナーチェンジ物件」が多いので、
利回りや事業採算、資金については、情報を提示している不動産会社に相談できます。
 
また、借入金利も不動産投資ローンは、住宅ローンに比べて一般的に高めに設定されています。
ただし、金融機関によって違うので、具体的な利率は都度確認しましょう。
とはいえ、不動産投資ローンを組むことで、自己資金の貯蓄を待たずに不動産投資を行えることが、
会社員が副業として不動産投資を実行するハードルを確実に下げていると言えます。

不動産投資で収益を得る二つの方法
不動産投資で収益を得るには、大きく二つの方法があります。一つ目が、仕入れた物件を購入価格よりも高い金額で売却し、
その差額分で収益を得る方法。この利益のことを「キャピタルゲイン(Capital gain)」と言います。
二つ目が、仕入れた物件を運用することで収益を得る方法です。
アパートやマンションなどの居住用物件を購入して、入居者から家賃を徴収して毎月収入を得ていくことなどがこれに当たります。
こうして得る利益を「インカムゲイン(Income gain)」と言います。
 
「キャピタルゲイン」を狙った投資は、うまくいけば一気に高額な収益が得られる可能性があります。
しかし、その分相場を読む力や将来性を含めたマーケティング情報の収集・分析力が必要になります。
思うように価格が上がらないというリスクを常に伴うギャンブル性を有するので、素人の投資には向きません。また資金面でも難しいでしょう。
 
そうなると一般的に不動産投資というと、二つ目の「インカムゲイン」を目指したものになります。
一回の収益は高額ではありませんし、投資分を回収して利益が出るまでに年月を要しますが、
事業として継続性があり、安定した収益を得られるという堅実性があります。
何より、不動産そのものに価値がある「現物資産」を保有することが大きいでしょう。

初心者向きの不動産投資
不動産を購入して賃貸経営をするとしても、オーナー自らが手掛けるのはなかなか難しいと言えます。
まして、会社員が本業の傍らでこなせるほど簡単ではありません。
ですから、大抵の場合は、不動産管理会社に業務委託をすることになります。
そのことを踏まえて、初心者が始めやすい不動産投資物件をいくつか挙げます。
 
まずは、投資金額の面でリスクの少ない物件として、中古のワンルームマンションから考えるといいでしょう。
ただし、あくまでも一般的に、占有面積の小さい物件は価格が安いということを前提にしているだけなので、
立地や築年数、設備仕様といった物件個別の魅力は、当然考慮する必要があります。
入居者がなかなか決まらないような物件は、そもそも収益が得られず投資失敗となってしまいます。
 
空室リスクを回避する方法として、「オーナーチェンジ物件」を選ぶということがあります。
オーナーチェンジ物件は入居者がそのまま居住を継続し、オーナーだけが代わる物件のことを言います。
入居者がいる状態を引き継ぐため、面倒な入居者募集作業をする必要がなく、すぐに家賃収入が得られるメリットがあります。
 
また、投資対象としてもう一つ、「駐車場」を挙げておきましょう。
駐車場経営は比較的少ない資金で始められる上に、居住用物件と違い、人の生活に伴ったトラブルや繁雑な管理業務が発生しないので、
経営面で手がかからないと言えます。
 
また、駐車場は借地借家法の適用外のため、賃料滞納やマナーの悪さなどを理由に、
貸主側から一方的に契約を解除することができます。
(ただし、実際に利用者が駐車をやめるかは別の話になります)。
駐車場の種類には、主に「月極(つきぎめ)」と「時間貸し」があります。
時間貸しは、「コインパーキング」の形態が多く見られます。
土地面積や需要の程度、予算によって、平置きか2階層以上の機械式かという選択もあります。

投資物件の種目ごとのメリット・デメリット
居住用物件にはマンション・アパート・一戸建てがありますが、投資対象として見るとそれぞれどのようなものでしょうか。
まずは、物件種目ごとの特徴、メリットなどを理解して、具体的な投資内容の検討に入りましょう。

区分マンション投資
区分マンション投資とは、マンションの1住戸を購入して賃貸経営を行う投資方法のことです。
まずはそのメリットから挙げていきましょう。
 
【区分マンション投資のメリット】
・マンション1住戸の購入で始められるため投資費用を抑えることができる
・エントランス、廊下といった共用部分の管理はマンション管理組合が行うためオーナーの手間は不要
・立地の良い物件を購入しやすいため家賃の下落リスクは低めである
・鉄筋コンクリート構造以上ならば法定耐用年数47年と建物の寿命が長い
・1住戸分の価格ならば比較的流動性が高く換金しやすい
・分散投資(複数物件への投資)をすればリスク管理がしやすい
・高額物件でなければ比較的金融機関の融資を受けやすい
 
このように、区分マンションは物件価格・物件管理・流動性・リスク管理といった、
幅広い点で投資メリットが高い物件であると言えます。
 
一方、デメリットもあるので、確認しておきましょう。
 
【区分マンション投資のデメリット】
・家賃収入が0円になる可能性がある(空室リスクが高い)
・築年数が古い物件を購入した場合デッドクロス(借入れ元金返済額が減価償却費金額を上回ってしまう現象)のリスクがある
・1投資あたりの収益が少ない
・管理体制次第で物件価値が低下するリスクがある
 
ご覧のように、メリット・デメリットは表裏になっている部分が多いです。
例えば、投資金額が手頃だとしても、収益はそれなりの分しか上がらないし、
管理の手間がかからなくても、管理組合の活動や意思決定については一つの議決権を持つにすぎないので、
万が一熱心さに欠ける組合だとマンションの劣化が進む可能性などがあります。
これらのことを理解した上で、投資対象として検討することが必要です。
特に初心者には資金的にも始めやすいので、物件選びは慎重にした方がいいでしょう。

アパート・マンション一棟建て投資
文字通り、アパートまたはマンション一棟全部の所有者となり、賃貸経営を行うものです。
それぞれの一棟投資のメリット・デメリットを順番に見ていきましょう。
 
【アパート一棟投資のメリット】
・複数の住戸を賃貸することで大きな収益が見込める
・各住戸で入退居時期が異なるので空室リスクを低く抑えることができる
・中古アパートを購入する場合(オーナーチェンジ)は、投資費用を抑えることができる
・経年劣化で建物が老朽化しても土地の資産価値は維持できる
・アパートは木造建築が多いため取り壊しも比較的簡単に行うことができる
・オーナーは自分だけなので管理体制や修繕計画などを自分の判断で行える
・資金や計画次第で管理業務を管理会社に委託すれば雑務の手間をかけずに済む
 
【アパート一棟投資のデメリット】
・管理を自分でやる場合は共用部分の清掃や消耗品の交換、入居者からのクレームなどにすべて対応しなければならない
・細かな修繕から大規模なリフォーム(外壁・内装・水回りなど)まで自分で計画・実施しなければならない
・1階や日当たりが悪い部屋など人気の低い住戸も含めて満室にするための工夫が必要
・学生を入居者層としたワンルームなどは入退居のサイクルが短く、募集・審査の業務が繁雑で空室リスクも高くなる
 
【マンション一棟投資のメリット】
アパート同様、複数の住戸を賃貸するため、空室リスクには強い投資と言えます。
また居住用の鉄筋コンクリート構造の建物の法定耐用年数は47年なので、長期にわたってマンション経営を行うことができます。
 
【マンション一棟投資のデメリット】
最大のデメリットは、投資費用が高額になることです。
そのため、万が一投資に失敗したときのダメージは相当大きなものになります。
また、管理維持に多額の費用がかかることもデメリットです。
マンションの場合、資産価値の維持を考えると管理業務は専門知識を有する管理会社に委託した方が確かですから、
その分の費用が必要になります。
15〜20年ごとに大規模修繕を行うことも必要で、それに向けた長期修繕計画も、
管理費収入と合わせた資金面を含めて素人では難しいので、やはり管理会社に依頼することになるでしょう。
 
目減りしていく資産価値とかかる経費、入居率の低下、家賃の値下げなど、将来の収支を推測して、
売却時期をあらかじめ決めておくことも必要かもしれません。

一戸建て投資
一般的には投資対象としての認知度は低めですが、一戸建てに魅力を感じて経営している投資家は少なくありません。
 
【一戸建て投資のメリット】
・中古の低価格物件ならば少額から投資を始められる
・賃貸しやすいようにリフォームなどができる
・将来的に建物が老朽化しても土地の資産価値は維持できる
・長期間の入居が期待できる
・物件の維持・管理は基本的に入居者に任せられるのでオーナーの手間はかからない
・駅から遠い立地でもファミリー層の需要がある
・将来的な投資終了時に売却しやすい
 
【一戸建て投資のデメリット】
一戸建て投資の場合、区分マンション同様、家賃収入が0円になる期間が発生する可能性があるため、
空室リスクが経営悪化に直結してしまうことがデメリットとして挙げられます。
 
また、修繕については、室内だけでなく外壁や屋根、外構などにもおよぶため、リフォーム・コストが高くなる傾向があります。
修繕の計画についてもオーナーが自分で立て、資金を蓄えておく必要があります。
 
メリットとして、「土地の資産価値が維持できる」ことを挙げましたが、土地価格は接道状況によって大きく変わります。
投資物件を選ぶ際には価格や利回りだけにとらわれず、将来の売却可能性を考えて、
接する道路幅や間口の広さ、方角、インフラ回り(電気・ガス・上下水道・通信)を確認することをおすすめします。


不動産投資で重要な「利回り」を理解しよう
不動産投資では、投資効果を測る指標として「利回り」を使います。
では、その「利回り」とはどのようなものなのでしょうか。
できるだけ有利に、かつ堅実な投資を行うために正しい知識を身につけましょう。

利回りとは
「利回り」とは投資金額に対する収益(リターン)の割合のことで、
1年間にどれだけのリターンを見込めるのかをパーセンテージで表します。
さらに「利回り」からは、投資金額をどのくらいの期間で回収できるのかも読み取ることができます。
例えば、1,000万円で利回り10%の物件を購入したとします。
この場合、1,000万円×10%=100万円ですから、
1年間に100万円のリターンが発生することになります。
よって1,000万円÷100万円=10ということになり、
物件に投資した資金は10年間で回収することができるということになります。
 
利回りが高ければ収益率が高いということですから、投資物件を選ぶ際に、利回りが重要な判断基準の一つになるということはおわかりでしょう。
自己居住のための住まいであれば、物件選びの条件は職場や学校との距離、子育てや買い物の利便性など、生活面が基準になるという点で投資物件とは大きく異なります。

利回りの種類と特徴
利回りは大きく分けて3種類あります。それぞれ違った計算方法になっていますので、
物件情報で表示されている利回りはどれを使っているのかを自分でしっかりと見極めていきましょう。
 
(1)表面利回り
「表面利回り」は、単純に年間見込める家賃収入を購入価格で割って算出した数値です。1年間入居が継続することを前提としています。
 
(2)想定利回り
「想定利回り」は、例えば「賃料○万円で、全○室が1年間満室である」というように、文字通り想定した数字で算出した数値です。
仮定として「1室が6カ月間空室だったとする」という内容を入れる場合も、「想定利回り」の計算となります。
 
(3)実質利回り
「実質利回り」は別名「ネット利回り」とも呼ばれています。「ネット」とは「正味の」という意味で、ここで言う「実質=ネット」とは
収益においては家賃収入から管理費や保険料、税額などの経費を引いて算出した純益を意味します。投資物件の購入価格についても、
仲介手数料や各種税額など購入時にかかった諸経費を算入すると、より「実質」に近づきます。
実質利回りは以下の計算式で算出することができます。
 
実質利回り=(年間家賃収入-年間必要経費)÷(購入価格+購入時の諸経費)×100
 

【利回りの計算例(実質利回り)】
利回りの計算事例を挙げておきます。算出に必要な数値情報は以下の項目と仮定します。
 
・物件購入価格(マンション区分投資):8,500,000円
・家賃:75,000円/月(年額 900,000円)
・管理費:5,000円/月(年額 60,000円)
・修繕積立金:15,000円/月(年額 180,000円)
・固定資産税:物件価格の70%に固定資産税の標準税率1.4%を掛けていきます
※土地・建物の固定資産税評価額は、地価公示価格・時価の約7割が目安。これに従い物件価格の70%で算出。
 
・この場合の固定資産税評価額=8,500,000円×70%×1.4%=83,300円
・管理費・修繕積立金・固定資産税を足した必要経費合計(年額)は、 323,300円になります。
 
利回り=(900,000円-323,300円)÷8,500,000円×100=6.784…
 
利回りはおよそ6.8%ということになります。

利回りを見誤らないようにする
利回りの種類と算出の仕方を見てきました。では、同じ物件で異なる利回りの算出をしたときにどうなるかを確認しましょう。
 
〈事例物件(区分マンション)〉
月額家賃50,000円、年間家賃収入600,000円、年間諸経費180,000円、購入価格6,000,000円、購入時諸経費500,000円で空室期間なし
 
・表面利回り
600,000円÷6,000,000円×100=10
→10%
・実質利回り
(600,000円−180,000円)÷(6,000,000円+500,000円)×100=6.461…
→約6.4%
 
ご覧のように、表面利回りと実質利回りで3.6%の差が出てきます。
ですから、表示されている数値がどの利回りとして計算されているのかを確認しないと、
後になって「こんなはずでは…」ということになりかねません。
必要な費用数値を入手して、必ず自分で利回りを計算しましょう。
 
物件情報の利回り表示では、10%を超える物件も多数見られます。
もうおわかりかと思いますが、これらの中には「表面利回り」が多く含まれます。
ですから、「高利回り」の情報だけを見ても、投資物件の本当の姿はわかりません。
実質利回りを確認するのは当然として、築年数や管理状況による将来的な資産価値の予測、
購入後にかかりそうな修繕の度合と費用の予測、
入居率や入居期間など住戸の稼働状況を過去の履歴から確認するといった、
先々の収支にかかわる情報を入手して、総合的に投資対象としての物件評価をすることが必要です。

オーナーチェンジ物件での投資とは
不動産投資の主要な手法の一つに「賃貸経営」があります。ここでは、賃貸経営を検討する際に見聞きする、
「オーナーチェンジ」または「オーナーチェンジ物件」について、どういうものなのか具体的に見ていきます。

オーナーチェンジ物件とは
「オーナーチェンジ物件」とは、マンションやアパートなどの賃貸物件で、入居者(賃借人)が住んでいる状態で売り出されている物件を言います。
旧オーナーと賃借人の間で取り交わされた賃貸借契約が継続した状態で売買されるので、買主(新オーナー)は、現状の契約をそのまま引き継ぐことになります。
文字通り所有者だけが変わるので、「オーナーチェンジ」というわけです。
 
反対に入居者が誰もいなければ、一般的な事業用物件の売買取引になるので、オーナーチェンジ物件とは言いません。

オーナーチェンジ物件を選ぶメリット
オーナーチェンジ物件は、既に入居者がいる状態なので、その分の家賃収入を物件購入後すぐに得ることができます。
空室の状態から賃貸経営を始める場合は、入居者を募集して賃貸借契約を結ばなければ、家賃収入は入ってきません。
しかもそれに至るまでには、相場を調べて貸し出す家賃を決めたり、仲介してくれる不動産会社を探したりといった、
必要な準備にかなりの期間を要します。
物件によってはリフォームを施す必要も出てきます。オーナーチェンジ物件だと、こういった手間や費用の発生も省けます。
 
また、購入当初から、決まった家賃収入が見込めるということは、購入前から収支予測が立ち、
投資ローンを組む場合でも、より具体的な資金計画をもとに借り入れを進められそうです。
 
このように、オーナーチェンジ物件は、既に事業が軌道に乗っている状態で賃貸経営ができるので、
不動産投資初心者でも始めやすいということが言えます。
オーナーチェンジ物件には、集合住宅(あるいはビル)一棟とマンションなどの一住戸の売買がありますが、
初心者ならば一住戸を対象とするべきでしょう。

オーナーチェンジ物件を選ぶデメリット
一方、当然デメリットもあります。入居者が実際に住んでいるため、購入前に住戸内を直接見ることができません。
自分がどういう部屋を貸すことになるのか、確認できないまま他の情報だけで物件を購入することになります。
 
このデメリットの回避策としては、建物の共用部分(エントランス・廊下・階段など)を確認することで、
ある程度のリスクを減らすことができます。
物件購入前に共用部分の管理はしっかり行き届いているか、清掃状態や設備の破損有無、照明の点灯状況などを確認しましょう。
また、住戸前に私物やゴミなどが放置されていないか、郵便受けに郵便物が溜まっている住戸はないかなどもチェックします。
建物の周りを見ることで、入居者の住戸内での暮らしぶりは少なからずわかるものです。
 
入居者を選ぶことができないということも、デメリットの一つです。
どういう人が住んでいるのかは、できる限り購入前に情報を入手しましょう。
家賃滞納履歴の有無はもちろん、賃貸借契約の内容を細かく確認します。
新オーナーが賃借人の同意なしに契約内容を変更することはできませんから、
貸主に不利な事項や契約上の不備が見られるなら、よく考えて慎重に購入を決めることをおすすめします。
 
これらの情報は、売主(前オーナー)または管理会社(仲介会社)に提供を求めることになります。
買主が欲しい情報がきちんと出されるかは、かなり重要なポイントです。
また、管理会社はオーナーの任意で変えることはできますが、別のよりよい管理会社を選定することはかなり大変な作業なので、
大抵は管理会社もそのままで業務委託契約を引き継ぐ形になります。
ですから、上記デメリットをできるだけ小さくするために、管理会社の経営状態、
事業方針などを含めた信頼性も確認しておくといいでしょう。

不動産投資の節税効果とは
不動産投資は節税効果が高いと言われますが、どのような税金がどの程度節税されるのでしょうか。
その仕組みを理解して、不動産投資の大きなメリットである節税効果について正しく認識しましょう。

所得税・住民税の節税について
なぜ不動産に投資することで所得税・住民税を「節税」することができるのか、その仕組みを具体例を使いながら分かりやすく解説していきます。
 
 
【総合課税制度と損益通算について】
不動産投資で「節税」ができるのは、不動産所得が「総合課税制度」の対象となっているからです。
総合課税制度とは、各種の所得金額を合計して所得税額を計算する制度のことをいいます。下記の所得が総合課税制度の対象になります。
 
・利子所得
・配当所得
・不動産所得
・事業所得
・給与所得
・譲渡所得
・一時所得
・雑所得
 
また不動産所得は、所得金額の計算上で損失が出た場合に、「損益通算」ができる所得の対象となっています。
このように給与所得と不動産所得は同じ総合課税制度を使って計算されるため、損益通算が可能になります。
損益通算とは各種所得金額の計算上生じた損失のうち、一定のものについてのみ、計算する際に他の各種所得の金額から控除することをいいます。
これにより課税対象額が少なくなるので、所得税・住民税に対して「節税」効果があるということになります。
つまり、不動産所得は、給与所得や事業所得と合算した上で、損失が出た場合、その金額を所得金額から控除できるということです。
 
【減価償却費について】
不動産所得は、「総収入金額-必要経費」で計算することができます。
必要経費が大きくなれば、給与所得と損益通算して課税所得を減額することによって、「節税」ができます。
この必要経費で最も効果を発揮するのが、「減価償却費」です。まず、建物など長期間で使用し、
かつ時間の経過とともに価値が目減りしていく資産を減価償却資産と言います。
これらは、購入時に購入金額全額を経費として計上するのではなく、使い続けると思われる期間で費用を振り分けて経費計上ができます。
これを減価償却と言い、減価償却できる期間を耐用年数と言います。
 
具体的には、4,700万円のマンションを新築で購入した場合、住宅用マンションの法定耐用年数(※1)は47年なので、
「4,700万円÷47年=100万円」と毎年減価償却費として100万円を必要経費として計上することができます(※2)。
このように、減価償却費を利用して必要経費を計上することができるため、会計上「節税」につながる場合があるのです。
 
※1税法上定められた減価償却資産の耐用年数のこと。建物の場合、構造や使用目的によって細かく年数が決められている。
※2この場合、減価償却費を期間中毎年同じ金額に配分する「定額法」が適用される。

相続税の節税効果について
次に不動産投資による相続税の節税効果ですが、まず、不動産は相続時の資産評価額(相続税評価額)が、
独自の計算方法により低く算出されるということがあります。
仮に1億円を現金で相続した場合は、そのまま1億円が相続税評価額となります。
では、不動産ではどうなるでしょうか。以下の事例にて見ていきましょう。
 
【例:賃貸事業用不動産、土地と建物1:1(5,000万円分ずつ)で1億円相続した場合】
〈土地〉
相続財産の課税評価に際して、土地は市街地なら路線価方式で、市街地以外は倍率方式で評価されます。
一般的に相続税路線価は時価(地価公示価格)のおよそ8割で評価されます。
賃貸経営をしている場合、「貸家建付地」の評価になるため、さらに評価額を減額することが可能になってきます。
 
貸家建付地の評価額は、次の計算式で算出されます。
 
貸家建付地の評価額=自用地とした場合の土地価額-(自用地とした場合の土地価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
 
「自用地とした場合の土地価額」とは、相続税路線価による評価額ということになります。
各割合の掛け率は、物件ごとに異なる部分もあるので、一概にはどのくらい減額されるかは言えませんが、
仮に借地権割合40%×借家権割合30%×賃貸割合90%減額としてこの事例に当てはめます。
2段階で計算してみますと、以下のようになります。
 
(1)土地の相続税評価額(路線価):5,000万円(時価)×80%=4,000万円
(2)貸家建付地の評価額:4,000万円-(4,000万円×40%×30%×90%)=3,568万円
 
このように本事例では、賃貸事業用の土地相続税の評価額は、時価の5,000万円から約29%削減されました。
 
〈建物〉
建物は、相続時には固定資産税評価額によって評価されます。また建物が貸借されている場合、土地と同様にさらに相続税評価額を減額できます。
 
貸家の相続税評価額は、次の計算式で算出されます。
 
貸家の相続税評価額=固定資産税評価額-(固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合)
 
借家権の価額を評価する場合の借家権割合は、基本的に30%とされています。賃貸割合を90%としてこの事例に当てはめてみると、
 
貸家の相続税評価額:5,000万円-(5,000万円×30%×90%)=3,650万円
 
結果、土地と建物を合わせた相続税評価額は、
 
3,568万円+3,650万円=7,218万円
 
となり、1億円からおよそ28%が減っています。
 
さらに、相続税は、「(相続財産総額-基礎控除額)×相続税率」で計算されます。
一方、相続税の基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×相続人の数)」という計算式で算出されます。
相続財産総額が基礎控除額を上回らなければ、相続税はかからないということになります。
つまり、相続税評価額が低くなれば、相続税がかからない、または税額が低くなる可能性が高くなるわけです。
このように、不動産投資は相続税の節税対策に有効であることがわかります。

節税効果を期待した不動産投資のリスク
最後に節税効果を期待して不動産投資を行う際に気をつけること、リスクとして知っておくべきことを記します。
 
減価償却費を経費計上することで、節税効果があることは説明しました。
しかしこれはあくまでも帳簿上の費用であり、実際の現金支出がないということをきちんと理解しておく必要があります。
つまりキャッシュフローとは異なるということです。
投資物件を購入するのにローンを利用した場合、毎月ローン返済が発生しますが、経費として計上できるのは利息分だけです。
借入元金の返済分に関しては経費になりません。
これで何が起こるかというと、返済が進むにつれて利息分が減り、元金返済分が増えることで経費に計上できない現金支出が増えていきます。
やがて元金返済額が減価償却額を上回ってしまうと、
帳簿上の不動産所得は黒字でもキャッシュフロー上では現金が不足して支払い不能な状態に陥ることになります。
 
この「減価償却額<ローン元金返済額」の状態を「デッドクロス」と言います。デッドクロスの状態が続くと、
最悪の場合「黒字倒産」の可能性もあります。
デッドクロスを回避するためには、ローン借入額を大きくしない、
元金資金が不足しないように内部留保に努めるということが挙げられます。
結局はきちんとした事業計画、資金計画と健全経営を推し進めることが最良の策ということになります。
途中の回避策としては、ローンの借り換えや繰上げ返済などがあります。
 
不動産投資における節税効果について見てきましたが、
結論としては、確かに節税にはつながるものの、それは副次的な産物であり、効果は限定的です。
ですからあまり「節税」を意識しすぎず、資産を運用するという事業本来の姿勢で収益を上げることを目標に、
不動産投資に取り組んでいくことをおすすめします。

不動産投資のリスクを減らす分散投資とは
投資にはリスクがつきものですが、投資家としてはできるだけ低くしたいですよね。
その投資リスクを低下させる手法の一つに「分散投資」があります。
では、不動産投資における「分散投資」とはどのようなものでしょうか。
その具体的な手法や効果を見ていきましょう。

投資リスクとは何か、なぜ分散投資するのか
そもそも投資においてのリスクとは何でしょうか。
それは基本的に「価格の変動」だと言えます。
例えば株式に投資していたとして、株価が値下がりして投資額を下回ったら損をするわけです。
簡単に言えばこれが投資のリスクです。
一方で、当然価格は上向きに変動することがあり、投資額を超えた値上がりをすれば、
その分資産が増えて得をすることになります。これがリターンです。
 
どの投資対象にも必ずリスクとリターンがあります。
ただし、投資対象によってリスクとリターンの幅や可能性が違います。
そのことを表すのに「ハイリスク・ハイリターン」とか「ローリスク・ローリターン」などという言葉がよく使われます。
投資をする際に、「ハイリスク」は避けたいというのは当たり前の考えですし、
できるだけリスクそのものを抑えたいとも思うものです。
 
「分散投資」とは、投資に必ずついて回るこのリスクを低減させるための手法です。
一つの投資対象に必ずはらむリスクを、資金を分けて複数の投資を行うことで回避しようというわけです。
ただし、分散させるといってもただただいろいろな商品に投資すればいいというものではありません。
適切な投資対象を選ばなければ、分散投資のリスク低減効果は十分に得られませんし、
得られるはずのリターンを逃してしまうことにもなってしまいます。
そうならないためには、投資対象の特徴を知り、回避すべきリスク、
得るべきリターンを理解した上で、分散投資を考えることが必要です。

不動産投資での分散投資の仕方
不動産投資のうち、特に現物不動産への投資は高額な資金を必要とするので、失敗したときの損失が大きいと言えます。
ではどのように分散すれば、不動産投資でのリスクが低減できるのでしょうか。
主な分散投資の仕方を見ていきましょう。
 
1.間取り・入居者属性、物件種別での分散
例えば、ワンルームや1DKなどの単身者向けの物件に投資する場合、入居候補者の属性として学生が想定されます。
そこで近隣に大学や専門学校がある地域の住戸を購入、賃貸経営を始めましたが、学校が生徒数の変動を理由に移転してしまいました。
すると現入居者は退去、次の借り手もなかなか見つからない状況になってしまいました。これは需要の変化による空室リスクと言えます。
 
このリスクを回避するために、二人暮らし向けの2LDKやファミリー向けの3LDK以上の物件を並行して投資運用していれば、
学校の移転による全面的なリスクは低減できることになります。
 
また、もともと学生や単身者は入居期間が短い可能性があります。
専門学校は2年程度で卒業になりますし、大学でも学年が上がるとキャンパスが変わることがあります。
入居者が入れ替わると、その都度ハウスクリーニングやクロスの張替え、鍵交換などを行う必要があるので、費用がかかります。
その期間が短いほど費用は増すので、これもリスクでしょう。
 
一方、ファミリー層は、いずれ持ち家を買うという展望があるとしても、転居にはまとまった費用が必要なので、
それほど短期間で住み替えをしないという一般的な特徴があります。
その点でも単身者向けの空室リスクを補っていると言えます。
 
逆の視点で見ると、学生が多い街では単身者向けの住居は借り手がつきやすいですが、
ファミリー向けは募集期間が長くなるかもしれないという反対のリスクが考えられるので、
双方がリスクヘッジし合っているということも言えます。
 
さらに、居住用物件よりもリターン幅は少ないですが、家賃滞納リスクを負わない(正確には料金滞納リスクはあるが、貸主から即時退去通告・契約解除ができる)駐車場など、
異なる物件種別への投資も分散対象として考えられます。
 
2.エリアの分散
駅からの近さや繁華街に近接している便利さなど、エリア特性による賃貸需要の高さに期待して投資をしたとします。
しかし、別の近隣の街が再開発され、人の流れがそちらに移ってしまったとしたら、投資物件の賃貸需要は落ち込むことになるでしょう。
これはエリアを重視して投資することのリスクです(前項の「学生の街」も同様のことが言えますね)。
 
この場合の分散投資によるリスク回避策としては、全く異なる環境のエリアを選ぶことで効果が得られます。
例えば、便利さよりも閑静な落ち着きを暮らしに求める人々が住むエリア、郊外にある住宅街などが想定されます。
 
また、市や区あるいは県単位で思い切って全く違う環境、違うニーズでの投資を行うことも有効です
(この場合は、管理面の煩雑さなど別なリスクが生じますが、その点は本稿では検討外とします)。
 
3.時期の分散
投資時期をずらすという意味での分散投資です。例えば、大きな資金をいちどきに高額物件に投資するということは、
もしも急に景気低迷が起きたときに大きな損失を被る可能性があります。
資金に余裕があったとしても、複数の物件に時期をずらして投資計画を進めることは、リスク回避につながります。
 
市況の変動リスク回避だけでなく、最初の投資で経営ノウハウを積めば、次の投資にそれを生かすことができ、さらに投資効果を高めることが可能です。
 
また、マンションにしても一戸建てにしても、建物には修繕が必要な時期が訪れますが、築年数や過去の修繕履歴を見た上で、それらが重ならないような物件を選んだり、
築浅の物件でも購入時期をずらしたりすることで、同時期に修繕費が必要になるというリスクが回避できます。

不動産投資には分散投資が有効
分散投資とは逆に、「集中投資」という手法があります。集中投資は、高い利益を確保できそうな対象に絞って投資をするという、
いわゆる「ハイリスク・ハイリターン」な手法です。
 
しかし、不動産投資では多額の資金が動く上、キャピタルゲインを狙う転売の場合でなければ、家賃収入などによる長期的な利益を見込んだ投資になることがほとんどです。
そのため集中投資ではなく、できる限りローリスクで安定的にリターンを確保できる分散投資が有効です。
 
高い利益を見込んだ集中投資が悪いわけではありませんが、現物不動産での賃貸経営という形での投資では、
リターンとのバランスを考えるとリスクは抑えるべきでしょう。
資金の問題もあるので、最初から複数の物件に分散投資をするということは厳しいかもしれません。
ただその場合でも、最初の投資で成果が出れば、時期を分散した次の投資が考えられます。
 
ここでは現物不動産についてのみ取り上げましたが、不動産投資信託(REIT)や不動産小口化商品といった商品との分散投資も、一つの検討対象になります。


不動産投資の概要~目的に合った投資を~
不動産投資にはいくつもの種類があり、自分の目的や資金などの状況によって好きな方法を選択できます。
それぞれにリスクやリターン、特徴は異なります。自身に合った投資の方向性を見定めるために、まずは不動産投資の概要を理解しましょう。

「現物不動産投資」について
「現物不動産投資」とは、文字通り建物などの現物不動産を所有して、そこから収益を得る投資方法です。
投資対象は、マンションやアパート、一戸建てといった居住用不動産が主流ですが、駐車場などを経営する方法もあります。
 
【居住用不動産への投資】
現物不動産投資では、自分がマンションなどを所有して大家となり、
入居者からの家賃を収益にする形が一般的です(運営を不動産管理会社に委託することもできます)。
しかし、マンションを一棟丸ごと所有するとなると、大きな利益を期待できる反面、
そもそも多額の物件購入資金(数千万円~数億円)を用意しなければなりません。
 
自分が住む家を購入するならば、金融機関から低金利で住宅ローン融資を受けられますが、
不動産投資用物件を取得目的とする融資は事業用ローンになるため、審査が厳しく金利も高くなります。
そのため、個人が副業として不動産投資を始める場合には、
一棟ではなく住戸ごとに区分された分譲マンションや一戸建てを選ぶことが多くなります。
 
しかし、見方を変えると、金融機関からの融資が得られるのなら、少額の自己資金で高額の不動産投資が可能になるとも言えます。
他人の資金を使って資産を拡大し、自己資金に対する利益率を高める、いわゆるレバレッジ効果が得られるわけです。
 
ただし、もちろん投資金額が大きい分、空室の長期化や家賃滞納による経営リスクについては
そのダメージも大きくなるので、デメリットも正しく理解しておくことが大切です。
 
【初心者でも始めやすい駐車場経営】
土地(更地)を駐車場にするには、あまり施工費用がかかりません。居住用賃貸物件と違い、
メンテナンスや運用面での手間が少なく、ランニングコストもかなり抑えられます。
時間貸し駐車場のフランチャイジー契約という選択肢もあります。
親企業の事業内容・契約内容にもよりますが、この場合は運用面でのオーナーの手間はさらに軽減されると考えられます。
 
ただし、土地を所有していない場合はその取得費用がかかるので、
上記の初期費用が抑えられるというのは、親の土地などが遊休地としてある場合に限られます。
 
とはいえ、当然更地で売り出されている土地は世の中にたくさんあり、中にはさほど高額ではない物件も見つけることができます。
その中で、駐車場需要がありそうな立地の物件を探してみるのもいいでしょう。
また、物件数は少なくなりますが、土地を借りて事業展開するという方法もあります。
 
駐車場経営は、初期費用・ランニングコストともにあまりかからないというメリットがありますが、
その反面、1台当たりの駐車料金が安いので、収益面では居住用物件の家賃収入額には及びません。
それでも駐車区画の稼働率を高められれば、実質利回りを引き上げることが可能です。
 
また、駐車場は人が居住する建物を貸すのではありませんから、借地借家法の適用を受けません。
つまり、駐車場の賃借利用に際して、貸主は利用料金の滞納や利用マナーの悪さなどを理由に契約を解除することができます。
もしも収益が上がらないので事業転換しようという場合にも、利用者に対し一方的に契約解除を求めることができます。
 
しかし、簡単に始められるがゆえに、失敗の可能性もあります。
駐車場経営には、立地の選択と利用需要があるかといった戦略的視点を持つことが大切です。

少額から不動産投資が可能な商品について
不動産投資を始めるには、多額の資金が必要になるという高いハードルがありますが、
その部分を解消して少額から投資でき、さらにリスク軽減のための分散投資が可能なのが、
「REIT」や「不動産小口化商品」です。
 
REITや不動産小口化商品では、自分が直接不動産のオーナーになるのではなく、任意の設定金額を投資し、投資金額に応じて分配される収益を得るという形になります。
両者は似ていますが、具体的な内容を見るといくつもの違いがわかります。
 
【REIT】
REIT(Real Estate Investment Trust:リート)とは、不動産投資信託のことです。
複数の投資家から集めた資金をもとに不動産を購入し、その賃貸収入や売却益が投資家に分配されるという投資商品です。
株式投資に近いものがあります。実際に、REITは証券取引所において取引されており、投資家には投資証券が発行されます。
10万円程度から投資可能であり、現物不動産投資よりもはるかに手軽に始められる点が魅力です。
 
株式投資と同じように価格変動リスクがあります。つまり、投資金額を下回るマイナス配当の可能性があるということです。
また、投資証券の売却には手数料がかかります。
 
【不動産小口化商品】
不動産の所有権を多数の持分権に分け、それを複数の投資家で共有するというのが不動産小口化商品です。
現物不動産を所有する組合に出資、または持分権を有する出資者による共同出資という形を取る点でREITとは異なります。
そして、実際に不動産の所有権を得るという点でも、証券を所有するにとどまるREITとは大きく違います。
つまり、実際の物件を投資対象にするわけですから、その物件の魅力や価値を自分なりに判断して、投資可否を決められるということになります。
投資金額は物件ごとにかなり幅が出ます。仮に一口が高額だったとしても、現物不動産のように金融機関からの融資は受けられません。
一方、所有している口数での分割が簡単に行えるため、相続対策としての二次的メリットも注目されています。

自分に合った不動産投資方法を選択する
主に現物不動産投資と少額投資ができる不動産投資商品について見てきました。
どの方法を選択するかは、自分が不動産投資に何を求めているのかによって変わってきます。
 
例えば、大きなリターンを確保したいのであれば、融資を受けて現物不動産に投資することが選択肢の上位に上がってくるでしょう。
そうではなく、リターンは少なくともあまりリスクを背負わず、
剰余資金で少額から手堅く投資したいという場合は不動産投資信託などが候補になるかと思います。
 
しかし、ここに挙げたのは、多数ある不動産投資方法、商品の一部に過ぎません。
現物不動産でもマンション一戸、四戸程度のアパート、一戸建てではそれぞれに違いがあります。
居住用以外でも、駐車場のほかに複数の投資対象があります。
不動産投資方法の概要をつかんだら、自分の目的や将来的な資金について整理し、無理のない投資計画を練りましょう。

マンション投資で重要な「管理状況」とは
「マンションは管理を買え」という言葉もありますが、マンションにおいて管理は物件の価値を左右する重要な要素になっています。
投資物件を購入する際にも、管理状況は大事な確認事項になります。
ここでは改めて管理費・修繕積立金とは何かといった基本的なことから、マンション管理の重要性を確認していきます。


「管理費」「修繕積立金」について
【管理費とは】
マンションを購入すると、毎月「管理費」の名目で定額徴収されます。
この管理費の徴収元は、区分所有者によって組織された「マンション管理組合」です。分譲マンションでは、大抵管理業務は管理会社に外部委託されていますから、
管理費の入金管理なども管理会社が行っていることが多いです。管理費の主な用途は以下の通りです。
 
・管理会社に支払う業務委託費
・管理組合の運営費
・共用部分の光熱費、その他維持費
・共用部分の保険料
・軽微な補修費
 
このようにマンションの区分所有者は、安全かつ快適に暮らす上で必要な費用を管理費として支出しています。
ですから、管理費が相場と比較して著しく安い物件などは、管理が不十分である可能性があるので注意しましょう。
 
【修繕積立金とは】
修繕積立金とは、マンションの大規模な修繕実施に備えて積み立てている費用のことを言います。
具体的には以下のときに修繕積立金が利用されます。
 
・一定の年数ごとに計画的に行う大規模修繕工事費(築後15年・20年など長期修繕計画に基づく)
・長期修繕計画に入っていない臨時的かつ金額規模が大きな改修費
・災害など不測の損害によって必要になる修繕費
 
不測の改修工事が積み重なったり、敷地内有料駐車場の空きにより見込んでいた管理組合の収入が大幅に減額したりすると、
修繕積立金が足りなくなるケースがあります。そういった場合は、徴収金額の値上げや一時負担金の支払いが発生することもあります。
ですから、マンションを購入する場合は、管理規約や長期修繕計画などを事前にチェックできると安心です。
ただし、購入を検討している段階で、マンションにとってとても大切なそれらの情報を開示してくれるかどうかは、
実際の問題としては難しいこともあります。まずは売買を仲介してくれる不動産会社に相談してみるといいでしょう。


「管理組合」について
マンションの管理組合は、マンションの区分所有者により組織された法人格を有する非営利団体です。
マンションの維持・管理を目的とし、その運営は、「マンション管理規約」を作成し、それに則って行われます。
マンションを購入すると、区分所有者は必ず組合員となります(「建物の区分所有等に関する法律」に規定)。
ここで注意すべき点は、管理組合員はマンションの区分所有者であり、マンションに実際住んでいる入居者ではありません。
あくまでもマンションの所有者のための組合になっています。
 
マンション管理組合の活動内容は以下になります。
 
・管理組合の運営
・管理規約の作成
・共用部分の範囲および管理費用の明確化
・管理組合の経理(管理費用等の徴収・収支会計の明確化)
・長期修繕計画の策定および見直しなど
・マンション管理業務における発注などの適正化
・組合総会の開催
 
これら活動内容を見れば、マンションの管理において管理組合が重要な役割を担っていることがわかります。
つまり、管理状況が良好で、マンションの資産維持につながっているかは、管理組合の活動次第だということです。
投資対象としてマンションを購入する際には、管理組合が適正に機能しているかは、ぜひ知りたい情報の一つです。
しかし、前述したように、購入前に諸々の重要書面などを入手できるかどうかはわかりません。
ただし、売主は早く売りたいと考えるのが普通ですから、仲介会社を通じて入手可否を確認してみましょう。


実際の物件管理のチェックについて
もしも要望通りに管理規約や長期修繕計画書を閲覧できたとしても、その内容が適正なのか、細部まできちんと作られているのかなどはなかなか読み取れるものではありません。
その場合は、改正・改訂日付が記されているかを確認しましょう。
新築から年数が経つにつれて、実運営と食い違いが生じることや資金面などの見直しが必要になることは、大抵のマンションで起こります。
それがきちんと検討され、修正しているかを見るために、改正などの履歴を確認するわけです。
 
あとは実際に現地を目で見て確認するのが、最も確かな方法です。
共用部分に限られますが、以下に購入前にもチェックできる、管理状況を見るポイントを挙げます。
 
【ごみ置き場】
ごみ置き場の管理がしっかりとなされていない場合、収集日にごみが散乱し、ネコやカラスが寄って来たり、「悪臭」が発生したりします。
これは居住先としてはかなり印象を悪くするので、借り手が付きにくい原因になります。
特にワンルームタイプのマンションでは、居住ルールがまだ身についていない若い単身者の入居が多いことが想定されますので、気をつけて見るといいでしょう。
 
【駐車場・駐輪場】
駐車場や駐輪場については、管理状況に加えて空き状況の確認が重要になります。
契約が満車だと入居者募集時に「駐車場空きなし」で出さなくてはならず、借り手が付きにくくなります。
反対に空きが多すぎると、管理組合の収入が不足する事態に陥る可能性があります。
 
【エントランス・廊下】
エントランスや廊下のチェックも大事です。
しっかりと清掃が行き届いているのか、個人の所有物(ごみや住戸内に入りきらない物など)が廊下にあふれていないかなどを見ます。
日常的に人が行き来する共用部分の清掃が行き届いていなかったり、個人の物が占有していたりという状態は、
管理会社の業務がずさんであることや管理組合(理事会)がルール遵守の面で機能していない可能性があります。
 
【掲示板】
掲示板に古い掲示物が残っている場合、物件の管理が行き届いていないと判断する材料になります。
 
【管理人の対応】
管理人に、自分の立場と訪問の意図をきちんと話し、尋ねたいことがあれば直接聞いてみましょう。
対応の様子はかなり参考になると思います。その際は、訪問するこちら側が礼儀正しく誠実な姿勢で臨む必要があるでしょう。


防犯性の高いマンションの投資効果と確認点
今や空き巣の手口が高度になっていたり、男性のストーカー被害も当たり前になっていたりと、
犯罪被害の対象に男女差は関係なくなっています。
そのため防犯性の高い住まいへの需要は女性ばかりでなく、男性にも高くなっています。
 
この状況を踏まえると、不動産投資を考える際に、「物件の防犯性の高さ」は優先度の高い検討要素だと言えます。
特に、一般的に防犯設備が充実していると認識されているマンションについて、
防犯性が高い物件の見方や具体的な設備を改めて確認していきましょう。

物件の防犯性と賃貸経営のリスクについて
住まい選びの際には、家賃予算や交通利便性、周辺環境の好みなどいくつもの条件がある中で、
「防犯性の高さ」は最上位には上がらないかもしれません。
でも、おそらく軽視する人もなかなかいないと思われます。
 
例えば、「家賃は予算内、立地も気に入った、でもオートロックじゃないから見送ろう」などという状況は、
よくあることではないでしょうか。
このように住まい探しをする立場で考えると、最優先の条件ではないのに、
借りるか借りないかを決める重要なポイントに「防犯性の高さ」があるということがうかがえます。
 
自宅は、最も安心できて最もくつろげる場所でなければなりません。入居者はそれを求めているのですから、
オーナーはその要求を満たす住まいを提供することで、空室リスクを減らすことができます。
つまり「防犯性の高い」物件は貸主・借主双方にメリットがあると言えるわけです。
 
反対に防犯面が心配、あるいは防犯対策が積極的に施されていない物件は、
入居を避けられる可能性が高くなってしまうということです。
ところが防犯性が低い物件のデメリットはこれだけではありません。
もしも、賃貸している物件に空き巣や強盗が入ったらどうなるでしょうか。
その借主は同じ目に遭いたくないと思い、転居してしまう可能性がとても高くなります。
さらに新たな入居者が現れる可能性も低くなるかもしれません。
 
犯罪種類が空き巣の場合、貸主側は借主に対して事件履歴の告知義務はありません。
しかし、情報が氾濫する現代にあっては、何かしらのルートで借主が知ることは想像できます。
そのときに、例え軽微な空き巣被害だったとしても、あえて犯罪被害に遭った住まいを選ぶ人は少なくなるでしょう。
こうして一度犯罪被害を受けてしまうと、その後の賃貸経営に少なからずマイナスが生じることは確かです。
 
このリスクを生じさせないためには、投資物件の購入の際には、防犯性が高い物件を選び、
住戸に積極的な防犯対策を施すことが必要でしょう。
次項以降で、マンションでの具体的な防犯面の確認ポイントを見ていきます。

外観から見る防犯ポイント
まず、マンションを外から見て確認できるポイントです。
 
【侵入経路になる箇所がないか】
例えば、塀と建物の距離が近すぎると、塀をよじ登って直接住戸のベランダなどに侵入される可能性があります。
また、マンション外部にパイプなどの足を掛けやすい物がないかも、チェックしましょう。
 
実際に、パイプや排気口のフードなどを足場にしてよじ登り、上階のベランダに侵入する事件が発生しています。
そのため、3階以上の場合も外壁側からの侵入はないと思い込まず、
侵入ルートに利用される可能性がないか、塀や建物周りの様子を確認しましょう。
 
【周囲からの目を意識する】
大通りに面しているマンションならば、通行人の目が多く、それだけで不審者にとって不都合なことがたくさん考えられます。
マンションに侵入するために付近で身を隠そうとしても目立ってしまう上、他人に目撃される可能性が高く、不審者は大胆な行動に出ることができません。
 
また、住宅街などで人通りは少ないとしても、小売店舗などがあって人の出入りが頻繁にあるというような場合は、
人に見られることを嫌う不審者には近寄りがたい環境でしょう。
 
さらに、街なかの防犯カメラの設置状況も確認しておくといいでしょう。
マンション前でなくても、そこに至る曲がり角や道筋に防犯カメラあることで、不審者に対する抑止効果があります。
 
【マンションおよび周囲に死角がないか】
マンションのエントランス付近に身を隠す場所があると、誰かが出入りするときに乗じて建物内にうまく侵入できることがあります。
また、1階のベランダや専用庭に入り込むために死角となる箇所がないか、などを確認しましょう。
 
意外なところが隠れ場所になることがあるため、自分がもしマンションに不法侵入するならばどこに身を隠すか、
またどうすれば人に見られないのか、といったことを意識しながら外から見てみるといいでしょう。

防犯を意識した設備の確認
積極的に防犯を意識しているかどうかは、マンションの設備に端的に表れています。
 
【オートロック(テレビモニター付インターホン)】
マンションの築年が新しいほど、エントランスがオートロックになっている割合は高いです。
また各住戸にはテレビモニター付きインターホンシステムが設置されていて、
エントランスと住戸玄関で来訪者確認ができるようになっている物件が多いです。
実際に顔を合わせずとも訪問客を画面で確認できるので、望まない客が建物に入ることを防ぎます。
 
今やオートロックの設置を希望する借主は多いので、マンションへの投資ならばオートロック付きの物件は検討の価値があるでしょう。
 
【監視カメラ】
マンション敷地内に監視カメラが設置されている場合も、防犯効果はかなり高いと言えます。
エントランスだけでなく、共用廊下やエレベーターなど、必ず通らなければならない箇所に監視カメラが設置されていれば、
犯罪行為の抑止力になり、入居者の安心につながります。
 
また、駐輪場やゴミ置き場などの共用施設は、死角になっていることがあります。そのような場所にもしっかりと監視カメラが設置されていることが理想です。
 
【管理員の業務状況】
エントランスに管理室などがあり、管理員やコンシェルジュが訪問客を直接目視できる状態にあれば、それだけで防犯性が高くなります。
管理員が巡回や清掃などで席を外したり、退勤して不在になったりすることなどを考えると、
オートロックが設置された上で管理員がいるという形が理想的です。
 
【郵便受け】
エントランスがオートロックの場合は、一般的には集合ポストは外からは郵便物を入れられるだけになっています。
オートロックを解除して建物内に入ってから、郵便受けの裏側で配達物を取り出します。
これにより他人に配達物を見られたり、持ち去られたりすることを防げます。
個人情報を守る意味でも、以前より重要な設備かもしれません。
 
この他、夜間の防犯対策として、共用部分の照明の設置状況の確認はとても重要です。
これまで見てきたように、侵入者の観点で都合のいい暗がりはないかを見ましょう。
また、部分的には人感センサーで点灯するライトの設置も効果があります。

遠方への転勤時、持ち家は売却か?賃貸か?
遠方への転勤が決まった場合、大きな検討事項に「自宅(持ち家)をどうするか」ということが挙げられます。
単身赴任ではなく家族全員で転居する場合は、貸すか売るかという二択になるでしょう。
最善の選択ができるよう、遠方への転勤が決まった際に考えるべきことをまとめました。

家族みんなの生活を考える
家族で持ち家に住んでいて、世帯収入を支える人が遠方に転勤することになるというのは、かなり大変な事態です。
もしも住まいを購入したばかりという場合、まず家をどうしようという考えが頭の中で先行してしまうかもしれません。
奥様(パートナー ※以下省略)の仕事の状況や子供の年齢によっても違ってきますが、
「せっかく買った家だから」と、単身赴任を選ぶ家庭もあるでしょう。
でも判断、選択の軸になるのは家ではなく、家族一人ひとりの今の生活と将来の展望です。
そこを間違えると後々悔やむことになりますから、よく家族で話し合い、熟考することをおすすめします。
 
まずは、家族の状況を冷静に判断していきましょう。重要なポイントは、子供の学校と奥様の仕事です。
引っ越した場合、子供の就学状況にどう影響するのか、現在の友達関係などにとらわれず、
上級学校への進学(大学まで)のことと、赴任期間の見通しとを合わせて考えましょう。
国内か海外かによっても異なりますが、いずれにしても将来の家庭の在り方と子供の人生を左右する重要な判断になります。
 
奥様の仕事については、収入面への影響が大きな検討要素になります。転居先でも同様の職種で働けるのか、
あるいは同程度の収入を見込める転職先がありそうか、
もしくは一旦働かなくても大丈夫かということを考えることになるでしょう。
もちろん奥様の人生の中での、現職の重要性も最大限考慮すべきでしょう。
 
決定までのプロセスとして大切なのは、将来にわたって家族をどういう形にしたいのかということと、
その中で家族一人ひとりの意見や希望を聞いているかということです。
その上で最良だと思える判断をすることが、将来的な後悔を減らすことにつながると考えられます。
そのために、具体的に問題を掘り下げて話し合いましょう。

持ち家を賃貸する場合
家族全員で転居すると決めた場合には、持ち家をどうするかという問題が発生します。
赴任期間や諸条件によって違ってきますが、選択肢をしては大きく二つになります。貸すか売るかです。
 
まず、貸す場合について見ていきます。持ち家を賃貸するメリットとしては、まず「家賃収入が得られる」ことが挙げられます。
住宅ローンの支払い中ならば、その返済費用に充てられます。住宅ローンの支払いがないのであれば、転居先での費用のほか、貯蓄などさまざまな用途に回せます。
 
もう一つのメリットは、赴任期間が終わり転勤先から戻ってきたときに、元の持ち家に住めることです。
思い入れがあり、家族の思い出が詰まっている家にまた住めるのはうれしいことでしょう。
ご近所との付き合いや家族それぞれの友好関係が再開できるのも大きいですね。
 
一方、デメリットも理解しておかねばなりません。第一に「空室リスク」があります。
持ち家を賃貸に出しても借り手がつかない、空室の期間が発生してしまうというリスクです。
この場合、家賃収入がゼロなので、住宅ローンと転勤先の家賃の支払いを二重で負担する恐れがあります。
また、持ち家には固定資産税が課せられているので、毎年その支払いが発生します。
自分で住んでいない場合は、新築住宅などに適用される税額の軽減措置も適用外になります。
 
次に「トラブル発生リスク」があります。入居者の家賃滞納、家屋や付帯設備の損傷といったトラブルは常に起きる可能性があり、
発生時には大家として事の対処に当たらねばなりません。
こういった賃貸する上での管理が煩わしい場合は、不動産管理会社に業務委託ができますが、当然その分のコストがかかります。
 
もう一つ、「再度居住できないリスク」があります。赴任期間が満了し、元の職場などに戻って来たとしても、
借主に退去の意思がなければ、貸主の都合で立ち退かせることはできません。
借地借家法による借家権では、借主の住み続ける権利が守られているからです。
つまり、普通借家契約では、「貸主がまた住みたいから」という理由では、借主に立ち退いてもらうための「正当な事由」になりません。
これを回避するためには契約形態を「定期借家契約」にして、契約時に定めた期間で必ず退去してもらうという方法があります。
ただし、これには、当初予定していた赴任終了時期と定期借家契約の満了時期がずれてしまうという、
別のリスクが発生するので、期間設定は慎重に行いましょう。

持ち家を売却する場合
続いて、持ち家を売却する場合について見ていきます。
メリットとしては、まず「住宅ローンと転勤先家賃の二重負担からの解放」が挙げられます。
持ち家の住宅ローンを抱えた上に、転勤先の家賃を支払うことはかなりの負担になります。
仮に賃貸して家賃収入が得られるにしても、必ずしも収支がプラスになるとは限りませんし、
空室のリスクも常にあります。持ち家を売却することで、これらから解放されます。
ただし、売却価格がローン残高を下回る場合は、差額を預貯金などから工面する必要があります。
反対に、もしも高く売れて売却益(譲渡所得)が生じた場合には、譲渡所得税がかかります。
 
もう一つのメリットとして、「新たな暮らしが始められる」ということがあります。
発想を変えれば、赴任期間が終わって戻ってきたときには持ち家を所有していないのですから、
そのときの家族の状況や要望に合わせた場所・建物を選び直して住むことができるわけです。
 
一方、デメリットとしては、持ち家のローン残債が一括返済できない場合は売却できないということがあります。
住宅ローンを組んでいる場合、持ち家に金融機関の抵当権が設定されています。
抵当権は住宅ローンが完済されない限り、抹消ができません。わざわざ抵当権付きの物件を買う人はいないので、
ローンの残債を支払えない場合は、持ち家の売却はまずできないことになります。
 
持ち家がすぐに売れるとは限らない、ということもデメリットになります。
売却に時間がかかれば、その間住宅ローンの支払いは続きますし、維持費もかかります。
仮に赴任した後に売却を進めることになると、仲介を依頼した不動産会社に全てお任せという形になります。
遠隔ではなかなかチェックし切れないので、不動産会社を信用するということが前提になるでしょう。
 
以上、賃貸・売却それぞれの場合を見てきましたが、当初の段階で、
赴任期間や戻って来たときの状況がどれくらい見通せるかによって、随分変わりそうです。
家族の将来像を含めて、複数の判断材料から慎重に検討することが大切です。

なぜ土地活用が必要なのか
「土地活用」とはよく使われる言葉ですが、なぜ土地活用が必要で、どのような土地活用が有効なのでしょうか。
土地活用についての基本的な知識を整理してみましょう。

土地を保有しているだけではマイナスに
【毎年かかるコストがある】
土地を保有していると、何もしなくても、毎年、固定資産税や都市計画税というコストがかかります。
つまり、土地を十分に利用しているか、土地を活用して収益を生み出していなければ、
単純計算でもマイナスになっていることになります。
 
しかし、逆に言えば、土地を活用することで収益を生み出すことはもちろん、
後述するように固定資産税や都市計画税の節税にもつながります。
 
 
【空き家認定のリスクも】
土地の上に遊休建物が残っている場合、防犯上の問題、崩壊など物理的な危険性、悪臭など衛生上の問題があり、近隣に対する迷惑にもなります。
 
また、2015年2月から「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空き家対策特別措置法)が施行されています。
この法律では、たとえば、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのあるなどの要件を満たした物件が「特定空家等」とされ、
強制的に解体されるリスクなどがあります(解体費用は所有者持ちとなります)。
 
住宅用地の場合は、特例により固定資産税は軽減されますが、
「特定空家等」に認定された場合、優遇措置が適用されなくなり、固定資産税が数倍にまで増加する可能性があります。
 
 
【相続税評価額について】
土地の相続税を計算する際には、路線価が使われます。路線価に面積を乗じて算出するわけです。
路線価の定めがない地域では、固定資産税評価額に基づいて算出します。
相続税評価額は、たとえば賃貸アパートを建築した場合などに軽減されます。
これがいわゆる土地活用による相続税対策ということになります。

土地活用で得られる効用
【土地保有は不動産経営上のアドバンテージ】
不動産投資には、土地付きの建物を取得する方法や用地取得してから収益物件を建設する方法などいくつかのパターンがあります。
しかし、一般に賃貸需要があるエリアの土地の価格は高く、土地と建物の取得価額は高額になりがちです。

 
用地取得から不動産経営をスタートする場合には数十年かかる投資回収期間が、
もしも当初から土地を保有しているならば数年レベルにまで短縮される可能性があります。
つまり、土地を保有しているだけで、不動産経営という観点では大きなアドバンテージを持っていると言えます。
 
【安定収入は老後の年金代わりに】
他の事業と比較して、不動産収入は安定性が高いという特徴があります。
土地を活用して不動産経営を行うことで、個人年金代わりの収入源となります。
 
 
【さまざまな税制優遇を利用】
固定資産税や都市計画税では、土地の上に一定の要件を満たす住宅を建築することで、
「住宅用地の特例」が適用されます。
土地面積200平方メートルまでは「小規模住宅用地」として課税標準額が6分の1に、
土地面積200平方メートルを超える部分については「一般住宅用地」として課税標準額が3分の1に軽減されます。
 
相続税では、「小規模宅地等の特例」が適用されます。たとえば、土地活用を行い、
不動産を賃貸しているような場合には「貸付事業用宅地等」に該当する可能性があり、
200平方メートルまで相続税の課税価格が50%減額されます。

具体的な土地活用例
【アパート、マンション経営】
定番の土地活用方法といえます。住戸数が確保できるため土地面積あたりの収益性が高くなる特徴があります。
 
【店舗経営、駐車場経営】
店舗用建物を建築して賃貸する方法も考えられます。
また、ロードサイドなどで店舗用地として土地だけを貸し出す方法も考えられます。
土地の賃貸や駐車場経営であれば、初期投資額を抑えられるというメリットもあります。
 
【高齢者向けの物件】
サービス付き高齢者住宅(サ高住)など、高齢者向けの住宅を建築することで土地活用を図る方法です。近年需要が増えている分野です。
 
【等価交換(立体買換え)】
土地オーナーがディベロッパーに土地を提供し、ディベロッパーの資金でマンションを建設した後、土地の一部と建物の一部を交換する方法です。
土地オーナーは資金負担なく、マンション投資を行うことができます。
また、「中高層耐火建築物等の建設のための買換え特例」(租税特別措置法37条の5)の要件を満たせば、
税額の控除が受けられるというメリットもあります。
 
【シェアハウス、民泊など】
シェアハウスや民泊向けに建物を建築することも考えられます。シェアハウスにする場合、
旅館業法の適用はないものの、部屋数、寝室面積など建築基準法上の要件を満たすことが必要となります。
これに対して、民泊を運営する場合、日数制限なく営業するためには旅館業法上の簡易宿所の許可が必要となります。
また、国家戦略特区法に基づく自治体の条例や、2018年施行の住宅宿泊事業法(民泊新法)に従い、一定の制約のもと営業を行う方法もあります。
旅館業法、特区民泊の条例、住宅宿泊事業法では建物や設備の要件が異なるため、それぞれに対応した建築方法が必要となります。


土地活用方法それぞれの魅力とは
土地活用にはさまざまな方法がありますが、それぞれに異なるメリットがあります。
どの活用方法が最適か、具体的な内容を確認してみましょう。

賃貸マンション、アパート
【安定した賃貸収入】
マンション、アパートの建設は、初期投資額が大きくなるという面はありますが、
長期にわたり安定した収入が得られるという魅力があります。
ローンの返済が終われば、その後の大きな出費として、大規模修繕のプランニングをしっかりしておくことで、
家賃収入を生活費や個人年金の代わりに老後資金に充てることも考えられます。
 
【固定資産税・相続税から見たメリット】
土地は一般的に更地の状態であれば、評価額を課税標準として固定資産税や都市計画税が課税されます。
しかし、土地の上にマンション、アパートなどの建物を建築することで課税標準の特例が適用され、課税標準額が減額されます。
 
具体的には、200平方メートルまでは小規模住宅用地として課税標準額が6分の1に、
200平方メートルを超える部分については、住宅用地として課税標準額が3分の1に軽減されます。
 
また、新築建物についても固定資産税の軽減措置があります。
たとえば、マンション、アパートの場合、居住用部分の床面積が1戸につき40平方メートルから280平方メートルの場合、
120平方メートルまでの部分について固定資産税が2分の1に減額されます。
 
減額の期間も「3階建て以上の中高層耐火住宅等」、すなわちマンションなどに関しては5年間にわたり減額されるため、
建物分の負担軽減という意味でも魅力的です。
 
相続税に関しては、まず、土地が「自用地」という扱いから「貸家建付地」として扱われることにより、
評価額が80%程度に減額されます。
また、建物についても、「貸家」として評価されるため、通常の固定資産税評価額から「借家権割合」
(30%の地域がほとんど)を控除することにより、70%程度に減額されます。

等価交換マンション
【等価交換とは何か】
等価交換は、立体買換えとも呼ばれ、土地オーナーが用地を提供し、ディベロッパーがそこにマンションなどの建物を建築した後、
土地所有権の一部と引き換えに、
土地オーナーが完成したマンションの区分所有権を得るものです。
つまり、土地の一部とマンションの一部を等価で交換することから、そのような名称となっています。
 
【等価交換のメリット】
等価交換では、土地オーナーが建設資金を負担することなく、土地活用が図れるというメリットがあります。
 
また、通常であれば、土地の一部を譲渡した際に譲渡所得に対し課税されますが、
「中高層耐火建築物等の建設のための買換え特例」(租税特別措置法37条の5)を適用することにより、
土地譲渡益への課税を繰り延べることができるというメリットがあります。

高齢者向け住宅
【どのような種類があるか】
高齢者向け住宅としては、サービス付き高齢者住宅や住宅型有料老人ホームなどの種類があります。
そのうち、サービス付き高齢者住宅は介護を必要としない高齢者向けの住宅で、建築に際してもさまざまな便宜が図られています。
 
サービス付き高齢者住宅は「サ高住」や「サ付き」とも呼ばれ、介護サービスが提供されない代わりに自由度の高い生活が送れることや
「高齢者住まい法」により入居者の同意のない一方的な契約解除が制限されていることから、利用者側から需要が高い物件ということができます。
 
【メリットについて】
サービス付き高齢者住宅を建設することで、物件情報が一般社団法人 高齢者住宅推進機構が管轄する情報提供システムに掲載されます。
そのため、入居者の募集がスムーズに行われるという特徴があります。社会の高齢化が進む中、
需要が安定していることから、賃貸物件としての安定収入という面でも期待できます。
 
また、土地および建物の固定資産税、不動産取得税に関して軽減措置が設けられているほか、所得税法上、
物件の取得価額について割増償却ができるなどの優遇があります。
さらに、新築および改修時に補助金を利用できるというメリットもあります。

不動産投資の必要経費と確定申告について
賃貸経営などによる不動産所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて算出されます。
ですから、必要経費が大きければ所得金額を低くすることができます。
課税対象となる所得金額が下がれば税金も下がるので、「節税」効果が高まることになります。
適正かつ効果的に節税するために、「必要経費」を具体的に理解しておくことは必須です。
合わせて確定申告方法も確認しておきましょう。


不動産投資の必要経費
不動産投資の必要経費とは、基本的に不動産投資にかかった費用のことです。
ですから、私用で使った車のガソリン代は必要経費になりませんが
、物件を管理するためや不動産会社との打合せのために使ったガソリン代は必要経費になります。
このように、同じガソリン代でも「何のために使ったのか」で必要経費になるケースとならないケースがあります。
 
では、具体的に不動産投資の必要経費とはどのようなものなのでしょうか。下記に列挙していきます。
 
【税金】
購入時にかかる登録免許税・印紙税・不動産取得税、毎年納める固定資産税・都市計画税は、経費として認められます。
また、自動車税も必要経費として認められます。所得税・住民税・法人税などは必要経費としては認められないので覚えておきましょう。
 
【修繕費】
投資物件の維持管理や原状回復にかかった修繕費は、「必要経費」として認められます。
しかし、物件の機能を向上させる修繕行為は必要経費として認められません。
固定資産の追加支出(減価償却資産の「資本的支出」)として計上し、減価償却していくことになります。
 
具体的には外壁の塗装や劣化・損傷した設備の修繕・交換などは必要経費として認められますが、新たにスロープを設置したり、
手すりを取り付けたりといったことは機能向上のための費用とみなされ、固定資産として計上することになります。
 
【減価償却費】
建物など経年で価値が目減りしていく減価償却資産は、購入にかかった費用を一括ではなく、耐用年数に振り分けて経費計上ができます。
これを減価償却費と言い、実際に現金を減らすことなく帳簿上「必要経費」として計上できるため、節税効果の高い費用とされています。
 
【保険料】
火災保険や地震保険などの保険料も、必要経費として認められています。
 
【管理費】
管理を委託している不動産会社に支払う管理費用も、必要経費として認められます。
 
【入居付けの費用】
「入居付けの費用」とは、入居者募集のための広告宣伝費などです。
入居付けを不動産会社に依頼(仲介)している場合は、その不動産会社に支払う費用になります。
費用名目は、不動産会社ごとにいろいろあります。
 
【不動産の情報収集・勉強のための費用】
不動産投資の情報収集や勉強のために買った新聞代・書籍代、セミナー受講費用なども、必要経費として認められます。
しかし、資格取得費用は、「個人の能力向上のため」との判断から、不動産関連の資格であっても必要経費として認められません。
 
【交通費】
業務に関連する交通費は、経費として認められます。
公共交通機関を利用した場合は、領収書の代わりに明細が分かる「旅費精算書」を作成しておきます。
 
【ローン金利】
不動産投資ローンの「支払利息」は必要経費として認められています。しかし元本は必要経費にならないので注意しましょう。
なお、対象となるのは、建物取得分についてのみで、土地取得費用については計上できません。
 
【その他】
不動産取得時に登記手続きを依頼した司法書士や税務を依頼した公認会計士(税理士)に対する報酬も、必要経費になります。


不動産投資の確定申告
不動産投資で利益が出た場合、必ず確定申告しなければいけないわけではありません。
給与所得および退職所得以外の所得が20万円を超えた場合、確定申告をする必要が出てくるのです。
この場合の不動産所得は総収入金額から必要経費を差し引いた額になります。
 
ですから、給与および退職金以外の所得が20万円を1円でも上回れば確定申告をしなければならないということになります。
ただし赤字の場合は、確定申告することで最長3年間損失の繰り越しができ、将来黒字になったときに節税につなげることができます。
なので、利益が出ない場合でも確定申告をすることをおすすめします。
 
【白色申告とは】
単式簿記で確定申告を行う確定申告方法です。白色申告は、申告書の記入や確定申告の手続きが簡単であることがメリットになっています。
 
【青色申告とは】
青色申告では、必要な帳簿の種類と記帳の仕方が白色申告よりも複雑になります。
事前に(青色申告をする年の3月15日まで)、「青色申告申請承認書」を税務署に提出する必要があるなど、
手続きが白色申告と比較して煩雑ですが、以下のようなメリットがあります。
 
〈青色申告特別控除〉
青色申告で確定申告した場合、最大65万円分の特別控除を受けることができる(事業的規模と認められた場合)。
 
〈純損失の繰り越し控除〉
青色申告で確定申告した場合、3年間赤字を繰り越すことができる。
 
〈青色事業専従者給与〉
青色申告で確定申告した場合、家族への給与も経費にすることができる。

不動産投資が「事業的規模」の場合
アパート・マンション経営で、賃貸住戸が10戸以上ある場合や貸家が5棟以上ある場合などは、
投資が「事業的規模」であると認められます。
不動産投資が事業的規模であると認められた場合、以下のメリットがあります。
 
・最大65万円の青色申告特別控除が受けられる
・不動産の取り壊し等による資産損失を全額必要経費として計上できる
・賃料回収不能になった場合、貸倒要件を満たせば貸倒金を必要経費(貸倒損失)として計上できる
・家族への給与支払いがある場合、青色事業専従者給与または白色事業専従者控除の適用を受けることで必要経費として計上できる
・個人事業税は課税されるが、その分は必要経費に計上できる
 
最初からこの規模で投資を始めることはあまりありませんが、知識として覚えておきましょう。

賃貸経営でのランニングコストについて
事業を営むには、必ずコストがかかります。大別すると、立ち上げまでにかかる初期費用と、事業を始めてから継続的にかかるランニングコストがあります。
ここでは賃貸経営でかかるランニングコストについてまとめていきます。

ランニングコスト 1 〈税金〉
【固定資産税】
固定資産税は、毎年1月1日時点で固定資産(土地、家屋および償却資産)の所有者に対して、市町村(東京23区は都)により課される地方税です。
税額は、原則的に固定資産税課税標準額に対して税率1.4%を掛けて算出しています。
 
固定資産税の納期は各自治体により異なりますが、おおよそ4~6月頃に納税通知書の郵送にて通知され、ほとんどの場合、6月・9月・12月・2月というように、第1期~第4期に分けて支払う形です。
 
支払方法は、金融機関や郵便局、コンビニエンスストアなどに同封されている納付書を持参し、
現金のほか、クレジットカードや電子マネーでも支払うことができます。
ただし、自治体によってはクレジットカードが使えないこともあるので、注意が必要です。また、年4回の分納の他、一括納付もできます。
 
【都市計画税】
都市計画税は、毎年1月1日に原則として市街化区域に所在する土地、家屋を所有する所有者に対して、
市町村(東京23区は都)により課される地方税です。
税額は固定資産税課税標準額に0.3%を掛けて算出します。
都市計画税と固定資産税の納税通知書は一緒に送付されますので、納期も固定資産税と同じです。
 
【所得税・住民税】
毎月家賃収入が得られるなら、それに対して所得税などが課税されます。
不動産所得は、家賃収入のほか、返還しない礼金や共益費などの名目で受領する金銭を含む総収入金額から、
必要経費を引いた金額になります。上記の固定資産税・都市計画税は、必要経費として認められています。

ランニングコスト 2 〈管理費〉
【管理委託費(建物管理)】
管理委託費は、マンションの維持・管理のための業務全般を、外部管理会社に委託したときに発生する費用です。
いくら払うかは、契約時に取り決める業務項目と内容により異なります。
毎月定期発生する業務、年間で何度かやればいい業務、突発的に対応を要する業務などがあります。
退去が発生した後の室内クリーニングや修繕などは、建物管理に含まれます。
 
【管理委託費(入居者管理)】
借主が退去したときに、マンションの入居者を募集したり、入居者から家賃を回収したりといった、
入居者管理業務に対しても管理委託費が必要になります。
中には、家賃を滞納する借主も出てくるかもしれませんが、滞納の確認連絡や督促といったことを業務内容に含む契約をしていれば、対応は管理会社が行ってくれます。
これらは、直接収益にかかわる部分なので、迅速に対応してくれる会社を選びたいものです。
 
この他、騒音や暮らし方から起きる入居者同士のトラブルやクレームへの対応もしてくれます。
ただし、業務内容やサービス範囲は会社ごとに異なりますので、都度確認が必要です。
 
また、合わせて家賃保証会社を利用することもできます。
家賃保証会社に一定の保証料を支払うことで、
賃料・管理費・駐車場料金といった毎月借主から支払われることになっている費用に滞納があった場合に、
代わりに貸主に対して弁済してくれます。
保証料は借主負担とするのが一般的ですが、賃料に含めるのかなどの条件設定は貸主の任意です。
月の支払い総額が増えると、入居者募集時に避けられる可能性があるので、
賃料とのバランスや相場には留意が必要です。
 
【修繕積立金(区分マンション投資の場合)】
マンションでは、大規模修繕や不測の災害に備えて修繕金の積み立てを行っています。
区分マンション投資を行う場合には、他の区分所有者と同じように、毎月マンション管理組合に「修繕積立金」を支払います。

 
【管理費(区分マンション投資の場合)】
分譲マンションでは、マンション全体の管理業務はマンション管理組合が行っているので、それにかかる費用は区分所有者が分担します。
区分マンション投資を行う場合には、修繕積立金と同様、毎月マンション管理組合に定額の管理費を支払います。
 
【点検・清掃費】
一棟マンションやアパートなどの場合、別途建物の保守点検費用や清掃費がかかります。
例えば、エレベーターの法定点検、植栽の剪定、貯水槽清掃、水回りの高圧洗浄などがあります。
 
【リフォーム費】
入居者の入れ替え時に、原状回復としてリフォームを行うときの費用です。
「原状回復」については、入居者(退去者)の負担範囲と家主の負担範囲でトラブルになることがあるので、
入居者との契約時に明確に取り決めておくことが必要です。
間に管理会社が入る場合は、オーナーにとっては業務自体は楽ですが、修繕内容や費用が不明瞭になることがあるので、
管理会社との取り決めや報告手順なども明確にしておくことをおすすめします。
 
【修繕費】
エアコンや給湯機の取り換えなどにかかる費用は修繕費になります。必要の都度、別途実費がかかります。
 
【広告費】
入居者を募集するためにかかる広告費用のことです。
不動産情報サイトへの情報掲載料、情報誌・折込チラシなどへの広告出稿料などです。
個人では手配できないので、入居者管理を委託している不動産管理会社が必要に応じて代行します。

ランニングコストを抑えるには
このように、賃貸経営にはさまざまなランニングコストがありますが、必ずしも全てかかるわけではありません。
また、オーナーが意識することで、コスト削減できることもあります。
 
【管理会社の選び方】
管理会社は、管理業務全般を行いますが、その業務の範囲や料金はさまざまです。
どの程度の管理を、どのくらいの料金で行ってくれるのかをしっかり調査し、複数の管理会社を比較した上で選びましょう。
もちろん安いだけでなく、信頼して業務を委託できるかが重要です。
 
業務委託契約を結んだ後でも、年度ごとなど定期的にサービスに見合った料金かどうかを、
見直してみて、よりよい管理会社がないかどうかを検討してみることも必要です。
 
【管理会社との連携】
管理会社がいろいろやってくれるからといって、丸投げしないことも大切です。
保有物件がどのような状態で、何か問題になっていることがないかなど、こまめに情報が得られるようにしておきましょう。
管理会社と良好な関係を築いておけば、物事が何かと効率的に運び、結果として経費削減につながることが期待できます。
 
【清掃はこまめに、メンテナンスは迅速に】
ついつい月々のランニングコストを低く抑えようとしてしまうかもしれませんが、清掃はこまめに丁寧に行いましょう。
電灯の交換や軽微な不具合に対するメンテナンスはできるだけ迅速に処理しましょう。
日頃から可能な限り、物件を正常な状態にケアしておくことが大切です。
大規模な修繕が必要となったときに、予定外に費用が膨らむリスクを抑えることにもつながります。
 
月々のコストは割高に見えるかもしれませんが、こまめな清掃と修繕を続けていれば、結果的には、
ランニングコストを低く抑えることが期待できます。
 
【確定申告を自分で行う】
確定申告を税理士に依頼した場合、売上規模によっても異なりますが、5万円〜10万円は費用がかかります。
もしも確定申告を自分でするならば、この費用をカットすることが可能です。
比較的簡単に記帳が行える会計ソフトもあるので、思ったよりもハードルは高くないかもしれません。
 
【その他】
不動産投資ローンを借り入れている場合、住宅ローンと同様で、返済途中で借り換えをすると返済金額を減額できることがあります。
もっと良い融資条件がありそうだと思ったら、まずは自分でシミュレーションした上で、「借り換え相談」を行っている金融機関に相談してみましょう。
 
また、投資が順調に進み、保有する不動産物件が複数になったなら、事業化(法人化)するという方法もあります。
事業化するほどの規模になると、それだけ所得金額も多くなるわけです。
所得金額が多いと支払う税額も高くなるので、そうなると法人化した方が諸々の節税対策が有効になってきます。

「不動産投資ローン」を知ろう
不動産投資物件を購入する場合、一般的な自己居住用の住宅ローンは利用できないため、
不動産投資ローンを組むことになります。

「不動産投資ローン」とは
一般的な住宅ローン(以下住宅ローン)と「不動産投資ローン」の違いは、その目的にあります。
住宅ローンの場合は、自分が住むための家の購入資金としてローンを組みますが、
不動産投資ローンは、第三者に貸すなどして事業収入を得るための物件を買う資金として、ローンを組みます。
つまり不動産投資ローンの場合、ローン契約者は物件から収益を得る事業者という立場になるわけです。

一般的に、不動産投資ローンを含む事業者に対するローンは、住宅ローンに比べると審査が厳しく借りにくくなっています。
その辺りを含めて、不動産投資ローンについて具体的に見ていきましょう。
 
【不動産投資ローンと住宅ローンの違い】
不動産投資ローンの特徴は、その「事業性」に融資するという点にあります。
ですから、契約者の「属性(年齢・勤務先・年収など)」や「個人信用」が審査の中心である住宅ローンとは違い、
事業として成功する見込みはあるのかが、審査の最大の可否規準になります。
つまり、事業として「収益性」があるのか、「継続性」が見込めるのかということが重要なのです。
なぜなら、不動産投資ローンの返済原資は、投資対象の不動産から得られる事業収益だからです。
金融機関が事業の成否予測を厳しく見るのは当然のことと言えます。
 
投資物件の収益性が高ければ、不動産投資ローンの審査に通りやすくなるということを踏まえて考えると、
金融機関に事業収益・継続を示しやすく、理解してもらいやすい物件として「オーナーチェンジ物件」が挙げられます。
既に入居者がいる賃貸物件を引き継いで経営すればいいわけですから、現状で入居率が高く、
資金計画などに問題がないことを事業計画として提示できれば、比較的ローン審査が通りやすくなると考えられます。
 
【どのくらい借り入れできるのか】
会社員の場合、住宅ローンの借入金額は、おおむね年収の5倍~6倍程度が上限となるのが一般的です(例:税込年収550万円で借入額2,750万円)。
不動産投資ローンでは諸条件にもよりますが、事業計画が整っている場合は住宅ローン以上の金額が融資される可能性が高くなります。
 
ただし、その際は事業性が評価されることと合わせて、事業主個人の属性・信用も見て総合的に判断されることになります。
最も重要なのは、投資事業の収益性・継続性ということに変わりはありませんが、会社員の副業として投資を行うならば、
もしも本業の給与収入が減少したり不安定な状態に陥ったりすると、おそらく投資事業の収益分(家賃収入など)から生活費などを補填することになるでしょう。
 
金融機関側は、それを返済滞納リスクとして捉えるので、ローン契約者である事業主の属性についても決して軽視はしません。
ですから住宅ローンと同様に信用情報にも気を配り、他の債権についてはきれいにしておく必要がありますし、
勤務先や勤務形態についても安定性が高い方が有利であることに変わりはありません。

不動産投資ローンのメリット・デメリット
【不動産投資ローンのメリット】
不動産投資ローンの大きなメリットとして「レバレッジ効果」があります。レバレッジとは「梃(てこ)」または「梃の原理」という意味で、
投資用語としては、少しの作用(投資)で本来想定される以上の結果(利益)が得られることを表します。
 
例えば、自己資金が1,000万円あるとします。自己資金で購入金額1,000万円・年間収益120万円(月額収入10万円)の賃貸事業用物件を買うと、
利回りは12%です(諸費用・税額などは除外した単純計算のみ)。
 
一方、購入金額3,000万円の賃貸事業用物件を買うとします。購入に際しては自己資金1,000万円を使い、残り2,000万円は金融機関からの融資とします。
利回りは上記と同じ12%だとすると、年間収益は360万円(月額収入30万円)となります。
ただし、融資には利息がかかるので、仮に金利4%で初年度の金利支払い分を2,000万円×4%=80万円とします。
360万円から80万円を差し引くと、年間収益は280万円に変わります。
 
つまり、自己資金1,000万円は同じなのに、融資を得ることで年間収益が160万円増えたわけです(280万円-120万円=160万円)。
これが「レバレッジ効果」と言われるものです。
 
実際には毎月のローン返済がありますし、実質の収入額なども違ってくるので、
これはあくまでもレバレッジを理解するための簡略化した説明と考えてください。
ただ、ローン完済後はさらに効果が高まるということも言えます。
 
【不動産投資ローンのデメリット】
不動産投資ローンを組むことでのデメリットは、常に返済滞納リスクを負うということでしょう。
空室状態の長期化や市場動向による賃料値下げによる収益の低下は、
ローン返済の原資が目減りするということですから、返済滞納に直結してしまいます。
そうなるとレバレッジ効果が薄れるのはもちろんのこと、
最悪の場合、投資物件を処分した上で事業撤退という可能性が出てきます。
 
もともと不動産投資ローンは、住宅ローンに比べて金利設定が高めになっていますから(これもデメリットの一つと言えます)、
物件の利回り・実際の月間収入額と借入金額・返済月額を見極めて無理のない資金計画を立てることが大切です。

ローン審査を通過しやすくするには
ローン審査には「信用」が欠かせません。融資をする金融機関は基本的にビジネスですから、
「最後まで返済が見込める」事業者にしかお金を出しません。
つまり、返済に対する不安要素があると、それだけローンの審査は通りにくくなるということです。
 
例えば、クレジットカードを何種類も保有していたり、他に大きな損失を被る可能性がある副業をしていたりといった要素があれば、
「信用」という点ではマイナスに作用してしまいます。
クレジットカードは解約して枚数を減らしたり、限度額を引き下げたりという対策をしておきましょう。
不安定な副業ならばきっぱりやめて、返済に対するリスクはできるだけ排除しておきましょう。
 
一方で、しっかりとした事業計画を提示して、ローンの返済に対しても計画性があると見なされれば、審査も通りやすくなります。
例えば、資産価値や収益性の高い物件をしっかり選び、データに基づいた賃貸経営の展望、
収支予測を練り上げれば、融資側の評価が得やすくなるでしょう。
 
ローン審査も、最終判断は結局「人」です。自分の手元にあるものが、融資する側にとって安心材料になるのか、
逆に不安要素になるのかを客観的に判断した上で、不動産投資ローンを検討しましょう。


賃貸経営で必要な「修繕」について考えよう
賃貸物件への不動産投資では、入居者から継続的に家賃を得ることが目的となります。
しかし、建物は居住や経年によって必ず劣化するため、修繕をしていかなければなりません。
修繕や管理が十分にされていない物件では、入居希望者が現れず空室状態になってしまうこともあります。
そうならずに投資効果を上げていくための、賃貸物件の「修繕」とはどのようなものかを考えていきましょう。

入居者確保に必要な「修繕」
必要な修繕がされていないために住戸内の壁紙に汚れや剥がれがあるとか、
水回りに水アカやサビ・カビ目立つといった状態では、物件見学者の入居希望意欲を奪いかねません。
加えて外壁や屋根にヒビや欠損があると、その建物の第一印象が悪くなるばかりか、
雨漏りなど住宅としての機能そのものに疑いを持たれてしまいます。
 
こういった理由によって入居者が見つからない場合、家賃収入が得られないので、当然投資収益は下がってしまいます。
入居希望者に魅力を感じてもらい入居を促すためには、積極的かつ計画的に修繕を行い、常に物件を良い状態にしておく必要があります。
 
賃貸物件では、1~2年の短期間で入居者が入れ替わることがあります。
入居者が変わるたびに大規模な修繕やリフォームをする必要はありませんが、原状回復の施工範囲を基本として、
内装や設備への十分な点検や修繕をしておくことは必要です。
入居希望者は、内見時にオーナーが思っている以上に細かい部分を見ているものです。
点検時は、できるだけ細部まで気を配りましょう。

「修繕」の種類に分けて考える
賃貸経営における修繕は、その頻度・内容によって種類を分けて考えると、対応の仕方がよくわかり、
費用の準備もしやすくなります。
日常的な修繕から大規模修繕まで、三つに分類してそれぞれの内容をまとめました。
 
【日常的な修繕】
日常の清掃や管理業務の中で見つかる不具合や、損傷などに対応する修繕です。
住戸内(専用部分)と住戸外(共用部分)で分けて見ていきましょう。
 
住戸内では、主に備え付けの設備機器の不具合が挙げられます。
例えば、給湯器や空調の動作不良などです。ガラスの破損などもあります。
これらは生活そのものに支障が出ることなので、入居者からの連絡により修繕案件として発生し、至急の対応が求められます。
 
住戸外では、門扉の開閉不具合や門灯など屋外灯の破損などがあります。
切れた電球の交換を修繕(費)とするか消耗品費とするかは、帳簿上での任意設定になります。
 
基本的には、どちらも突発的に発生する不具合に対する修繕です。生活に不便が生じるものが多いので、
できるだけ早い確認・手配・施工が必要です。
ある程度の発生件数を想定して、修繕予算を確保しておくとよいでしょう。
 
【退去時に発生する修繕】
基本的には「原状回復」のための修繕施工になります。従って、借主が専用していた住戸内に限定されます。
主な修繕内容としては、壁・天井クロスの張替え、畳交換、床張り替え(フローリング他)があります。
この他、使用期間や劣化の度合いにより、浴槽や便器の交換、水栓・給湯器の交換、
空調機器の交換、調理器具の交換などが必要になります。
また、ハウスクリーニングは必ず行い、住戸の鍵交換も必須となります。
 
民法の規定(第621条)では、借主は住居を通常使用していたならば、
その中で生じた住居の損耗や経年による劣化については原状回復義務を負わない、とされています。
しかし、これは任意規定なので、貸主と借主の負担割合などについては、賃貸借契約において自由に定めることができます。
とはいえ、あまり借主の負担を大きくすると入居を避けられてしまうので、
家賃とその他条件との兼ね合いを熟考して決めましょう。
 
いずれにしても、契約期間満了ごとに退去するという前提で、修繕費用(原状回復費用+アルファ)を確保しておくくらいが安全でしょう。
 
【長い周期で必要になる大規模修繕】
大規模修繕は、10年・15年など、長い年月を経て生じる老朽化や不具合に対して行う点検・工事のことです。
一般的にはマンションで実施されるイメージですが、ここでは各物件種別についても、大規模修繕の観点を用いて見ていきます。
 
「一戸建て」は、建物外観と外構が修繕対象になります。まず建物の外観部分では
、外壁の修復・塗装、屋根の修復・葺き替えが大きな施工内容になります。
外構については、塀や門扉、駐車スペース、アプローチ、植栽のメンテナンスの他、
水回りをはじめ配管の検査・修理が考えられます。
 
修繕には一定の工期が必要になるので、借主が居住中に施工するか、
退去のタイミングで一旦空室期間を設けて一気に修繕してしまうかは、計画次第です。
空室の状態で施工する場合は、構造部分の点検や住戸内の修繕もまとめて施工できるメリットがありますが、
当然その間家賃収入は得られません。
 
「アパート(一棟)」は、建物外観と共用部分、外構が修繕対象になります。
外壁や屋根の他、エントランス、階段、廊下、駐輪場といった箇所が対象となります。
鉄部塗装などが必要になる場合もあり、サビや腐食が進んでいると交換の可能性もあります。
給水システムの点検・メンテナンスも必要でしょう。
 
各住戸については、例えば給湯設備の使用期間が同じで、相当年数が過ぎているならば一斉に交換してしまうというやり方もあります。
予算とそのときの状況による判断になります。
 
大規模修繕は高額になるので、費用は計画的に積み立てていくことが必要です。
それにはある程度の精度を持って、修繕範囲と施工内容・時期を予測した計画策定が必要です。
 
「マンション(区分所有)」では、マンション管理組合が策定している長期修繕計画に沿って大規模修繕が行われます。
修繕費用は、区分所有者が毎月支払う修繕積立金によって賄われます。
従って、大規模修繕が行われる時点で管理組合の理事などになっていない限り、自ら修繕を手配することはありません。
 
ただし、マンション管理組合による大規模修繕は、建物外観・共用部分が施工対象ですから、住戸内(専有部分)に関しては、
長期間使用での損耗による修理・交換は自分で手配する必要があります。
特に水回り箇所の交換(システムキッチン、ユニットバス、トイレなど)は高額になりますので、
別途費用として積み立てておくことをおすすめします。

修繕計画を立てる際の注意点
【修繕計画は見直しが必要】
せっかく修繕計画を策定しても、そのまま放置しては意味がありません。
特に長期修繕計画は、日常のメンテナンスや短期での修繕対応によって、変更が生じます。
こまめなメンテナンスによって大規模修繕の必要時期が延びたり、修繕箇所が減ったりするのはよくあることです。
 
長期修繕計画は、一般的に5年をめどに見直しが必要だと言われています。
損耗・劣化がどの程度進んでいるかを確認して、計画を修正していきましょう。
それによって費用の積み立て状況も変わってきます。
見直しのスパンは所有物件の状況により適宜判断していきましょう。
 
また、原状回復のための「修繕」だけでなく、入居者にとってより有益な環境にする「改修」も検討するといいでしょう。
時代の変化や技術の進歩によって、社会のニーズは変わっていくものです。
物件の競争力を強め、資産価値を高めていくためには、新たな設備や機能の導入は大切です。
 
【分譲マンションの長期修繕計画を参考に】
分譲マンションで策定される長期修繕計画は、
国土交通省が示している「長期修繕計画作成ガイドライン」が基になっていることが多いです。
物件の種別は違っても、修繕計画を考えるときに、
基本的な策定の仕方や項目など参考にできることがあるので、一度確認してみることをおすすめします。

「リバースモーゲージ」とはどんなもの?
老後の資金をどのように作るかは、ライフプランを立てる際の重要な課題です。
その資金調達方法の一つに、「リバースモーゲージがあります。


リバースモーゲージの仕組み
「リバースモーゲージ」とは、持ち家に住んでいる人を対象にした融資制度です。
自宅を担保にして金融機関から老後資金の貸し付けを受け、自分の死後に自宅を売却して返済をするというものです。
 
リバースモーゲージは、老後の資金をサポートすることが目的ですから、融資条件に年齢制限があります。
金融機関により異なりますが、おおむね55歳以上または60歳以上に規定されています。
また、融資対象は夫婦二人暮らしおよび一人暮らしの高齢者に限られます。子供が同居している場合は対象外となります。
自宅の一部を賃貸している場合も融資は受けられません。
 
融資金額は、持ち家の担保評価額によるので、個別の設定になります。
担保不動産を一戸建てに限定している金融機関があるので、必ず確認しましょう。
 
返済は毎月利息分のみを支払います。金利タイプは大抵変動型金利が適用されます。
元本金額については、借入契約者の死後、担保不動産を売却処分することで一括返済という形を取ります。
この点が通常の住宅ローンなどとは大きく異なる部分で、毎月の返済に追われることなくゆとりを持って老後生活が送れる仕組みになっています。
 
金融機関によっては、資金の「使いみち」が返済中の住宅ローンからの「借り換え」でも融資可としているところもあるので、
住宅ローンの残債がある人でも利用の検討は可能です。
 
高齢になると生活費のほか、医療費や介護費用の心配も出てきますが、リバースモーゲージは毎月の返済金額に圧迫されることなく、
必要な用途に充てられるということで、老後の暮らしをサポートする融資制度となっています。

リバースモーゲージのメリット
リバースモーゲージは、仕事を引退した定年後、年金のみでは生活が不安な場合でも、
持ち家さえあれば生活費の不足を補えるということが、最大の利用目的であり、メリットでもあります。
 
定年後の生活資金に余裕がない場合、自宅を売却するのも選択肢の一つですが、そうなると転居をしなければなりません。
リバースモーゲージを利用すれば、自宅に住み続けながら老後資金の融資を受けられるため、身体的にも精神的にもストレスが少ない資金調達方法と言えます。
 
また、借り入れた資金の使いみちは、一般的には「生活資金」とされていますが、老人ホームや介護施設への入所費用に充てられる場合も多いです。
高齢になると、融資を受けるのが難しくなる上、病気やケガにより、まとまったお金が必要になる可能性も高くなります。
リバースモーゲージによる融資は、老後の資金不足を回避し安心を得るための一つの方策となります。
リバースモーゲージのデメリット
メリットだけでなく、当然ながらデメリットもあります。デメリットを理解していないと、
後に思わぬ支障を引き起こすことになりかねません。主なデメリットを挙げます。
 
【自宅を相続する予定があると利用できない】
リバースモーゲージは、借り入れした人の死後に自宅を売却して、売却代金から融資元本を返済する仕組みですから、
資金を貸し付ける金融機関により、担保物件について第一順位となる抵当権が設定されます。
そのため、自宅を子供に相続したいなどの意図がある場合には、利用できないことになります。
 
【担保条件に合わない場合がある】
リバースモーゲージは、持ち家があれば必ず借りられるというものではありません。
金融機関によりますが、物件の所在地や担保評価額、特定の物件種別(一戸建てのみなど)といった条件が付けられていることがあります。
 
また、借入れ契約者の遺産を相続すると思われる人(推定相続人)全員から、
契約内容についての同意を取り付ける必要があります(同意書の提出)。
 
【長生きリスク】
予測不能なデメリットに、長生きリスクがあります。リバースモーゲージで借り入れができる金額は、持ち家の担保評価によって決まります。
想定よりも長生きになった場合、融資限度額以上の借入はできませんので、資金は計画的にやや余剰分を考えて使うことも必要です。
 
【金利上昇リスク】
リバースモーゲージの融資では、ほとんどが変動型金利を適用しています。
変動型金利とは、市場金利の動きに応じて変動する可能性があるものです。
固定金利よりも低めに設定されますが、経済状況が変わり高金利に移行したときには、当初設定よりも高い金利に変わるリスクがあります。


空室対策の基本ポイント
賃料収入に直結する空室リスクは、経営側にとって重大な関心事です。
しかし、基本的なポイントを押さえて、空室対策を行えば、空室リスクはコントロールすることが可能です。
以下では主な空室対策を紹介します。

賃料、更新料などについて
【賃料設定について】
賃料と空室リスクは表裏一体の関係にあります。
一般に、賃料を上げれば空室リスクは高くなり、賃料を下げれば空室リスクは低くなります。
 
ただし、賃料を下げて空室が早く埋まったとしても、長期的に見てプラスであるとは限りません。
賃料を下げずに少し空室期間が生じても、入居してから数か月単位で考えれば、
下げない方が得策という場合もあります。
 
一度下げた賃料は上げにくいという面があるため、慎重な対応が必要です。
賃料ではなく、礼金や敷金を安くしたり無料にしたり、
またはフリーレントを実施したりすることで、空室を埋めることも考えられます。
 
 
【更新料をサービスすることで契約更新につながることも】
すでに入居している部屋が空室にならないよう、気を配ることも大切です。
賃貸借契約の更新時期に更新料を収受する条項が入っている場合、「更新料を払うくらいなら引越しをしよう」と考える入居者もいます。
 
新しい入居者を探す手間とコストを考えると、
大抵の場合、現在の入居者に賃貸借契約を継続してもらった方が有利です。
入居者が退居の意思表示をしたときは、更新料を割引したり、無料のオファーを出したりすることで、
引越しを考えている入居者を引き留められる可能性もあります。長い目で見て、判断することをおすすめします。

入居時期について
【年間の需給バランスを知っておく】
賃貸物件の需給バランスは1年のうちで大きく変動します。3月がピークになることはよく知られています。
以下では年間を通じた需給バランスの概要をまとめてみましょう。
 
1月はまだ需要が少ない時期ですが、4月からの入学や就職に向けて、物件探しを始める人もいます。
2月からは物件の内覧なども頻繁に入るようになります。
早い人では賃貸借契約を締結し始める時期でもあります。
そして、3月は需要のピークとなり、不動産会社の繁忙期にあたります。
賃料相場や引越し費用も強気の設定になる時期です。
ただし、3月後半になると、空室リスクを避けたい物件オーナーは値下げを始めることもあります。
 
4月、5月には動きが落ち着き、夏季は一般的にもっとも需要が少なくなると言われます。
一方、もう一つのピークは9月と言われます。
これは10月から会計年度の下期に入ることで社会での人の動きが増えるためです。
10月~12月は春の繁忙期に向けて、物件を仕入れる会社や準備をする不動産オーナーが多く、
徐々に物件数が増えていく時期といえます。
 
 
【賃料や募集方法にも影響】
上記のような需給バランスを考えると、入居者の需要が増える3月と9月に入居者を確保できるようプランを立てることが大切です。
具体的には、高めの賃料設定でも入居者を獲得できるよう物件を準備しておき、2月、8月には内覧に対応できるようにしておくことが求められます。
 
投資用物件の取得やリフォーム工事などのプランもこれに合わせるのが理想ですが、
多くの会社が同じようなスケジュールで動くため、完工時期が重なったり、職人が不足したりすることもあります。
そのような影響も考慮に入れて、余裕を持たせたプランを立てたいところです。
 
一方で、最近は大学の入学試験制度が多様化しており、年が明ける前に入学が確定する場合も増えています。
その分需要の波も一部前倒しになっているという見方があることも知っておきましょう。

不動産会社、管理会社は強力なパートナー
【募集が得意な不動産会社かどうか】
ひと口に不動産会社と言っても、それぞれ得手不得手があります。
空室を避けたいと考えている場合は、入居者募集が得意な不動産会社をパートナーとして選ぶべきです。
やはり賃貸仲介業を主事業としている会社は、売買を主力業務にしている会社に比べると
賃貸物件の取扱い件数が相当多くなるので、より専門的な対応が期待できると考えられます。
 
【賃貸管理はしっかりしているか】
せっかく入居してもらっても、日常の清掃や管理業務が行き届いていないと、
生活環境の不満から入居者が退居してしまうかもしれません。
賃貸管理会社を選ぶ際には、賃貸管理業務をしっかりしてくれるパートナーかどうかの見極めも大切です。


賃貸経営で発生するトラブル・苦情への対応
住宅設備の不具合や入居者同士または近隣住民とのトラブルなど、
入居者からの問合せや苦情は賃貸経営にとって切っても切れない問題です。
こういったトラブルが発生したら、オーナーとしてどのように対処すべきでしょうか。
ここでは、クレームが出た場合の対応を具体例を挙げながら説明していきます。

住戸(専用部分)に関するトラブル
【設備の不具合】
住戸内の備え付けの設備機器については、不具合時の修理や交換は基本的にオーナー負担で行います。
エアコンや給湯器、ガスコンロ(クッキングヒーター)といった機器は生活していく上で欠かせないものになっていますので、
早急に対応しなければなりません。
普段から電化製品はA店、給湯器はB店と決まった修理・交換会社を決めておくと、
スムーズに入居者からの要望に対応することができます。
設備としては、例えば備え付けのベッドとか、各種扉など建具の動作の不具合などがあります。
 
【水回りのトラブル】
住戸の中の「水回り」とは、主にキッチン、浴室、トイレ、洗面、洗濯機になります。
水は人が生活する上で最も重要なライフラインの一つですから、
入居者からの連絡があった場合、緊急度が高いと考えるべきでしょう。
 
まずは、できるだけ正確に状況を確認することが大切です。それがわからないと修理・施工会社につなぐこともできませんから、
結果的に対応の遅れにつながってしまいます。
間に管理会社が入って、連絡の受け付け、対応も行なってくれるとしても、
実際に修理などをするためにはオーナーの承諾が必要になりますから、常に連絡がつながる体制を取っておきましょう。
 
【緊急を要するトラブル】
まずは「水」に関するトラブルです。「水漏れ」がそうですが、これには大きく二つあります。
一つ目が入居者の過失により、風呂などの水を出しっ放しにしてしまい水漏れを起こした場合です。
もしも、集合住宅の上階の人が水を溢れさせたとしたら、水浸しになった上階住戸への対応と、
天井から水漏れの被害を受けた下階住戸への両方への対応が必要になります。
また、原因は違えど、居室の水道管が経年劣化によって破損したことによる水漏れも、
当然同じ対応になります。水道管が破損しているなら、その修理ももちろん必要です。
 
もう一つの水に関するトラブルは、「雨漏り」です。雨漏りの発生連絡があったら、
まずは何らかの応急処置が必要になるでしょう。
その後、原因の調査と必要な修繕を行うことになります。
居室が浸水した場合、まずは水の除去を行い、その後損害の範囲、状況を確認します。
場合によっては、床(天井)板の張替え、床下(天井裏)の清掃が必要になります。
 
加えて各住戸内で濡れて使えなくなった電化製品などがあれば、交換しなければなりません。
備え付けの設備なのか、居住者の持ち物なのかによって、また原因が何なのかによって誰が費用負担するのかが違ってきますが、
オーナーとしては、こういったケースに対応するための備えとして、「施設賠償責任保険」があります。
あらかじめ「施設賠償責任保険」に加入しておけば、万が一のときの支出にも安心して対応できます。
 
ガス漏れや強風による窓などの破損も、緊急に対応しなければなりません。
入居者が平穏に居住できない状況は、とにかくできる限り早く対応しなければなりません。
こういうときの対応が遅かったり、連絡がつかなかったり、受け答えが親身でなかったりすると、
入居者からの信頼を失い退去につながりかねないので、日常から準備をしておくことをおすすめします。

共用部分や近隣に関するトラブル
【ゴミ出しについて】
入居者間、近隣住民間で問題が起こりやすい事柄に「ゴミ出し」があります。
問題が発生する主な原因は、捨てる人がルールを守らないことによりますが、大抵は以下の二つに集約されます。
 
・ゴミの分別ルールを守らない
・ゴミ出しの曜日・時間を守らない
 
このようにゴミ出しルールを守らない人がいると、収集されなかったゴミが放置されることになります。
集合住宅の場合は、それを不快に思う他の入居者からのクレームがオーナーもしくは管理会社に入るので、
その対応を行わねばなりません。具体的な対応策としては、
 
1.掲示板を利用した事例の報告と注意喚起、ルール再周知のお願い
2.上記内容を通知文書にして各住戸へ配布
3.違反者が特定できた場合は個別に連絡、ルールを守るように依頼
4.ゴミ収集日の一定時間に管理人などがゴミ置き場に立ち会うといった措置
5.防犯カメラによる監視(設置)
 
などが挙げられます。これらを状況に応じて実施しますが、「4」「5」は費用がかかりますので、
まずは「改善が見られない場合にはそのようなことも行います」ということを、事前警告的に通知文に含めるやり方がいいかもしれません。
 
ゴミ問題は放置したり対応を先延ばしにしたりすると、同じことをする人が増えたり、
外部からの投げ捨てを誘発したりして、さらに問題を大きくする可能性があります。
また、ルールを守っている入居者が退去を考えるきっかけになるかもしれません。
さらにゴミを長時間放置すると、猫やカラスによる生ゴミの散乱が起き、近隣住民からの苦情に発展してしまいます。
最終的に所有物件の評判や価値を下げることにもつながってしまうので、
オーナーとしては、常にゴミ置き場が清潔な状態を保てるよう努めましょう。
 
【駐車場・迷惑駐車に関するトラブル】
「誰かが自分の駐車スペースに車を止めている」「本来駐車スペースではない箇所に車があるため車を出すことができない」など、
駐車場での迷惑駐車に関するクレームもよくあります。
 
ここで注意が必要なのは、迷惑車両だからといって勝手にレッカー移動などをしてはいけないということです。
民法には「自力救済禁止の原則」があり、法の手続きを行わずに実力で権利を回復してはいけないと定められているのです。
レッカー移動のほか、タイヤをロックするなどの行為も禁止されており、この原則を無視して実力行使をした場合には、
反対に違法行為として処罰の対象になる可能性があります。
 
迷惑駐車を発見した場合には、「いつ」「どこで」「誰が」「どうする」をハッキリ書いた張り紙をしましょう。
「○時〇分~○時○分(いつ)、迷惑駐車している車のナンバー(誰が)、
〇〇の私有地(どこで)において」など詳細を明記します。
さらに「〇時間以内に車を移動させない場合は、警察に連絡する(どうする)」といった内容を書きます。
 
張り紙をする際に接着剤などを使うと器物損壊になり、罪に問われることになるので注意が必要です。
車両を傷付けないようワイパーなどに紙を挟み、念のため写真を撮っておくと安心です。
また、ナンバーなどを陸運支局で調べれば所有者を特定することもできますが、
事件性がない場合には警察による対処は望めません。前段で張り紙に「警察に連絡する」旨を記載する、とありますが、
実は私有地内での迷惑駐車に対しては、道路交通法上の駐車違反は適用されません。
従って迷惑駐車そのものを処罰する規定はないので、何か別の法令違反を適用させるしかありません。
とはいえ、事件性がなければ基本的に警察の介入はないので、とりあえず張り紙をして相手の出方を見ることになります。
 
それを踏まえると、迷惑駐車に対しては、まずは「契約車以外駐車禁止」「罰金をいただきます」などの、
そもそも駐車させないための予防看板を設置することが必要かもしれません。
また、住人が「うっかり駐車してしまった」など、悪意がない可能性も考えられるので、初動対応には注意が必要です。
 
加えて、駐車場内で駐車している間に傷を付けられた、子供が遊び場にしていて車を傷付けた、といった場合には、
物件オーナーが管理責任を問われることがあります。
「進入禁止」や「遊び場禁止」の看板を設置するなどして、管理義務を果たしましょう。
防犯カメラの導入を検討してもいいかもしれません。
 
【騒音問題】
「上の階の足音がうるさい」「隣のオーディオや楽器の音がうるさい」「洗濯機を夜中に回す人がいる」など、
騒音に関する苦情も多いものです。
 
この「音」については、なかなか難しい面があるので対応に注意が必要です。というのは、
まず同じ音でも人によってうるさいと感じるか、感じないかというレベルが異なるという点です。
ですから、音についての苦情が寄せられた場合、最初の対応としては、まず「騒音」の原因を実際に確認しましょう。
もしもそれが「騒音」ではなく社会通念上許容範囲の音であれば、その旨を苦情元に説明して話し合ってみましょう。
 
反対に「騒音」であると判断される場合は、原因となっている住人に迷惑を感じている人がいることを伝え、
改善を促すように話し合ってみましょう。
このとき、音を出している人を一方的に悪者のように扱うのではなく、
音が出る理由や事情を聞いた上で解決策を探るように心掛けるといいでしょう。
解決策としては時間制限をつけることで収まる場合が多いようです。
 
また、集合住宅では、思わぬ音の反響効果から響いてくる方向と本来の音源が全然違うということがあるので、
確かめる前に特定の住戸を疑うことには慎重になるべきです。
 
【異臭問題】
異臭がする場合は、事件や事故の可能性もあるので早急な対応が必要になります。原因はゴミの放置、
ペットやタバコのにおいのほか、生活習慣の違いによる芳香剤やお香のにおいなどもあります。
デリケートな部分も含むので注意が必要です。
 
【ペットに関する問題】
「ペットがベランダを徘徊している」「ペットがうちの洗濯物におしっこをかけた」など、
ペットに関するトラブルもよく発生します。
元々ペット禁止をうたっている物件ならば、違反者にペット飼育の中止を申し入れます。
中止を聞き入れなければ契約解除の旨を通告することになるでしょう。
ただし、例え契約上ペット禁止になっていたとしても、必ずしも貸主側からの契約解除が認められるとは限りません。
裁判になった場合は、ペット種類や飼い方など個々の事案ごとの判断になるので注意が必要です。
 
ペットに関する責任は飼い主にありますから、基本的には飼い主と話し合うことでペットトラブルを解決していくことになります。

契約に関するクレームと対処方法
【入居者からの賃料減額交渉】
長年入居している入居者から、「隣の人と家賃が違う」などと言われて、家賃を下げるように交渉されることがあります。
こういったケースの場合は、後々発生するであろう「空室リスク」も合わせて考慮していかなければいけません。
 
10年も住んでいてトラブルもない優良な入居者ならば、多少家賃を値引きしても住み続けてもらう方が、
空室リスクを考えるとよい場合もあります。
ただし理にかなわない値引き交渉には「NO」を突き付けましょう。
きちんとした理由もなく、「まあいいか」程度で減額してしまったら、更新の度に値引きを要求されるかもしれないし、
そのときに明確に拒否する姿勢を取りにくくなってしまいます。
 
更新料の減額交渉についても同様です。特にアパート一棟経営の場合は、一世帯の交渉に応じてしまうと、
そのことを他の入居者が知ったときに、当然自分もと言い出すこととなります。
契約によって発生する費用の徴収については、その正当性をきちんと説明し、
支払いを求めることを基本姿勢とすることをおすすめします。
 
【退去時のトラブル】
一般的に、賃貸借契約では、入居時に借主から敷金を徴収します。
そして、退去時に行う原状回復工事において、借主が負担すべき工事費用分を敷金から充当し、残額を返還することになります。
この敷金返還時に発生するトラブル事例は、珍しくありません。
 
どのような点でトラブルになるかというと、原状回復の負担割合で、貸主側の提示と借主側の想定が合わない場合です。
それが敷金の返還金額という形で現れるので、
主に借主側が思っていたより多くの金額が差し引かれていると、トラブルに発展してしまうのです。
 
民法の規定では、借主が原状回復負担義務を負うのは、借主の「責めに帰する」損傷についてだと明示されています(第621条)。
さらに、通常の住居使用で生じた損傷や経年による劣化については、借主に負担義務はないということも明示されています。
 
借主の「責めに帰する」具体的な例としては、「タバコによる畳の焼け焦げ」「家具の移動時に付いたフローリングの傷」
「結露を放置した結果拡大した壁のカビ・シミ」などが挙げられます。
反対に借主の負担義務とならない例は、「年月経過による畳や壁の変色」「冷蔵庫が接していた部分の壁の黒ずみ」
「通常生活に伴う壁の画びょうの痕」などです。
 
これらの汚れや傷が、実際の退去現場でどのように判断されるかがポイントになるわけです。
こうした退去時のトラブルを避けるためには、契約時に原状回復の負担について明確に取り決めて、
契約書に記載しておくことが重要になります。その上で、重要事項説明で確実に説明し、借主の合意を得ておくことも必須です。
 
ただし、この民法の規定は任意規定なので、特約として個別の規定を設定することが可能です。
もしも特約で、具体的に借主が負担義務を負う内容を設定するなら、より確実に借主の合意を取っておくことが必要です。
でも、任意規定だからといって、法外に借主の負担が重くなるような特約は、
万が一紛争になったときに認められない可能性が高いので、適正な契約内容になるように心がけましょう。

「家賃滞納」時にオーナーはどう対応するか
家賃は賃貸経営収益の大半を占めるため、滞納が発生すると事業の継続そのものが脅かされることになります。
もしも家賃が滞納された場合、オーナーとしてどのような措置を取っていくべきでしょうか。
督促の手順を追う形で見ていきましょう。

オーナー自身ができる督促行為
家賃の滞納が確認された場合、何度も滞納しているような入居者でなければ、理由を確認するという意味で連絡を取ることが必要です。
では、具体的にオーナー自らが行う督促行為について見ていきましょう。
 
【電話などによる確認】
家賃支払日を過ぎて入金がない場合は、まず電話をしてみましょう。
この場合、頭ごなしに「支払え」などというと後々の関係に支障を来すことになります
うっかり忘れていたということもありますし、たまたま預金口座の残高が少なくなってしまっていたなど、
故意に滞納したのではない可能性があるので、口調はあくまで丁寧に話すことが大事です。
 
賃借人が電話に出た場合、なぜ支払いが遅れたのか、いつ入金できるのかの2点をはっきりと確認しましょう。
 
もし賃借人が電話に出ない場合は、家賃の支払いが遅れている旨を留守番電話に入れておきます。
合わせて再度電話をかける旨を伝えておきます。通話ができたら、上記のように確認を行います。
電話をかけるタイミングは、規定の家賃支払日を過ぎたのであればいつでも構いませんが、
あまり日にちを空けない方がいいでしょう。「少しくらい支払いが遅れても大丈夫だ」と思われては、
次月以降も滞納される可能性が高くなってしまいます。
 
もしも、電話での話ができない場合や電話で約束した期日にも入金が無かった場合は、直接住戸を訪問して話し合いの機会を持ちます。
 
ここまではできるだけ穏便に相手と話をすることで、円滑に解決するための督促の進め方です。
オーナーにかかる負担もここまでならさほどではないので、できるだけ柔らかな態度で、かつ確認すべきこと、
約束すべきことは明確に意思表示をして、双方が同じ理解をしたことを確認しましょう。
 
【書面送付による督促】
家賃の滞納が2週間以上に及ぶ場合は、単純に支払いを忘れているとは考えにくくなります。
そこで次の方策として、「督促状」を送って家賃の支払いを求めていきます。督促状の送付と並行しながら、
賃借人との電話・直接訪問での話し合いも続けていきましょう。
この段階では、まだ話し合いによる解決を目指します。
 
一方で、賃借人と連絡が取れない場合や明確な回答が得られない場合は、「連帯保証人」に連絡をします。
事態の説明をして、賃借人への支払いを働きかけてもらいましょう。
併せて、連帯保証人の支払義務についても必ず伝えておきます。
 
【内容証明郵便による催告】
家賃の滞納が1ヵ月を過ぎれば、内容証明郵便による催告を検討・実施する段階になります。
内容証明郵便は、強制力のあるものではありませんが、このような形で催告を受けると、
いずれ法的措置が取られることは大体想像がつくので、大抵の滞納者は何らかのアクションを起こすことが期待できます。
また、内容証明郵便は、後々紛争になった場合にも有利な証拠(証明)になります。
しかし一方で、実際に内容証明郵便が送られれば、借主に心理的な圧力を与えることになるので、
滞納が1カ月を超えたからといって、即、内容証明郵便による催告を行うかは、弁護士に相談してからの方がいいかもしれません。
 
内容証明郵便は、「誰が」「誰に」「いつ」「どのような内容の文書を送付したか」
ということを郵便局が証明してくれるものです。
ただし、これだけだと相手が受け取ったかどうかはわからないので、
「そんなもの受け取っていない」という強引な主張をする人には対抗できません。
それを補完するためには、「配達証明」を付加利用する方法があります。
 
【家賃督促をするときの注意事項】
家賃の支払いを督促をする際には、そのやり方に気をつけなければなりません。
以下に挙げたものは、そのやり方によっては違法行為になる可能性があるものです。
なかなか支払ってもらえず、業を煮やして強引なやり方をすると、あまりいいことはありません。
もしも、後に住居の明け渡しと家賃の支払いを求めて裁判を起こした場合にも、不利な材料になりますので注意しましょう。
違法行為となれば、反対に訴えられて損害賠償を請求されることにもなりかねません。
 
・早朝・深夜の督促行為
・同一日に複数回の督促行為
・連帯保証人以外への督促行為
・勤務先・学校へ訪問した上での督促行為
・勝手に住戸の鍵を交換する
・賃借人が留守の間に荷物を搬出する
・正当な権利のない人間に督促行為をさせる
・大声を出して家賃の督促をする
・玄関や郵便ポストに張り紙などして督促行為をする


法的措置による請求
内容証明郵便による催告を経ても家賃が支払われない場合、住居の明け渡しを求めて訴訟を起こすことになります。
家賃の支払いについても、もちろん請求を続けます。
この時点では、法的な専門知識が必要になるので、通常は弁護士に依頼します。
 
訴えを起こしてから判決が出るまでには、少なくとも数カ月はかかります。
訴状などが被告側に届き、何度かの口頭弁論により原告・被告双方の主張が十分に出た段階で、
審理を行い判決が出されます。
この間には、それぞれの主張を裏付ける証拠の提出や答弁書の提出などをしなければならず、
原告(オーナー側)にとってもかなり繁雑な準備が必要になります。
それもあり、裁判所から「和解」を進言されるケースが多くなっています。
 
和解にはいくつかのメリットがあります。まず当事者同士が歩み寄って妥協点を探るので、解決までの時間が短くなること。
また、一方的に判決が出るわけではないので、双方がある程度納得できる結果になることなどです。
 
判決まで進み、立ち退きと滞納分の家賃支払い請求が通ったとしましょう。被告側が判決に従い、
素直にそれらを履行すれば問題はありませんが、そううまくいくとは限りません。
もしも、被告が判決に従わなかった場合には、「強制執行」という手段で対抗していくことになります。
ただし、強制執行まで行ったとしても、必ずしも目指す結果が得られるとは限りません。
例えば、借主側が本当に支払うべき金品を持っていないときなどです。
 
ここまで話がこじれると、かなり大変です。
そこで時間・費用・労力が少なくて済む方法として、住居の明け渡しまでは求めない「支払督促」「少額訴訟」制度というものもあります。
ただし、案件内容によっては利用効果が見込めない場合もあるので、通常の訴訟を含めてどの方法を取るかは慎重に判断しましょう。
そもそもの家賃滞納防止を考える
家賃滞納が発生した場合に、どのように対応するかを準備しておく必要はありますが、家賃滞納が起こらなければ、それに越したことはありません。
安定して家賃を納めてもらえる状況を存続させるために、オーナーはどんなことができるでしょうか。
 
家賃滞納以外のトラブル防止にも大切なことですが、まずは不動産会社に管理・運営を丸投げせず、
どのような人が入居し、物件がどのような状態にあるかを普段からしっかり把握しておきましょう。
できるだけ入居審査に積極的に関わる姿勢があれば、借主の選定にオーナー自身が責任を持つことになりますし、借主・不動産会社との関係も深まります。
 
また、できるだけ頻繁に入居者が替わることがないように気を付けることも大切です。
もしかすると、生活する上で不便なことや、住環境に不満な部分があるのかもしれません。
クレームや不具合には丁寧かつ迅速に対応できるよう、不動産会社と緊密に連携しておくことが必要です。
 
また、万が一家賃が滞納される事態になっても、「家賃保証会社」を利用するなどしてリスク回避策を講じておけば、
収入減少の心配は減り、問題解決に要する労力も軽減できます。

「家賃保証会社」とはどういうもの?
賃貸経営を行う上でのリスクの一つに、入居者の家賃滞納があります。
借主がいるのに家賃が支払われない状態が発生したのでは、収入が減ってしまいます。
さらに、家賃滞納が続いた場合でも、貸主側から一方的に契約を解除して立ち退かせることはできませんから、
他の入居者を募集するわけにもいきません。
つまり空室の状態よりもさらにリスクは高くなってしまうのです。
そこで家賃滞納リスクに備える手段として、「家賃保証会社」の利用があります。

家賃保証会社とは
「家賃保証会社」とは、借主が家賃を滞納したときに、借主に代わって貸主に家賃を立て替え払いしてくれる会社です。
つまり、家賃保証会社と契約していれば、家賃滞納が発生しても、家賃収入が途絶えることがありません。
仮に連帯保証人を立てている場合でも、滞納時には絶対に連帯保証人が代わりに支払ってくれるとは限りません。
契約時よりも支払い能力が低下している可能性もあります。その点、家賃保証会社は事業として行っているので、必ず支払ってくれます。
 
家賃保証会社は、滞納家賃を代わりに弁済してくれる以外に、基本業務として入居者の審査も行います。
審査に必要な種類や審査内容は、保証会社によって異なります。
万が一滞納が発生した場合は自社が立て替えることになるのですから、一定の基準を設けて入居申込み者をチェックするわけです。
 
「立て替え」という言葉が出てきていますが、家賃保証会社は文字通り一旦立て替えるだけで、その後滞納者から滞納家賃を徴収します。
 
このように、賃貸オーナーにとって、家賃滞納リスクを回避するために有効な家賃保証会社ですが、
保証期間や保証内容は各会社・サービスごとに異なるので詳細は都度確認が必要です。
その他の保証内容
家賃保証会社によっては、家賃滞納の立て替え以外にもさまざまな保証サービスを備えています。さらにリスク回避を望む場合は、検討するといいでしょう。
 
【訴訟費用の負担】
借主の家賃滞納が続き督促にも応じてもらえない場合は、法的措置により家賃支払いと契約解除(退去)を求めることがあります。
また、退去時の原状回復義務の負担割合と敷金の返還金額について、貸主・借主間でトラブルになり、訴訟に発展してしまうこともあります。
家賃保証会社では、こうした訴訟問題になってしまう案件について、法的な手続き費用の保証、
あるいは弁護士の依頼といったサポート業務とその費用の保証も、サービス内容として備えている会社があります。
 
【残置物の撤去費用など】
入居者が退去した後、住戸内に入居者が所有していた家財道具などが残されていることがあります。
基本的に明け渡される前に、貸主(あるいは管理会社)が室内に入って借主立ち会いのもと、
原状回復についての損傷の度合を確認しますが、そのときに気づかず、引越し完了時点で残置物が発生してしまうのです。
 
また、入居者が正式に契約終了しないまま失踪してしまうという、困った事案もあります。
家賃を滞納している場合にその可能性が高くなると考えられますが、大抵は何らかの残置物があります。
明らかに無価値で廃棄処分が妥当なものならば捨てればいいのですが、少しでも価値の有無で迷うものについては、
所有権は未だ置いていった元入居者にあるので、勝手に処分することはできません。
その場合は一旦保管しておいて、その上で所有者である元入居者に物品の対処について確認する必要があります。
明らかに無価値なものでも、大きければ有料での廃棄を頼まなければなりません。
 
このように手間や費用がかかる残置物についても、処置手続きとその費用を保証してくれるサービスがあります。
さらに、原状回復についても、保証でカバーできる契約内容があります。サービス内容は会社ごとに異なるので、都度確認が必要です。

家賃保証会社を利用するメリット
家賃保証会社の利用料は、入居者負担とするのが一般的です。入居者は連帯保証人を立てない代わりに、
利用料を支払って家賃保証会社に貸主への家賃の支払いを保証してもらうわけです。
利用料は会社ごとに異なりますが、入居時にかかる「初回保証料」は家賃1カ月分くらいが多いようです(管理費・共益費を含む場合あり)。
以降一年ごとまたは賃貸借契約更新時に「更新保証料」がかかります。オーナーとしては、
自分で費用をかけずに滞納時の家賃が保証されるというのは大きなメリットと言えます。
 
このような直接的メリット以外に、副次的に生じる大きなメリットがあります。
それは、入居者の募集範囲を広げられるということです。
家賃保証会社を利用しなければ、入居者募集の条件に「連帯保証人」の設定が必須になりますが、
諸事情により連帯保証人になってくれる人が身近にいないという人は相当数います。
 
そういう人でも、家賃保証会社を利用すれば入居ができるので、入居者募集の対象範囲が広がり、
空室対策にもつながります。
例えば、日本中で増えている外国人や親族がいない単身高齢者の賃貸居住の場合、入居者側にとっても、
連帯保証人を立てずに住まいを借りられるのは大きなメリットになります。
 
家賃保証会社を利用することで、入居者にとっては連帯保証人を立てる手間をかけずに契約できる一方で、
敷金・礼金・仲介手数料、さらに家賃保証会社の利用料が加わり、初期費用が増えてしまうデメリットがあります。
人によっては住み替え予算に合わなくなってしまうかもしれません。空室対策を含め、安定的な賃貸経営を考えるなら、
入居者の負担についても柔軟な運用を検討してもいいかもしれません。


退去時の原状回復義務と敷金返還について
不動産の賃貸借契約では、契約が終了し借主が退去するときに、「原状回復」という作業が発生します。
語句からほぼ想像がつきますが、住居を「住む前(住み始めた時点)の状態に戻す」ということです。
これは、前の人が住んでいたままの状態では、次の借り手がつかないということと、
物件の価値を維持するためのメンテナンスという意味合いもあります。
 
原状回復で問題になるのが、その義務を貸主・借主のどちらが負うのかという「原状回復義務」についてです。
これは、原状回復工事費用の負担、つまりは敷金の返還金額はいくらかという形で表れるので、
借主が金額に納得できないとトラブルに発展する可能性が出てきます。
 
賃貸物件のオーナーとしては、できるだけ無用なトラブルは避けたいものです。
そのためには、原状回復義務と敷金返還について、正しく理解しておくことが必要です。

原状回復義務の考え方1 ~国土交通省ガイドラインの確認~
自分が借りた物を元のまま貸してくれた相手に返す、というのはごく普通の発想でしょう。
特に日本人にとっては、それ自体にあまり違和感はないと思います。
しかし、借りて住んでいた住居のこととなると、住む人によって状態は変わってきますし、
居住期間によっても状況が違いますから、なかなか「元のまま」ということへの均一な判断は難しいものです。
それ故、退去時の原状回復をめぐる貸主と借主の意見の相違は、
多くのトラブル事例を積み重ねることとなっていました。
 
このような原状回復に起因するトラブルを未然に防止するために、1988年に国土交通省は、
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下ガイドライン)を取りまとめ、公表しました。
このガイドラインでは、原状回復について以下のように定義されています。
 
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、
その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」
 
そして、「建物の損耗等=建物価値の減少」という考え方をもって、「損耗等」をわかりやすく以下の三つに区分しています。
 
1.建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年劣化)
2.賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
3.賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等
 
これらを考え合わせて、上記「3」については賃借人(借主)が原状回復義務を負い、「1」「2」については賃貸人(貸主)が負担すべきだとしています。
結果として、「原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」ということを明確に示しました。

原状回復義務の考え方2 ~民法規定の確認~
ガイドラインを下敷きに、原状回復義務と敷金返還についての考え方が、民法の規定として明文化されました(第621条・第622条の2)。
 
【原状回復義務について】
民法条文では以下のように規定されています。
 
(賃借人の原状回復義務)
第621条
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。
以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。
ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
 
条文にある「賃借人が原状に復する義務を負う」損傷とは、例えば何かをぶつけて付けてしまった壁や柱の傷、
不注意でつけてしまった焼け焦げ、掃除や換気をしなかったことで発生・拡大したカビなどが該当します。
 
一方、「賃借人の責めに帰することができない」損傷である、「通常の使用によって生じた損耗」
「経年変化」とは、所定の位置にあった冷蔵庫の裏側の壁の黒ずみ、
単に年月が過ぎたことで当然に生じた壁や床の変色などが挙げられます。
 
【敷金返還について】
敷金については以下のように定められています。
 
第622条の2
1.賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、
賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、
賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、
その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する
金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。

一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2.賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、
敷金をその債務の弁済に充てることができる。
この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
 
つまり、敷金とは毎月授受が発生する家賃などが支払われなかったときに、貸主がその受け取り分に充てることができ、
そのためにあらかじめ借主が貸主に預けておく金銭である。
また、契約が終了し借主が退去するときには、貸主は弁済に充てた部分を除き借主に残額を返さなくてはならない、と言っています。
ここには「原状回復」と「敷金」の関係は記されていないので、基本的に敷金は退去時に借主に返還されるものだということになります。
 
これらの規定が、ガイドラインから法令の条文として明文化されたことで、運用上で曖昧だったものがきちんと意識付けされ、
退去時のトラブルが減っていくことが期待されています。
貸す側の意識が高くなれば、賃貸借契約そのものや説明の丁寧さにも反映されますから、結果的に借りる側の意識や理解も高くなるでしょう。

賃貸経営での実際の運用はどうするか
このような法令の規定を受けて、賃貸経営の現場ではどのように運用していけばいいのでしょうか。
実際に退去の際に借主の不注意により生じた損傷については、敷金から差し引くという形で請求することはできないのでしょうか。
 
民法の条文から判断すると、家賃滞納などの弁済に充てるといったこと以外では、敷金は借主に返還しなければならないと解釈できます。
しかし、この民法の規定は「任意規定」であるということを知っておく必要があります。
「任意規定」とは、契約当事者間で合意がある場合には、その合意による定めが優先されるという法律の規定のことです。
 
つまり貸主と借主の間で、原状回復と敷金について個別の明確な規定が双方了承の上で成立しているならば、原状回復の負担割合を設定できるし、
その分を敷金から差し引くということも取り決めることができるのです。このような取り決めは、一般的に賃貸借契約の「特約」として設定します。
 
ただし、特約が法令の原理原則に反する場合や、他の法令に抵触しているような場合は無効になる可能性が高くなります。
明らかに借主が不利になるような内容は避けるという意識で、両者が納得できる範囲での設定を心がけましょう。
 
もう一つ、とても大事なことがあります。例えオーナーが法律を理解していても、また適正な特約を設定していたとしても、
借主が認識していなかったら、
やはり退去時にトラブルになる可能性が出てきてしまいます。
これを防ぐためには、最初の契約締結時に契約内容を漏らさず正確に説明することがとても重要になります。
その上で、理解したかどうかの確認を後に残る形で取っておくことも必要になるでしょう。

所有物件の「付加価値」を高めるリフォーム
住宅のリフォームは、不具合が出てきたとき、住みやすいように住戸を変えたいとき、
より便利で新しい設備と交換したいとき、などに行います。
持ち家の場合は、住んでいる所有者の自由意思で行いますが、賃貸住宅の場合はどうなのでしょうか。
賃貸経営をしていく中では、オーナーは事業戦略としてリフォームを捉えていく必要があります。
では、どのような考えで行えばいいのか、賃貸経営でのリフォームのあり方を見ていきましょう。

賃貸経営での「リフォーム」とは
「リフォーム」とひと口に言っても、賃貸経営ではいくつかの種類があります。まず、借主が退去するごとに必ず行う「原状回復工事」。
長期修繕計画に基づく「大規模修繕」。そしてこれ以外のリフォーム工事です。
 
これらはすべて、堅調な賃貸経営のための「入居者の獲得(空室回避)」「物件価値の維持(向上)」を目的としています。
しかし、施工時期や施工規模は違いますし、それぞれに意味合いや効果が異なる部分もあります。
オーナーとしてはその部分を明確にして、はっきりとした意図をもって施工することが重要です。
 
「原状回復工事」は、言葉の通り、住戸内を元の状態に戻すために必要な部分を修繕する施工です。
「大規模修繕」は、長い年月を経ることで建物そのものの老朽化した部分や、不具合箇所を一気に直す大掛かりな修繕工事です。
そしてもう一つが、住居を時代のニーズに合わせて改修したり、最新の便利な機能・設備を導入したりするための施工です。
 
三つ目の、住居に手を加えて新たな価値を生み出すための施工は、「リノベーション」と呼ばれることもあります。
原状回復以上の施工範囲となりますし、大規模修繕の主な施工対象である建物外観や構造部分の修繕からもやや外れますから、施工時期などに迷う場合も多いようです。
次項以降は、この付加価値のためのリフォーム(リノベーション)について、具体的な内容を見ていきます。

付加価値を高めるリフォームについて
物件の付加価値を高めるリフォームは、いつ行えばいいでしょうか。借主が居住中には基本的に住戸内の施工はできませんから、
リフォームタイミングとしては契約が終了し借主が退去した後が最適です。このときは、
必ず原状回復工事を行いますから、それに追加施工する形になります。
 
借主からの退去の申し入れは解約の1カ月以上前なので、その時点で原状回復工事にプラスしてどのような付加価値を付けるかをできるだけ早く決めて、
見積りを取るなど準備を進めていく必要があります。具体的には、給湯設備が旧式ならば多機能の最新式に交換する、
部屋が和室やクッションフロアなど、やや時代のニーズに合わないようならフローリングといった人気の高い仕様に変えるなどが考えられます。
セキュリティー面の設備追加や収納の増設などもあるでしょう。
 
しかし、施工箇所が増えれば当然その分工期は長くなります。
それは空室期間が長くなるということなので、できるだけ工期を効率よく短縮するためには、やはり事前の準備・手配が重要になってきます。
ですから、思い付きで設備を追加したり交換したりするのではなく、常に世の中の住まいに対する要望や人気の商品などにアンテナを張って、
情報を入手しておくことが必要です。
当然施工費用も上積みされますから、付加価値リフォームのための費用を日頃から準備しておくことも必要です。
 
お金がかかり多少空室期間が増しても、次の入居者候補の求める住居を提示できれば、結果的に経年による家賃の引き下げをせずに済んだり、
快適な住居に長く住み続けてもらえたりというメリットが得られる可能性が高くなります。
 
例え物件管理を管理会社に業務委託していたとしても、自分の所有物件の価値を維持するためには、
管理会社に任せきりにせずに、施工の必要性はオーナー自身が判断していくことが大切です。

リフォームを行う場合の注意点
やはり一番気を付ける点は、リフォームの施工期間をできるだけ短くするということです。工事中の空室による収入減を可能な限り抑えるためです。
それには事前の準備が大事だということは既にお伝えしました。ではどのようにすれば、適正な工期で効率的にリフォームが行えるのでしょうか。
 
まず信頼できる施工会社を見つけ、発注することが重要です。間に管理会社が入る場合もありますが、
その際でも複数社から相見積もりを取ってもらい、発注先を検討・選択できるようにしましょう。
管理会社が提携している施工会社もあるでしょうが、その会社の施工費用が適正か工事を任せられるかを知るためにも、
ぜひ複数社から同じ内容で見積もりと施工スケジュールの概算を取得することをおすすめします。
 
また、リフォーム工事に取り掛かってみたら水漏れが見つかるなど、想定外のことが起きることがあります。
ですから、予算いっぱいに工事内容を詰め込むことはしない方がいいでしょう。
想定外の追加工事などに備えて、資金には余裕を持たせておくと安心です。
 
一方で、不動産の管理会社や仲介会社は、消費者のニーズを受け止めながら営業しているわけですから、
常に新たな情報をストックしています。
そのあたりは柔軟に意見を聞いて、リフォーム内容を含めた賃貸経営に生かしていけばいいでしょう。
そのためには、不動産会社との良好な関係を構築しておくことが大切です。



ライバル物件に差をつけるリフォーム活用法
近隣のライバル物件に勝つためには差別化が重要となります。
すでに保有している物件を差別化する有効な手段の一つが、リフォームです。
以下では、差がつくリフォームのポイントを紹介します。

低予算でイメージアップできるクロス、照明
【大胆な色使いのクロスでイメージチェンジ】
比較的低予算でイメージを大幅に変えることができるアイテムは何といってもクロスです。
クロスは経年による変色や破れなどで数年に一度は貼り替えが必要になるものです。
その際に、大胆な色使いのクロスを使い、部屋のイメージチェンジを図ってみるのも一つの方法です。
 
全面を同色にするのではなく、一面だけ色を変えたり、天井のクロスを凝った柄にしたりすることで、センス良くまとめることができます。
貼り替えする面積にもよりますが、
一般的にはさほど高額にはならないでしょう。差別化が必要と感じるときにはチャレンジしてみてもいいかもしれません。
 
 
【照明を変えるだけで部屋の雰囲気は変わる】
照明も低予算でイメージを大きく変えることのできるアイテムです。
照明であれば、リフォーム会社に頼まなくても、自分で部屋の雰囲気を変えることができます。
蛍光灯から優しい光の電球に交換したり、天井にレールライトを取り付けたりするだけで、
おしゃれな雰囲気を演出することが可能です。

水回りが決め手
【キッチンは主婦目線で】
賃貸物件の内見時に水回りを重視する人は多くいます。水回りではキッチン、バス、トイレがポイントとなりますが、
特にキッチンは主婦の目線が厳しくなる部分でもあります。
 
形状では、料理や洗い物をしながら子供の様子が見られる対面式のスタイルなどが人気です。
対面式キッチンの中でも、ペニンシュラキッチンやアイランドキッチンなどに憧れを持つ主婦も多いようです。
 
キッチンを交換するには数十万円から100万円超まで幅がありますが、入居者としてファミリー層を想定している場合には、
キッチンが決め手となることもあるので、設備投資を検討してみるのもよいでしょう。
 
【システムバス交換の相場】
風呂が古びていると清潔感に欠ける印象を与えてしまうため、入居をためらう原因となることがあります。
ですから、浴室はできるだけ新しく、きれいな方がよいと考えます。
ただし、交換するにはそれなりに費用がかかるため、まずは交換しないで済む方法を試してみることをおすすめします。
 
たとえば、蛇口の金属部分の水アカやサビを取るだけでも印象が変わります。
また、シャワーヘッドだけ新しいものにしても、見た目もさることながら、
快適な使用感が得られるため入居者の満足度を高めることにもつながります。
 
それらの対応では効果が限られている場合には、ユニットバスを交換することを検討します。
交換費用はメーカーやサイズにより幅がありますが、その分予算に合わせて選べるともいえます。
 
【トイレのイメージアップはかなり重要】
水回りの中でもトイレの美しさは絶対条件という女性も多くいます。
また、男女問わず、温水洗浄便座がないとダメという方もたくさんいます。
温水洗浄便座の設置費用は、一つあたり機器価格プラス工事費1万円程度が一般的です。商品にもよりますが、
おおむね5万円以内で収まりそうです。
 
また、トイレの壁や天井は面積が小さいため、クロスの貼り替えも安めでできるでしょう。
費用に対してイメージアップ効果が十分期待できると思えば、検討してもよいでしょう。

家電、家具などを備え付けるという方法も
【急な単身赴任や一人暮らしには人気】
差別化を図るという意味では、基本的な家電や家具などを備え付けるという方法もあります。
急な単身赴任や一人暮らしで、最初から家電や家具をそろえなければならないという人にとっては、
それらが備え付けられた部屋はありがたいものです。
 
入居期間が短くなる可能性はあるものの、単純に家電や家具をそろえる手間を省きたいという需要もあるため、
リスクを考慮しつつ、差別化の方策として検討してみてはいかがでしょう。
 
 
【DIYを可能にすることで満足度アップも】
築年が古い物件などではDIYを可能とすることで人気が出る場合もあります。
部屋づくりが趣味の人にとっては、物件に多少手を加えてもよいという条件はとても魅力的です。
ただし、造作買取請求や原状回復義務については事前によく協議して契約条項に特約を入れておくなどの工夫・対策が必要になります。


賃貸物件入居者のプチリフォームについて
賃貸物件はオーナーの所有物なので、大抵の入居者(賃借人)はそれを理解して、
居室に置く家具やカーテン、カーペット、小物などによって個性を演出します。
しかし、それだけで満足できない人は、可能な範囲で住戸そのものに手を加えたいと考えます。
これがいわゆる「プチリフォーム」で、オーナー側も「それで入居してくれるなら」と、
入居者による軽微なリフォームを許容する事例が増えています。
では、賃貸経営において入居者によるリフォームは、どの程度ならOKなのでしょうか。

原状回復義務とプチリフォームについて
借主による「プチリフォーム」で問題となるポイントは、「原状回復義務」との兼ね合いになります。
入居者(貸借人)には「原状回復義務」があるため、
物件の退去時には物件を借りてから入居者自身の故意・過失により生じた損傷箇所については、元の状態に戻さなければなりません。
民法では、原状回復義務を下記のように定義しています。
 
(賃借人の原状回復義務)
第621条
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。
以下この条において同じ。)がある場合において、
賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。
ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
 
この条文に照らすと、賃貸物件への借主が「プチリフォーム」を行った賃貸物件の退去時の原状回復義務は、
基本的には借主側にあると言えます。
 
ここでまず考えるべきは、冒頭の「『原状回復義務』との兼ね合い」です。借主の立場になれば、
「プチリフォームはしてもいいですけど、退去時には自費で完全に元に戻してくださいね」と貸主に言われたら、
なかなか借りにくいものです。
とはいえ、オーナーにしてみれば大事な所有財産を好き勝手に改修されたくはないですし、
必要以上の原状回復工事費を負担したくないというのが正直なところでしょう。
 
そうなると、このプチリフォームについては、オーナーがどこまで許容するかということが根幹の部分になります。

なぜ「プチリフォーム可」にするのか
オーナーが、所有する賃貸物件を「プチリフォーム可」にする理由は、「空室対策」にほかなりません。
物件の競争力を高め、入居者ニーズを取り込むために行うわけです。
特に築年が古い物件、立地が不便など不利な物件、同一エリアに競合が増えてしまった物件など、
空室リスクが高くなる原因はいろいろありますが、
「プチリフォーム可物件」として募集すれば、ある程度自分好みの住まいが作れるため、
入居者にとっては魅力的な物件になります。入居した後も、愛着がわくことで長期の契約更新も期待できます。
このようにプチリフォーム可にすることで、空室リスクが減り安定した家賃収入も見込めるわけです。

プチリフォームの許容範囲と注意点
では、どの程度プチリフォームを許容すればいいのでしょうか。
入居者のニーズに応えることと所有物件の資産価値を守るということ、また退去時の原状回復を念頭に考えていきましょう。
 
【プチリフォームの範囲について】
どの範囲までプチリフォームを許容するかはオーナー次第ですが、
一般的に多く見られるのは、壁紙の張り替え、備え付け棚の設置などです。
 
壁紙・クロスはそもそも経年による変色や剥がれなどが起こるものですし、退去時の原状回復義務は元々貸主側にありますから、
借主が好みのものに変えたとしても特に問題はないでしょう。
 
備え付けの棚については、クギやネジで壁などに穴をあける場合は、どの程度までOKなのかを細かく決めておく必要があります。
壁は、画びょう程度の穴ならば借主に原状回復義務は生じませんが、長いくぎなどはNGというのが一般的です。
これは住戸の構造的に、深く穴をあけると壁の奥の階層まで達してしまい、
その穴を埋めるのに費用がかかるからです。画びょうの小さく浅い穴ならば特に問題ないわけです。
これを許容するには、例えば特定の壁面だけを釘打ちOKにするとか、
壁の上にさらに板を取り付けて壁面を守りながら加工可にする、などの工夫が必要かもしれません。
 
この他、トイレにウォシュレットを導入したいとか、エアコンを自分で選んだものにしたいとか、
既存設備の交換を希望する人もいます。
この場合は、それを許容するのかというほかに、退去時にその設備をどうするかを決めておくことが必要です。
元に戻すのか残していくのか、残す場合オーナーが一部費用を負担するのかなど、契約時に明確にしておきましょう。
 
この他、入居する人によって要望はそれぞれありますから、あとは個別の相談になるかと思います。
それをOKにするかどうかは、やはりオーナーが都度判断することになります。
 
【プチリフォーム可にするときの注意点】
前項でも触れましたが、どのようなことがOKで、どのようなことがNGかを明確にしておくことが大事です。
「OK」とはつまり借主は原状回復義務を負わないということで、反対に「NG」はやってしまったらお金をかけて元に戻してもらいますよ、ということです。
 
これは退去時のトラブルにつながるので、賃貸借契約時にすべて「特約」として明文化しておく必要があります。
入居中に要望として出てきたものについても、必ず双方合意の上、契約書の内容を改訂しておきましょう。
 
また、もしもプチリフォームを許容するつもりはあるが、自分が知らないところで入居者に変えられるのは抵抗があるという場合や、
事細かくできることを確認されるのが煩わしいという場合は、入居希望者が内見に来たときなどに、ある程度はプチカスタマイズの要望に応えられますということを伝えて、
その時点で可能な範囲で改修を受け入れてしまうというのも一つの方法です。
 
入居希望者を満足させて入居を確定させる決め手になりますし、最初からその施工費を予算に入れて収支計算しておけば、経営戦略上問題はないでしょう。
いずれにしても、顧客のニーズをつかみ入居してもらうこと、原状回復を考えて退去時のトラブルを予防しておくこと、
もちろん賃貸経営にプラスになることを考えてプチリフォームの形を決めていきましょう。

賃貸管理サービスについて
不動産投資において、オーナー自らがすべての管理業務を行うのは現実的ではありません。
不動産管理会社による賃貸管理サービスを活用することにより、
賃貸経営に集中できる環境づくりが大切となります。以下では具体的な賃貸管理業務を紹介します。

入居管理
【入居者募集】
指定流通機構であるレインズ(不動産流通標準情報システム)への物件情報登録はもちろん、不動産情報サイトや自社サイトへの物件掲載、
インターネット広告への出稿などにより、効率的に入居者を募集します。
 
【審査、契約締結】
入居者の審査、連帯保証人や保証会社による保証を確実に行い、契約締結をサポート。
もちろん、契約の前提となる重要事項説明、各種必要書類の準備、火災保険および地震保険などへの加入に関する手配も行います。
 
【集金管理、督促】
金融機関の必要書類の準備、収納管理サービス会社の手配、貸主口座への入金業務などを行います。
また、家賃引落しができなかった場合の入居者への迅速な督促、滞納者への必要な措置を実施します。
 
【解約手続き、原状回復】
入居者からの解約手続き、退去時における物件立会い、必要な書類や物品の受渡し、
敷金の精算などをサポートします。また、原状回復に必要な工事の手配も行います。
 
【関連各社との連携について】
賃貸管理業務を通じて、保証会社、保険会社、収納代行会社、清掃会社、リフォーム会社、警備保障会社、金融機関などとの連携を行います。
建物管理
【建物巡回】
定期的な建物巡回により、建物外観のチェック、ゴミ置き場、非常階段、廊下など共用部分の状況を把握します。
また、電気設備、給排水設備、消防設備、エレベーターなどの定期点検を行います。
 
【清掃】
ゴミ置き場の清掃および片付けはもちろん、エントランス、廊下、階段、手すり、駐車場、自転車置き場など各所の清掃を行います。
集合ポスト、自動ドア、掲示板回りのゴミ拾い、拭き掃除も実施します。
 
【リフォーム】
入居者が退居した際に必要となる鍵の交換、クロスの貼り替えなどに適宜対応します。
また、フローリング、キッチン、バス、トイレなどのリフォームについても必要に応じ見積りを提示します。リノベーションのご相談も承ります。
 
【クレーム対応など】
入居者からのクレームに対応するほか、各種トラブルにも対処します。オーナーの困りごとにも、
各種提携先の紹介をはじめ、さまざまなサポートを提案・提供します。


賃貸経営に関するアドバイス
【法律関係】
入居者との賃貸借契約にかかわる法的トラブル、建築基準法上の問題、不動産登記、測量、
境界線などに関する相談などに対して適切なアドバイスや法律専門家の紹介を行います。
 
【税金関係】
不動産を取得した際には、不動産取得税、消費税、登録免許税などの税金がかかります。
また、不動産を所有して賃貸経営を行っているときには、不動産所得に対する所得税や住民税、固定資産税、都市計画税などが発生します。
そして、不動産を売却した際には、譲渡所得に対する所得税や住民税を支払わなければなりません。
これらの税金にかかる確定申告や節税対策について、税務専門家の紹介を通じてサポートします。
また、個人事業から法人成りする場合や不動産管理法人を設立する場合にも、適宜アドバイスを行います。
 
【相続、遺言、事業承継】
相続に関しては、遺産分割、相続登記、売却による納税資金の確保、遺言の活用についてのアドバイスを行います
また、相続税の対策として、暦年贈与や相続時精算課税の活用、相続税評価額を下げるための資産運用方法、
小規模宅地等の特例などに関して、税務専門家の紹介を通じてアドバイスします。
事業承継では、不動産だけでなく、自社株に対する事業承継税制の活用にも配慮した総合的な対策を提案します。
 
【土地活用】
アパート、マンション、戸建て賃貸などの活用方法のほかにも、重層長屋、シェアハウス、民泊、月極駐車場、コインパーキング、サービス付き高齢者住宅など、
土地形状や環境など、個別の状況に合った土地活用方法を提案します。


賃貸管理はプロに任せるのが安心な理由
コスト削減のために賃貸管理を自分で行うのも一つの方法です。しかし、想像以上に管理業務が大変だったり、
逆にコストがかかったりしてしまう場合もあります。
実際にどのような業務が必要となるのかを知ることで、管理業務を自前で行うのか、委託するのかの判断にも役立つと考えられます。
以下では賃貸管理の主要な業務を紹介してまいります。


無駄のない入居者募集や契約締結プロセス
【入居者募集は前入居者の退居前から準備】
空室期間を作らないようにするためには、入居者から賃貸借契約の解約申し入れがあった場合、
すぐに次の入居者募集のためのアクションを起こす必要があります。
 
前入居者の退居前から準備して、切れ目なく、入居者を確保しないと物件の収益性が低下します。
しかし、退居手続と入居者募集を並行して実施するのは大変なことです。特に、複数の賃貸物件を運営している場合には、
専門の管理会社に任せる方が効率的になるかもしれません。
 
【的確かつ客観的に行いたい入居時審査】
入居者候補が賃貸借契約を締結するのにふさわしい人物かどうか審査することも、トラブル防止のためには重要なことです。
しかし、個人で賃貸業をしていると、やることがたくさんあってこうした入居時審査がおざなりになることがあります。
入居申込書への記入事項をチェックすることに始まり、連帯保証人の確保、保証会社の手配、審査結果の確認などを的確に実施する必要があります。
 
一方、トラブル防止への意識が高すぎると、審査の基準を上げてしまうことで、なかなか入居者が決まらないという事態にもなりかねません。
基本的には、客観的な判断が求められます。
 
【契約締結、更新(民法改正への対応も)】
賃貸借契約の締結や更新も専門的なノウハウが必要とされる分野です。契約書のひな形はインターネットなどでも入手可能ですが、
自身の状況に合った契約条項になっているかについてはよく確認した方がよいでしょう。
 
原状回復義務や敷金の取扱など、契約終了時にトラブルになりやすい項目も多くあります。
2017年の民法改正は120年ぶりの大改正となっており、債権法を中心に大幅な変更がなされています。
たとえば、原状回復義務の範囲などについても規定が新設されています。
このような法改正にも適時に対応していかなければならない点には留意が必要です。

集金や建物管理はプロに任せた方が角は立たない
【口座管理、毎月の入金確認、督促業務】
賃貸収入を得るために、もっとも重要な業務です。したがって、正確にきちんと行う必要がありますが、
複数の入居者に対して毎月の入金確認や督促業務を行うことは、事務的にはかなり煩雑です。
プロに任せることで、手間を省くことはもちろん、お金のやり取りで角が立たないというメリットもあります。
 
【建物巡回管理、清掃業務】
建物の巡回管理や清掃業務も、オーナー自身で行うのは大変な業務の一つといえます。自分で巡回や清掃をしないで、
清掃業者に委託したり、清掃スタッフを雇用したりするにしても、他の賃貸管理業務と同時に行うのは負荷が大きいといえるでしょう。
 
【リフォーム、修理などの手配】
共用部分の日常的な修理や退去時のクロス貼り替え、鍵交換なども業者への手配が意外と大変です。
共用部分では、電気設備、消防設備、エレベーターの定期点検など対応が必要なことも多く、
やはりオーナーが自身で行うより、プロに任せる方が現実的な分野です。
 
【トラブルやクレームへの対処】
入居者のトラブルやクレーム対応は時間が取られるだけでなく、オーナーに対するクレームであれば、お互いに感情的になる可能性もあります。
第三者が間に入っていることでスムーズに対処できるというメリットがあります。

サブリース(一括借上げ)でさらに安定経営を目指す
上記のように、賃貸管理業務を専門会社に任せるメリットはたくさんありますが、さらに安定した賃貸経営を目指す一つの方策として、
サブリース(一括借上げ)制度の活用があります。
 
サブリース契約では、オーナーと借上げ会社間で保証家賃を設定することにより、空室が出た場合でもオーナーは一定の保証家賃を受け取れることになります。
また、入居者は借上げ会社と直接契約を締結するため、オーナー側は個別の契約管理から解放されます。
 
実際にどのような入居状況であるかはレントロール(入居状況の一覧表)で確認できるほか、
借上げ会社から修繕履歴その他の事項を含む定期的な報告を受けることができます。
 
以上のように、賃貸管理の委託やサブリース契約を活用することにより、
オーナーが本業である仕事やビジネスとしての賃貸経営に専念することができる環境を生み出せます。


住まいを貸す契約の流れ
住まい(持ち家または投資物件)を貸す場合には、やらなければならないことがいくつもあります。
事前に知っておくべき手続き、ポイントを紹介します。

入居者募集の準備
1.不動産会社に仲介および物件管理を依頼する
個人が自己所有する物件について借主と賃貸借契約を結び、経営を行う分には宅地建物取引業には当たりませんので、宅地建物取引業免許は不要です。
しかし、入居者募集から始まり、契約とそこに至るまでの諸々の書類準備や手続きをすることは、素人ではなかなか難しいことです。
しかも、もしも入居後に契約内容についてトラブルが起きたりしたら、うまく対応できないことが多いでしょう。
 
そのようなことを考えると、一般的には不動産会社に物件の賃貸借取引の「仲介(媒介)」を依頼することが無難な選択となります。
不動産会社は住まいの賃貸借にかかわるすべての手続きを貸主に代わって行ってくれます。
 
不動産会社に仲介業務を依頼する際には、媒介契約を結びます。媒介契約には具体的な不動産会社の活動内容によって「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の三種類があります。
それぞれに特徴があり一概にどれがいいとは言えませんし、もちろん費用が発生するので、自分に合った契約形態を選択しましょう。
 
さらに借主が住み始めた後には、家賃の回収、住戸のトラブル対応、清掃やメンテナンス業務、空室になった場合の入居者再募集など、
貸主には賃貸経営にかかる業務がたくさん待っています。これらについても、代わりに引き受けてくれる不動産管理会社に業務委託するのが一般的です。
賃貸仲介会社が管理業も行っていることが多いので、一つの不動産会社に合わせて依頼することも可能です。
 
2.物件の概要を正確に把握する
住まいを貸し出すには、その物件がどのようなものなのかを正しく把握した上で明示をしなければなりません。
借主にとっては、住む家の情報が曖昧だったり不足していたりしたら、借りようという気にはならないものです。
 
ですから、物件の内・外部、付属施設、利用可能な交通機関、周辺の公共施設や環境といった物件概要については、詳細で正しい情報を調べてそろえていきます。
住戸については正確な面積、各種付帯設備、収納の数、築年数など、付属設備は、駐車(輪)場の有無と料金、セキュリティー設備、ライフラインの設置状況などを明確にします。
交通機関・周辺環境といった物件そのもの以外の情報は、候補となる入居者属性の範囲に影響するので、できるだけ便利でかつ多様性が出るように調べましょう。
 
これら物件概要の調査・作成についても、基本的には仲介依頼先の不動産会社が行ってくれます。ただし住居の情報については、
持ち主である貸主が提供することになるので、購入時から保有している情報を事前に用意しておく必要があります。
 
3.賃料を確定する
物件の概要を把握するのと合わせて、所在エリアの家賃(賃料)相場を調べます。そして物件概要と相場を照らして貸し出す物件の家賃を決めていきます。
 
家賃の算出方法として、「積算」「比較」といったニつの方法があるので紹介します。
 
「積算」とは、土地の購入資金や賃貸住宅の建設資金など、賃貸住宅建設に必要な費用を積み上げ、そこから月額家賃を算出する方法です。以下の式で表されます。
 
{(土地+建設費)+(借入金額+金利)+貸主の利益}÷ 償却期間 = 月額家賃
 
これに対し「比較」による算出は、対象物件の周辺に所在する類似した物件の家賃をいくつか調査し、
それを立地、築年数、間取タイプ、設備、仕様などから修正し、自己物件の家賃を算出します。
 
「積算」によって賃料を算出しても、その賃料が相場とかけ離れていては借りたいというニーズを獲得できませんから、
最終的には「比較」による方法で市場性をチェックする必要があります。
その際、「3DK月額12万円」というように賃料の「総額」で比較する方法と、「単価」で比較する方法があります。
この「単価」というのは「坪単価(または1帖あたりの単価)」のことで、有効居室面積、
つまり住宅の総面積から水回りや廊下、玄関など居室として使用できない部分を除いた単価で考える方法です。
この方法ですと、近くに比較できる物件がないときや、変則的な間取りの物件での賃料査定が可能です。具体的には、
有効居室面積1帖あたりの単価を算出し、対象物件の有効居室面積に当てはめていきます。
 
しかし、適正家賃の設定には、その物件が持つ固有の要素や相場などを加味することが必要不可欠です。
ですから、そうした情報に詳しい地元の不動産会社や多くの物件の仲介を取り扱っている不動産会社に賃料の査定を依頼することは、
間違いやなかなか借り手が見つからないというリスク低減につながります。
 
4.入居者募集要項を設定する
入居条件については、ターゲットとなる候補者属性を含めてきちんと考えなくてはなりません。まず間取りや広さによって、
一人暮らし向けか家族向けかが分かれます。交通利便性や周辺環境によっても通勤・通学する人向けか、子育てする家庭向けかなどが分かれます。
 
同じ一人暮らしでも近隣に大学や専門学校などが多ければ、学生中心の募集となるでしょう。
また、セキュリティー設備がしっかりしているとか日常の管理面を強化しているという物件ならば「女性限定」という選択もできるかもしれません。
そうすると安心・安全を求める女性にとっては魅力的な物件になるので、空室を回避する対策になる可能性があります。
ただし入居条件を狭く限定すると、思ったより応募が少なかったときに募集範囲を広げることができないので、
反対にデメリットとして作用してしまう可能性も十分に考える必要があります。
 
このほか「ペット」をどうするか、「楽器」などの音が出るものについての条件・ルールはどうするかなどは、
物件の構造・仕様上可能かどうかと近隣への迷惑という点も考えて決める必要があります。トラブルが面倒だから全部禁止という考え方もあるでしょうが、
許容することによって同地域の競合物件に比べて魅力が打ち出せて優位に賃貸経営が行えることもあるので、最初は広く可能性を探ることも必要です。
 
さらに、入居時の初期費用の設定で競争力を高める方法もあります。敷金や礼金を減額するほか、入居当初一定期間の家賃を不要とする「フリーレント」も効果的です。
 
5.契約条件(普通借家か定期借家か)を確定する
賃貸借の契約条件について、普通借家契約にするのか定期借家契約にするのかを検討して決めましょう。
 
普通借家契約ですと、たとえ契約期間を設定しても、契約期間満了時に借主は契約更新をして住み続けることができます。
貸主側から契約更新を拒絶、解約する場合は、正当な事由が必要であることと、
借地借家法で定められた一定期間以上の予告期間を設けた上で更新をしない旨の通告を行うことという要件を満たさなければなりません。
また、契約期間の途中で解約を求める場合は、必ず契約時に中途解約についての特約を設定しなければなりません。
その上で正当事由をもって、法令で定められた通告期間などにのっとる必要があります。
 
一方、定期借家契約ですと、貸主に正当な事由がなくても賃貸借契約期間の満了をもって契約が終了し、借主は住戸を明け渡すことになります。
ただし定期借家契約でも、契約期間が1年以上の場合は借主に対して契約期間の終了についての通知義務がありますので注意が必要です。
また、借主から見れば普通借家契約よりも不利な契約になりますから、一般的に定期借家の賃料は低めになります。
さらに礼金などの一時金を授受する理由も希薄になるため、賃貸収入は低めになると考えられます。

入居者募集から賃貸借契約まで
1.入居者募集広告の費用負担について
仲介する不動産会社によっては、入居者募集の広告出稿に対して、貸主に別途費用の負担を求めることがあります。
不動産会社からの申し出に納得した上で広告活動を行った場合には、当然その費用を負担することになります。
 
もちろん不動産会社はその費用分の広告活動を行いますが、借主が見つかったとして結果的にその効果によるものかどうかは明確に測りにくいものです。
ですから、広告活動については不動産会社に任せきりにせず、事前に内容を理解・協議した上で決めるべきでしょう。
 
媒介契約の種類によって頻度が異なりますが、仲介会社は貸主に対して活動状況の報告義務を負います。
この報告内容についても事前にきちんと決めて、十分に状況の把握ができるようにしておきましょう。場合によっては方針変更が必要になるかもしれませんので、
その検討ができるように仲介会社とうまく連携しておくといいですね。
 
2.入居資格要件の確認
入居資格要件とは、どのような人に住んでもらうかということをあれこれ考えて設定する、借主に対する条件です。
これは賃貸後の家賃滞納やその他のトラブルを回避して、円滑な賃貸経営をするためには不可欠な事項です。
 
一般的に設定する要件としては、「収入」、「職業および勤務先」、「勤務形態」、「職歴」、「クレジットカード・ローンの滞納歴」などが挙げられます。
この他、連帯保証人を必要とする場合は該当人物の有無が必要になります。これら設定した入居資格要件は、「入居審査」を行って賃貸可否を判断します。
入居審査は仲介を依頼している不動産会社・管理会社が代行する場合と貸主自身が行う場合があります。貸主自身が審査する場合はいいですが、
不動産会社が代行する場合は、より明確に要件設定をしておいて貸主の意向を十分に共有しておく必要があります。
特に書類での記載内容からはわからない「人柄」については、見るべきポイントを事前に確認しておかなければなりません。
 
また、連帯保証人を立てる代わりに家賃保証会社を利用する場合は、家賃保証会社による入居審査も行われることになります。
万が一の滞納家賃を保証するわけですから、家賃保証会社の審査はより厳しい基準が設けられていると言われています。
 
3.借主に用意してもらう書類
賃貸借契約に際して借主に用意してもらう書類は、基本的に入居申込書に記載してもらった内容を証明するものになります。
具体的には「住民票」、「収入証明書(源泉徴収票か納税証明書)」、「本人確認書類(運転免許証、学生証など)」、「実印および印鑑証明書」、
「連帯保証人の承諾書」、「連帯保証人の住民票・印鑑証明書」などです。
 
4.賃貸借契約を締結するときのポイント
賃貸借契約の締結は、貸主が賃貸借契約書を発行し、貸主・借主双方がその内容に合意することで実行されます。
つまり、基本的に賃貸借契約書に記載された内容が賃貸借契約の全てと言えます。
ですから、契約書そのものは不動産会社が代行作成したものであっても、貸主はその内容を確実に理解・把握している必要があります。
特に金額設定や支払いに関わる事項、住戸の使用ルールに関する事項は、入居後のトラブル回避という点で重要ですので、曖昧な表現になっていないか確認しましょう。
 
また規定の記載項目以外の取り決めは「特約」という形で記載します。例えば更新について、更新料やその他特別な決め事をする場合、
中途解約についての取り決め、退去時・原状回復に関する事柄など、法令に抵触しない範囲内で貸主が任意で定めることができるものは、
慎重に検討した上で追加することをおすすめします。ただし、もう一方の契約当事者である借主の合意が得られなければ成立しないので、
内容についてはよく考える必要があります。明らかに借主に不利な内容については、
たとえ契約時に借主が合意したとしても後に無効になる可能性があるので、そのこともきちんと知っておきましょう。

契約の更新と退去手続きについて
1.契約更新について
普通借家契約で契約期間が満了になると、次の契約期間を定めて貸主・借主の合意のもと更新手続きを行います。
これを「合意更新」と言います。一方、更新手続きを行わなくとも契約を更新・継続することはできますが、その場合は「法定更新」となり、
更新後の契約期間は定めのないものとなります。法定更新では従前の契約と同一条件での契約更新となります。
 
通常は契約期間を定めて、期間満了ごとに合意更新を繰り返していくべきでしょう。
貸主側としては、契約更新に合わせて家賃や管理費の見直しを行いたい場合もあるでしょう。
また、その他契約条件についても変更が必要になるかもしれません。さらに契約更新時に借主から「更新料」を徴収する場合もあります。
これが合意更新ではなく法定更新になってしまうと、法定更新後の契約期間は定めのないものとなり従前の契約内容がずっと続くことになるので、
それ以降は更新料の徴収はできなくなります。
 
法定更新となる事例としては、貸主が契約期間満了の6ヵ月以上前までに契約更新についての何らかの通知を借主に対してしないまま満了日を過ぎた場合があります。
また、一定期日以内に契約更新についての通知をしたが、その内容に借主が異議をもって応じず、合意されないまま契約満了日を過ぎたという場合もあります。
これは賃料値上げなど、金銭に関わる契約条件の変更を提示するときに起こりやすい事例です。
例えば貸主が契約更新の条件として賃料値上げを掲げ、借主が承諾しないと更新を拒絶するという通知には「正当な事由」が必要であると借地借家法で定められています。
仮にそのような内容を特約で定めていても、借主が合意しなければ法定更新になってしまうので、
契約更新時の通知時期と内容については、借主との信頼関係に基づいて慎重に考えた方がいいでしょう。
 
なお、更新時に家賃を値上げするための「正当な事由」としては、「土地建物に対する公租公課の変動」「土地建物の価格変動や経済事情の変動」
「近隣建物と比較して家賃が不相応になった」などの明確な根拠があるものが挙げられます。
このあたりのことは判断が難しいので、専門家業務として行っている不動産管理会社に相談するといいでしょう。
 
2.退去手続きについて
入居者から解約の連絡を受けたら退去の手続きを行います。
借主都合での解約申し入れは、一般的に1カ月~3カ月前に設定されることが多いです。この期日設定については、必ず契約内容に盛り込まれるものです。
あとは申し入れの方法をどうするか、解約通知書の提出を求めるのか、それに代わる手段にするのかも契約内容に明示しておきます。
 
借主から解約の申し入れがあったら、貸主はすぐにその手続きに入ります。
退去日から算出した日割り家賃について、退去日の予定確認、引越し作業後の住戸内の確認について、その後の原状回復のための敷金精算についてなどを明確に説明し、
退去時点でのトラブルの発生を予防しておきます。精算などの連絡が後日になる場合は、移転先の住所、電話番号、メールアドレスなどを必ず聞いておきます。
新たな電話番号などが決まっていないという場合は、確定後速やかに知らせてくれるように依頼します。
 
もしも引越し後に入居者の残置物が住戸内外に残されていた場合、退去後であっても貸主が勝手に処分することはできません。
こうなると元入居者に残置物がある旨を連絡して、どうするかを確認した上で対応することとなり、かなり厄介です。そうならないために、
退去時に入居者所有の荷物がすべて運び出された後で、入居者立会いのもと現況確認を行うべきでしょう。
引越し時に出たゴミの処分を含めて入居者に責任をもって完了してもらうようにしましょう。
 
退去時は最後の金銭授受を行う場面なので、トラブルが発生しやすくなります。原状回復のための現況確認など、
一般の貸主には判断が難しいものです。やはり多くの場合不動産管理会社の力を借りることになるでしょう。