• 店舗開業について

店舗開業について

起業の形は法人設立と個人事業主のどっち?
これから起業・独立開業しようという場合、まず法人を設立するか個人事業主にするかを決める必要があります。
または、個人事業主から法人化を検討する場合もあるでしょう。
まずは、法人設立と個人事業主の違いやそれぞれのメリット・デメリットをきちんと知っておきましょう。

法人設立と個人事業主の違い
法人設立と個人事業主の違いは、簡単にいうと会社を立ち上げるかどうかです。
法人の場合は、一般的に株式会社や合同会社などをつくり、法務局に法人登記をすることで「法人」として認定されます。
法人とは、法律上人格を有し、権利義務の主体として認められたものです。
 
株式会社や合同会社以外にも、「一般社団法人」や「一般財団法人」など複数の種類がありますが、
法人のうち90%近くが株式会社か合同会社になります。
株式会社も合同会社も同じ「法人」になりますが、合同会社は2006年に会社法が改正したことで誕生した、比較的新しい会社形態です。
 
一方、個人事業主は自分自身で事業を営む個人のことを言いますが、個人事業主として開業するための要件として、
税務署への「開業届」の提出があります。
この届出を行うことで、誰でも個人事業主になれます。
 
個人事業主の「個人」について簡単に説明しておきます。
まず「事業」というのは、利益を得るための活動を継続的に行うことを指します。
例えば商品を仕入れて顧客に販売しその差額でもうけを出す、ということを繰り返し行うことです。
この事業活動を個人で営むのが個人事業主ですが、一人で行うことが前提になっているわけではありません。
飲食業や小売業で二人以上の店員(従業員)がいる店舗は、どこでも見られる光景ですが、
このような店舗が「個人事業」の形態であることは多いです。
 
つまり、法人か個人事業主かの違いは規模や従業員数は関係なく、あくまでも「法人登記」「開業届」という、
事業を行うに当たっての手続きによって分かれるということです。
ですから「自営業」や「フリーランス」といった呼称においても、法人化した中での活動もあれば個人事業主としての活動もあるわけです。

法人設立するメリット・デメリット
【メリット1 税金】
まず、税金についてのメリットです。
法人にかかる税金はいくつもありますが、主なものは以下の通りです。
 
・法人税/復興特別法人税
・法人住民税
・法人事業税
・地方法人特別税
・消費税
 
このうち「法人税」は事業年度内の事業所得に対し課され、中小以外の普通法人では税率が一定で23.2%となっています(2018年4月1日以降)。
この税率が一定というのが一つのポイントで、事業所得額が大きくなっても課税の割合が変わらないということはメリットと言えます。
ですから、業績が順調に拡大してきたとか、事業所得が大きいという場合は、法人化した方が節税効果を得られると考えられます。
なお、中小法人(事業年度終了時点で資本金額が1億円以下など)では優遇措置があり、事業所得800万円以下については税率が引き下げられます。
 
また、事業所得金額(課税所得金額)は「益金-(マイナス)損金」で算出します。
「損金」には、主に販売物品の「原価」、販売費などの「費用」がそれに当たりますが、
損金を増やすことで課税対象となる所得金額を減らすことができます。
例えば、社員の慰安のための旅行などのイベント費用、一定範囲内での交際費などがその対象になります。
社長をはじめ役員報酬も損金に入りますが、金額を事前に確定させておく必要があります。
この他損金算入のルールは細かくあるので、それらを踏まえた上で収支予測を立て、
どれほどの節税効果が出るかを確認してみるといいでしょう。
 
【メリット2 社会的信用】
次に大きなメリットとして「社会的な信用」が挙げられます。ビジネスの世界では、
さまざまな企業同士が商取引によって協力や連携をしながら経済活動を行います。
そこには「信用」が介在しており、取引相手の業績や経営基盤、将来性、リスク回避などを含めて信用に足るかどうかが常に見られ、判断されています。
その点で、会社組織の形態を持つ法人は信用度が高いと言えます。中には経営上の規定で、取引は法人に限定している会社もあるくらいです。
 
同じ理由で「資金調達がしやすい」というメリットもあります。
金融機関からの「信用」は個人事業主よりも法人の方が得られるというのは一般的な認識でしょう。
ただし、経営形態がどちらであっても、融資を受けるためには、
しっかりした事業計画と安定的に業績が向上する将来性を提示できることが必須です。
 
【メリット3 債務リスクの有限責任】
事業では、経営状態が悪化して資金繰りがうまくいかなくなることもあり得ます。
もしも支払いが滞ったり倒産してしまったりした場合、法人ではその社員の責任が自分の出資金の範囲に限られます(有限責任)。
つまり、会社が抱えた債務に対して個人の資産は責任の範囲外なので、万が一の時でも差し押さえられるなどということはありません。
 
【デメリット1 設立準備・費用】
次に法人設立のデメリットを見ていきます。まず、設立のための準備が面倒で各種手続きに費用がかかる、ということがあります。
準備としては、定款の作成、株券の作成(株式会社)、公証人認証、法人登記申請(登記書類の作成)、
各種印鑑作成、資本金の払い込みなどがあります(店舗事務所や設備などの準備は除く)。
これらには全て費用がかかるので、その分の資金を用意しておく必要があります。
一般的に数十万円は必要だと言われています。また、並行して社会保険への加入手続きなども必要になります。
 
【デメリット2 会社資産と個人資産の明確な線引き】
法人では事業収益を含めた会社の資産はすべて法人のもので、個人の資産とは明確に区別されます。
ですから、経営者であっても会社の資産を私的に使うことはできません。具体的な例を挙げると、従業員が社長である自分一人の法人を設立したとします。
その場合、社長(自分)に支払う役員報酬はあらかじめ設定しておかなければなりません。
もしも事業年度内に予想以上の収益が得られたとしても、社長は設定した報酬を超える金額を自分のためにもらうことができません。
役員報酬は損金に算入できますが、上限内での毎月定額などの取り決めがあります。

個人事業主のメリット・デメリット
【メリット1 開業手続き】
個人事業主のメリットから見ていきます。まず、個人事業主は開業手続きが楽です。
管轄の税務署に「個人事業主の開業届出書」を提出するだけで始められ、費用もかかりません。
ただし決算月は決められていて、事業年度は一律1月~12月です。これはどの事業主も変更することはできません。
12月の決算期に沿って、翌年に確定申告を行うことになります。
 
【メリット2 事業収益=個人収入】
法人と違い、個人事業主には「報酬(給与)」という概念がありません。「事業で得た収益=(イコール)個人事業主の収入」となります。
つまり、考え方としてはすべて自分の収入と言えます。ですから収益が多ければ、調整しながら個人的に使える金額を増やすこともできるでしょう。
ただし、会計上「経費」として認められるのは、事業に関連するものだけで、
事業に関係のない個人的に使った費用は「事業主貸(じぎょうぬしかし)」という勘定科目として仕分けします。
節税に効果があるのは経費として差し引ける分になるので、そのバランスはよく考えて管理する必要があります。
 
【デメリット1 所得税の税率】
続いてデメリットです。個人事業主が納めなければならない税金は、主に
 
・所得税
・住民税
・個人事業税
・消費税
 
です。
このうち「所得税」は事業所得に課される税金です。
所得税の税率は、所得金額の上昇に応じて段階的に高くなっていく方式なので、
売上が向上して事業所得が増えると支払う税額も増えることになります。
法人税は税率が一定なので、事業所得金額によっては法人化した方が節税できる場合があります。
業績の拡大に伴って個人事業主から法人化を検討する人が多いのは、この税金面が一つの大きな理由でしょう。
 
【デメリット2 社会的信用】
法人のメリットと相反するデメリットです。理由も前述の法人メリットと反対となります。
とはいえ、飲食業では特有の仕入先や流通経路が確立されているという部分もありますし、
こだわりの食材を仕入れるために直接特定の農家と契約する人もいますから、
大口の取引や、ある企業の商品がどうしても必要だという場合以外では、
起業に際してはあまりネックにならないかもしれません。
むしろ魅力的な商品を提供することで、消費者の信頼を得る方が重要かもしれません。
 
この他、まだ双方に細かなメリット・デメリットはありますが、起業の理由や目指す方向などを考えて、
法人設立・個人事業主それぞれの特徴に照らして最適な形を選択することが大事ではないでしょうか。

店舗開業の手順 コンセプト固め~開店まで
自分の店舗を持ちたいと考えていても、決めなければいけないことや、
やらなければいけないことが山積みに思えると、なかなか踏み切れないものです。
しかし、実際には優先して決めるべきことから順番に取り組み、少しずつ組み立てていくことで着実に前に進めるようになります。
考えすぎて動けないとか、行動が先走って無駄なことをしてしまうということのないよう、
まずは店舗を開業させるまでの大まかな流れを見ていきましょう。

店舗コンセプト固め~事業計画書作成
【店舗コンセプトの確立について】
まずは「店舗コンセプト」を固めるところから始まります。店舗コンセプトとは、
今後経営していく店舗の方向性を確立する最も重要なものだと言えます。
これが定まっていなければ店舗づくりの方針がぶれてしまい、開業後の業績に対して正しい可否判断ができません。
ただただ売上がいいか悪いかに一喜一憂するだけの、軸のない経営になってしまいます。
その意味でも店舗コンセプトは、何よりも最初にきちんと考えて確立すべきものなのです。
 
では、店舗コンセプトとはどのようなものなのでしょうか。
例えば「明るくおしゃれなカフェ」とか「安くておいしいビストロ」といった店舗を想定したとします。
しかし、これだけでは店舗コンセプトとしては成立しません。なぜなら、具体性に欠けるからです。
「明るくおしゃれ」「安くておいしい」は、確かにその方がいいですし、お店の魅力の一つにはなります。
ただ、お店のデザインをどうしたいとか、メインメニューとして何を提供したいのか、どういうお客様にどんなふうに利用してもらいたいのか、
などといった具体的な店舗像がイメージできません。
 
言い換えれば、「目指すものが見えてこない」ということにほかなりません。
顧客からすると「味は悪くないけど二回目は来ないかな」とか「何がウリなんだろう?」、
「もっと何とかできそう」などという、決め手に欠くような評価に落ち着いてしまう危険性があります。
 
これは「事業計画」にも大きく影響します。事業計画は店舗コンセプトを基に作り上げていきますから、
その基が曖昧なだと、当然そこから組み立てる事業計画もゆるく隙だらけのものになってしまいます。
ですから、店舗コンセプトはより具体的に「誰に(Who)」「何を(What)」「どこで(Where)」「いくらで(How Much)」「何のために(Why)」などを明確に想定して形づくるといいでしょう
(これは立案の助けとなる「7W2H」という考え方の一部です)。
 
【事業計画の立案について】
店舗コンセプトがしっかりと確立できたら、次は「事業計画」を立案します。事業計画は、店舗コンセプトで掲げたやりたいことを実際に事業として成立させるために、細部にわたり説明したものです。
最終的に「事業計画書」としてまとめ上げます。
 
事業計画書は、金融機関から事業資金を融資してもらうときに必ず提出する重要な書類です。
融資する側は事業計画書を見て、その店舗(事業)が市場で成立するか、継続的に安定した経営が見込めるか、将来的に業績が上がる見通しがあるかを検討します。
その結果、融資可否の判断をし、融資額の上限を決めるのです。
 
金融機関は、優良だと判断した事業案件には積極的に資金を貸してサポートしてくれますが、逆の場合は厳しい判定を下します。
これは当然のことですから、融資を受ける側は、貸す側が前向きになれるような計画を提示する必要があるのです。
 
事業計画の内容は、大きく分けると「事業の目的」「経営計画」「収支計画」の三つの項目で構成されます。
この項目をさらに細分化して、具体的なサービス内容、必要な場所・設備、初期費用、販売物品(原材料)の仕入れ方法と費用見込み、
想定生産量、ターゲット顧客層、収支予測、損益分岐点の想定といった具体的な項目を細かく検討・確定していきます。
 
事業計画は、何も融資を得るためだけに頑張って作るものではありません。立ち上げた事業がうまく進んでいくように、必要な都度確認していくものでもあります。
業績が低迷したときには、どこかを変えたり削ったりしなければならないかもしれません。あるいは好調が続けば事業拡大を検討することもあるでしょう。
それらのときに、きちんと創業時の計画を基に考えられるというのは、とても大切なことです。そのために、夢を持ちながらも冷静に堅実な事業計画を作成しましょう。

出店場所・物件の選定~資金調達準備
【出店場所・物件の選定について】
事業計画書の作成がある程度進んだら、実際に出店する場所を考え、店舗物件を探し始めます。提供しようとする製品・サービスに雰囲気がマッチしているのか、
想定する顧客層の来店が見込めるのか、競合店の存在はあるのか、予算と賃料相場のバランスは取れるかなど、さまざまな視点で検討する必要があります。
 
すでにコンセプトは確立されているので、店舗のイメージは描けているはずです。
あとは事業計画で策定済みの資金計画に基づいて、現実的な予算配分でどの候補地が最も適しているかを絞り込んでいくことになります
。とはいえ、希望条件をすべて満たした物件はなかなか見つからないものです。大抵は妥協する部分が出てきます。
そのときに、規模を縮小するのか、サービス内容を見直すのか、不便さを我慢するのかなど、判断が必要になるでしょう。
 
いずれにしても、一度出店すればそう簡単には移転するわけにはいきませんから、事業継続と将来性もよく考えて店舗選定を行いましょう。
 
【資金調達について】
事業計画書が出来上がったら、実際に資金調達に動きます。借りる店舗候補が絞れて、具体的な契約の話が進んでいるのに、お金の準備が未確定では何も始められません。
ですから、金融機関への融資相談はタイミングをきちんと計ってするべきです。
 
大抵の場合は、事業計画書を持って担当者と面談を行います。計画に不明点や資料の不足などがあれば、修正の上再度提示することになります。
必要な書類が整ったら審査へと進みます。そこで融資の可否判定もしくは融資金額が確定することになります。
 
融資を受ける際には、開業資金として必要な金額と当面の運転資金として必要な分をきちんと分けて考えておく必要があります。
この点は、事業計画が綿密に策定されていれば問題はありませんが、開業後に売上が軌道に乗る前に資金がショートしてしまうということはあり得る話ですので、
先々のことも含めた資金調達を考えましょう。

店舗設計・施工~開店準備
【店舗設計・施工について】
晴れて店舗が確定できたら、いよいよ自分の店を作り上げることになります。苦心して練り上げた店舗コンセプトや事業計画をもとに、
デザイナーや内装施工会社と綿密な相談・打合せを繰り返しながら形にしていきます。
 
借りた店舗の状態が、「居抜き」か「スケルトン」かで大きく違いますが、基本的に内装工事・設備機器の導入には、かなりの金額が必要になります。
施工してからイメージが違うとか、発注と施工内容が合っていないということがあっては、やり直しに無駄な費用がかかる上に工期も間に合わず、
開店が延期されるおそれが出てきます。
 
そうならないためには、複数の会社に相見積もりを取り、きちんと比較検討した上で、信頼できると判断した会社に依頼することが必要です。
相見積もりを取るときは、各社に対し条件を同じにすることが大事です。そのためには、施工内容をできるだけ具体的に項目立てて、
できるだけ曖昧な部分がないように心がけましょう。
 
最終的には、デザイン・施工の実現性と費用・スケジュールとの折り合いの付け方をどうするかということになりますが、
その点は勘所を抑えているプロの会社にうまく相談してみるといいと思います。
また、店舗の内装には法令による制限がかけられており(内装制限)、業種や店舗規模などで規制内容が異なります。
この制限が守られていないと営業はできませんから、自分で規制内容を理解するとともに、施工会社にも確認して不備がないように気をつけましょう。
 
【開店準備について】
店舗そのものの施工を進める一方、並行して開店準備も進めなければなりません。
飲食店の場合は、店舗コンセプトに沿ったメニューを考案し、仕入れルートを確立する必要があります。
調理器具や食器、客席の家具・什器・装飾品の購入も必要です。
 
従業員を雇う場合は、その手配もしておきます。従業員が仕事を覚えるための研修はどうするか、内容と期間の検討が必要です。
一人でも人を雇えば、事業主にはその人に対する責任が発生します。
賃金の支払いについてはもちろんのこと、社会保険への加入など福利厚生面でもやらなければいけないことは出てきます。
労働基準法に対する理解を深めておくことは、必須でしょう。
 
また、忘れていけないのが、店舗開業にあたり必要な資格の取得や届け出、許可申請です。
業種や取り扱う物品、営業時間により必要な事柄が異なりますから、
自分の事業内容で該当するものを正しく把握しましょう。一つでも失念すると営業ができません。
取得や申請にかかる期間に注意を払いながら、確実に手続きをしておきましょう。
 
開店に向けた店舗と提供サービスの準備が整ってきたら、開店告知のことも考えましょう。
事前に新規開店を告知しておき、幸先の良いスタートダッシュを切りたいものです。
今や宣伝・情報発信・集客・コミュニティーの創出において、手軽で効果的なのはインターネットの利用であることは周知の事実です。
営業を開始してからホームページやSNSを立ち上げようとすると、日々の仕事に追われてなかなか手がつかなくなるものです。
できるだけ開店前の準備期間に時間をつくり、自前のメディアを立ち上げておきましょう。
そうすれば事前告知もでき、早めのファン獲得も期待できます。


「店舗コンセプト」が重要な理由と設定方法
店舗を開業し経営していくためには、やるべきことがたくさんあります。
その中でも、店づくりの基盤となる特に重要なものが「店舗コンセプト」です。
店舗の新規開業においては、まずしっかりとアイデアを練り、明確な店舗コンセプトを定めることが、
開業後の業績を大きく左右すると言ってもいいでしょう。
では、「店舗コンセプト」の重要性と設定にあたっての考え方を確認しましょう。

店舗コンセプトが重要な理由 1:店舗経営の根幹
「店舗コンセプト」とは、経営者が持つ「どういう店にしたいのか」という考えのこと。
店舗を経営していく上での根幹であり、柱となるものです。
そのため、店舗コンセプトがしっかりしていればしているほど、
その後に付随する具体的な事業計画や方針が明確になっていきます。
 
例えば、店舗コンセプトが「ハワイ」という飲食店をスタートさせることを考えてみましょう。
まずはハワイ料理を提供することはもちろん、内装や店員の制服もハワイにふさわしいものにしようというふうに考えがまとまり始めます。
ただし、実際には「ハワイ」の料理店という発想だけでは、店舗コンセプトとしてはまだまだ不十分。
事業を継続的に運営し、成功に導いていくための柱としては頼りない状態です。
 
具体的には、「どこよりも美味しいハワイ料理」というような、漠然としたキャッチコピーのレベルにとどまることなく、
「近くの競合よりも安くて、本格的な輸入食材を使用した本場ハワイの味を、ファミリー層に食べさせたい」というふうに、
できるだけ詳細かつ明確に考えることが大切です。
 
このように、店舗コンセプトは経営の根幹・柱になりますが、同時に起業の出発点でもあります。事業はいつも順調であるわけではありません。
むしろやりたい事に対して資金が足りなかったり、当初の客足が想定よりも伸びなかったり、欲しい食材が仕入れられなかったり、
あるいは後発で競合店が出店してきたりなど、乗り越えなければならない問題が次々に現れます。その時に都度立ち返り、確認するのは店舗コンセプトです。
それにより、さまざまなマイナス要因にも揺るがずに、本来の店づくりに沿った改善策を講ずることができるのです。

店舗コンセプトが重要な理由 2:事業計画に必須
起業するときに、自己資金だけでは開業資金や運転資金が不足してしまうというケースは珍しくありません。
こういった場合には金融機関から融資を受けることになります。そのときに必要になるのが「事業計画書」です。
事業計画書は、事業主が起こす事業をどのように展開していきたいのかを具体的に細かく表したものです。
金融機関は、提示された事業計画書によって、事業の妥当性、継続性、将来性を見極めて融資可否を判断します。
店舗コンセプトなくして事業計画は策定できません。
従って、必要な資金融資を得て不安のないスタートを切るためにも店舗コンセプトはとても重要です。
 
事業計画書には、事業の目的・内容、経営方針、販売戦略・売上予測などを記入します。
もし店舗コンセプトが不明瞭でうまく記入できなければ、経営の見通しも不明瞭と見られてしまいます。
そうなると、融資額の返済見通しに疑問符が付き、融資判断にはかなりマイナスになります。
融資する側にはリスクを負ってまでお金を貸す理由はありませんから、これは当然のことです。
融資額の減額や、融資を受けられない可能性が高くなってしまいます。
 
最初の思い付きの段階では夢が膨らみ、そればかりを追い求めていたかもしれません。
しかし、それを事業として確立して、さらに自分以外の協力者に伝えて賛同を得るためには、客観的に判断できる資料が必要なわけです。
それを作り上げるもとになるのは、やはり店舗コンセプトということになります。

店舗コンセプトを設定するためには
店舗コンセプトを考え、設定していくにはいくつかの方法があり、設定に当たっては複数の要素が絡み合うため、
目的や問題点をさまざまな視点から考える必要があります。
ここでは、店舗コンセプトを設定するための代表的な考え方を三つ紹介していきます。
 
【「7W2H」で考える】
「7W2H」とは、英単語(疑問詞)の頭文字をとったもので、ビジネスにおいてよく知られている考え方です。
 
〈Why〉なぜ/何のためにその店を開業するのか?
〈When〉いつ/いつまでに開業するのか?
〈Where〉どこ/どのエリア・立地に出店するのか?
〈Who〉だれが/誰が誰と開業・店舗運営するのか?(資金協力・従業員体制)
〈Whom〉だれに/どのような顧客に対しサービスを提供するのか?
〈What〉なにを/どのような商品・サービスを提供するのか?
〈Which〉どれを・どれから/何を優先するのか?
〈How〉どのように/どのように経営あるいは店舗運営していくのか?
〈How much〉いくら/どれくらいの費用と時間をかけるのか?
 
この7W2Hは、目的と手段の整理や、独自の特徴を打ち出すとき、計画を進める順番を判断するときなどに非常に役立ちます。
例えば、先ほどのように「ハワイ」をコンセプトにして飲食店を開業するとすれば、「なぜハワイのテイストを取り入れたいのか(Why)」
「何をメニューとして提供したいのか(What)」「どのような店舗づくりをしてどのように集客するのか(How)」というように、アイデアを7W2Hに当てはめて考えます。
これにより、優先順位や実現性などもある程度見えてくるので、漠然とした夢のようなものが店舗コンセプトとしてブラッシュアップされていきます。
 
【顧客層から考える】
店舗には、老若男女問わず多くのお客様に来てもらうことが理想ですが、ターゲットとする顧客層が広すぎると「誰に何を買ってほしいのか」がわからない、
ぼんやりした店になる可能性が高くなります。
そこで、主に商品やサービスを提供したい顧客層(Whom)を先に明確にすると、コンセプトを固めやすくなります
例えば、先ほどのハワイに加えてターゲット層を大学生や20代の男女と決めたなら、
「大盛り・メガ盛りで写真にも映える料理」「夜遅くまで営業」「パーティー営業やカクテルの充実」
「入店しやすさを意識した設営」「SNSを上手に利用した宣伝」というように、関連事項が次々に派生して、
経営の形が具体的にイメージできるようなコンセプトにつながります。
 
【価格帯から考える】
店舗で扱う商品・サービスの価格帯(How much)をもとに、コンセプトを組み立てていくこともできます。
仮に仕入れコストが大きい商品・メニューを扱うならば、当然販売価格も高くなるはずですから、
スーパーマーケットのように薄利多売にすることはできないでしょう。
 
そうなると、顧客の年齢層はある程度高めだと想定されるので、店構えは高級感のあるものがふさわしいと考えられます。
しかし、近くに雑多なディスカウントストアがあるような落ち着きのない場所では来店してほしい顧客層がそもそも少ない可能性が高いので、
立地の優先度を高めて候補地を検討する、
というように論理立てたコンセプトが形づくられていきます。
 
逆に、競合よりも「安くておいしい料理を提供する」などのコンセプトが効果的な場合もあります。
ただ、ここに記しているのはあくまでも一例、ヒントですから、何をコンセプトの核にするとしても、
それに付随する他の必要な要素を合わせて組み立てていくことになります。


店舗開業成功のカギ!事業計画書の作り方
お店を出して成功を収めるためには、強い情熱が必要です。
しかし、情熱だけでは成功はおぼつきません。
その情熱を金融機関が理解する形で事業計画書に落とし込むことが求められます。
 
事業計画書を作ることで、自分の頭の中を具体的にアウトプットし、金融機関や物件オーナーを納得させ、曖昧な「夢」を目に見える「目標」と「計画」に変えられるのです。
 
それでは、事業計画書を作る目的と、事業計画書に盛り込むべき内容、事業計画書の作り方についてご説明します。

事業計画書の目的と内容とは?
事業計画書を作る目的は、新しい事業に取り組む自分の思いと、それを裏付ける根拠を盛り込んで形にすることです。
 
自分の中の感情や思考を整理することができるため、開業準備をスムーズに進めやすくなります。
また、新事業を客観的に表現するわけですから、物件の調達(対不動産会社)や資金の調達(対金融機関)にも役立ちます。
 
事業計画書の内容は、主に「事業の目的」「経営計画」「収支計画」の三種類に分けられます。
事業の目的として、事業に取り組む自分の思いや「ミッション」を記述します。
次に、経営計画と収支計画で、思いの裏付けとなる事業の方法論や必要資金、予想売り上げなどを具体的に記載していきます。
 
事業を成功させるためには、「情熱」と「冷静さ」の両面が求められます。
事業計画書を作成することで、その両面を客観的な資料の中にうまく位置づけることができるようになるのです。
その意味で、お店を成功させるためには事業計画書の作成が必要不可欠であると言えるでしょう。

事業計画書の作り方
事業計画書の作り方に決まりはありませんが、先に挙げた「事業の目的」「経営計画」「収支計画」の順番で書き込んでいくのが分かりやすいでしょう。
事業の根幹には自分の思いがあるべきだからです。
 
最初に、事業を始める動機や目的について記載します。事業につながる自分の経歴・職歴とともに、事業のサービス内容や競合との差別化ポイントを書いていきます。
「なぜその事業が必要なのか」を、自分以外の他人にも納得できる形で記述することが重要です。
 
目的を書き上げたら、次は経営計画について具体的に記載します。製品・サービスの価格、原材料の仕入方法、組織体制、ターゲット層などを盛り込みます。
これらの根拠として、市場規模の分析や原価、他店の分析内容も添えると説得力が増します。
また、具体的な営業情報として営業日・時間、人員計画、仕入れ先情報も書いておきましょう。
 
最後に、収支計画を作ります。お金にまつわる部分なので、特に具体性と明確さが必要になってきます。
開業に際しての自己資金と融資予定金額、資金の使用方法は必須です。また、事業を始めてからの売上予定金額や収支予測、損益分岐点も書くと資金調達の際に役立ちます。

テンプレートを基に改変してもOK
事業計画書を初めて作る人、作り方の分からない人は、インターネットで入手できるフリーの凡例やテンプレートを活用してもよいでしょう。
実例を見ることで、「事業計画書はこう書けばよいのか」とイメージできます。
 
凡例にしろテンプレートにしろ、参考にするのは同じ業種のものとすることをおすすめします。
できれば、店舗の規模も同じくらいであることが望ましいでしょう。
業種や事業規模によって、事業計画書の内容が変わってくる可能性が高いためです。
 
他人の作った事業計画書を参考にするのはよいですが、オリジナリティーを出すことは意識するべきです。
ただし、あまり図表や画像などを貼り付けて飾り立てる必要はありません。
あくまで、主目的は他人に事業の目的や計画を伝えること。分かりやすくてシンプルなロジックと事実の積み重ねで、
読んだ人を納得させることを念頭に置いてください。

商圏調査の基本とは?長く続けるお店づくり
お店を長く続けるためには、その「商圏」に合ったお店づくりを進めることが重要です。
商圏と自分のお店のコンセプトが合っていなければ、どれほどクオリティーの高い商品でもなかなか売れません。
店舗開業に際して、自分で商圏調査を進めるための三つの基本ステップについてご紹介します。

地図と統計データで商圏の基本情報を整理
まず、地図や統計情報などアクセスしやすい情報を収集して組み立て、
候補エリアとターゲットとする客層の基本的な情報を整理していきましょう。
 
商圏の明確な定義はありませんが、一般的には「日用品を扱う店なら5分程度、
買い回り品を扱う店なら10分程度でアクセスできる範囲」とされています。
しかし、この「5分」「10分」といった数字は商品によって当然変わってきます。
自分のお店が扱う商品の性質を考えて、どれくらいの範囲の人が来てくれるのかを考えてから商圏を決めましょう。
 
商圏を決めるためにはまず地図を用意します。そして、お店の候補となる場所を中心として、
商圏の大きさに見合った半径で円を描き、商圏の範囲を「見える化」してください。
意外と広く感じたのではないでしょうか。円に含まれるエリアが住宅地なのかオフィス街なのかなど、その特性を把握しましょう。
 
商圏の性質をより立体的に理解するためには、統計情報が参考になります。
まずは年代別・世帯別の人口を把握するために国勢調査や地域の人口統計を探しましょう。
商圏のある地域の役所の統計課や図書館に行けば、かなり細かい統計情報が手に入るはずです。
 
最後に、商圏の「市場規模」をつかみましょう。市場規模は「一世帯あたりの消費額×世帯数」で大まかに計算できます。
総務省統計局のホームページにも掲載されている「家計調査年報」(http://www.stat.go.jp/data/kakei/index2.htm
で一世帯あたりの消費額を知ることができるので、ぜひ有効活用してください。

実地調査で商圏の詳細と顧客を知る
前記のように地図と統計情報からは商圏の概要をつかむことができますが、「文化」「雰囲気」といったものはわかりません。
これらを知るためには、現地に直接足を運ぶ必要があります。
 
ただし、事前に調べるべきことを決めずに訪れても、インプットできる情報はそう多くありません。
現地では、交通量や歩行者数、競合店、店舗物件の候補を最低限チェックするようにしましょう。
 
歩行者を調べる場合は、数はもちろんとして「質」に着目します。
歩行者の性別や世代、職種、ファッション志向、経済力(外見から大まかには判断できます)などを見ることで、
統計情報には出てこない生きたデータを手に入れることができます。自店に来店してくれるタイプが、どれくらい商圏にいるのかをチェックしましょう。
 
競合店調査においては、客数や客層、営業時間、従業員の特性(性別・世代・接客スタイル)を見ます。
特に従業員の特性は真似も差別化もしやすいので、情報をメモに残しておきましょう。
 
候補となる物件を見るときは、建物の古さや清潔さにくわえて、他に入っているテナントの業種や雰囲気を確認します。
たとえば、カフェを出店したいと思っているビルに「夜のお店」が入っていると印象はあまりよくありませんよね。
自分が出したいお店の雰囲気に合っているのか、チェックが必要です。

商圏と顧客に合わせて自店のコンセプトを微調整する
地図、統計情報、現地調査で得られた商圏情報および顧客の特性に関する情報を基にして、事業計画を作成しましょう。
 
よほど運がよくない限り、得られた情報とそれまでに考えていたお店のコンセプトとの間には、何かしらの「ズレ」が生じているはずです。
物件=商圏を変更したりお店のコンセプトを変更したりすることで、「ズレ」を埋める必要があるでしょう。
 
一方で、あえて「ズレ」を埋めないまま出店する手もあります。その「ズレ」が差別化要因になりうるためです。
たとえば、いかにも「下町」の風情のある場所にハイセンスなカフェを出店したからと言って、必ずしも流行らないとは言い切れません。
むしろ商圏の中で目立つがゆえに、評判を呼ぶかもしれないからです。
 
商圏や顧客の特性と自店のコンセプトをどこまでどのようにすり合わせるかは、出店者のセンスや美学にも依存するところがあります。
どの部分を商圏に合わせ、どの部分で自己を貫き通すのか、納得できるまで考え抜くことが求められます。


貸店舗物件の種類・特徴を知ろう
繁盛店をつくるためには、店舗選びが重要です。
まず店舗探しを始める前に、店舗の種類。立地や形態による違い、それぞれのメリットとデメリットを知ることで、
提供商品や顧客層、開業予算などと照らして事業内容に合った店舗選びを進めることができます。

「駅前店舗」と「郊外店舗」の違い
自然に人が集まる駅前にある店舗と、人通りが少なく車の往来が多い国道沿いなど、駅から離れた郊外にある店舗の違いについてです。
まず、立地の善し悪しが大きく関係しますので、賃料相場が異なります。
「駅前店舗」は交通の便が良く、多くの来店客が見込めるため、賃料は高めです。
商業地域や近隣商業地域であることが多いため、商業施設が多いエリアとなります。
その分、業種によっては競合する店舗がある可能性が出てきます。
ビル内のテナント物件が多いため、広さや大きさを求めるのは難しいです。
 
ターゲットとなる顧客は、基本的に駅の利用者と近隣の居住者なので、徒歩による単独客もしくは社会人・学生のグループなどが多いと想定されます。
徒歩なので、酒類を提供する店に向いています。
 
一方、「郊外店舗」は、主に車を使って来店する人が多くなります。そのため、一定の駐車スペースの確保が重要になります。
賃料は駅前店舗と比べると安めで(平米単価)、大型もしくは面積が広めの物件が見つかりやすいでしょう。
飲食店の場合、車での来店を考えると、酒類の提供には注意しなければいけません。法令の遵守をきちんと考えましょう。
 
駅前店舗は単独客が多いため、特に飲食店では席の組み方に工夫が必要です。郊外店舗の場合は、車での家族連れがターゲットとして想定されるので、
同じく飲食店の場合は、ゆったりとした空間と座席が必要になるでしょう。

「階数」による違いと「インショップ型店舗」について
同じテナント型店舗でも、どの階に店舗があるかによって、集客率の有利不利が変わってきます。
集客に最も有利とされるのが1階です。路上からもよく目につくため、「路面店舗」と呼ばれます。自然と目線に入ってくるため、
どんな店かわかりやすいのも特徴です。
 
次に有利なのが2階、そして地下です。店舗位置が通行人の目線から外れるので、
存在を認知されにくいというマイナス面があります。
しかし、見方を変えれば、ガラス張りの店でも通行人と目線が合うことがないので、
むしろ2階の方が眺めもよくて落ち着くというプラス面で捉えることができます。
認知されにくいというマイナス部分は、看板などを利用して、店舗の雰囲気をアピールすることにより、集客率の向上を図ることができます。
入りやすい雰囲気をつくり、なんとなく面白そうだと興味を持ってもらうことが重要です。
 
2階以上は「空中店舗」とも言われ、外から店内を見ることができません。集客率をアップさせるには、
道路から見えるビルの入口部分やエレベーターホールに立て看板などを設置したり(飲食店ならメニューも効果的)、
積極的にインターネットを活用した集客対策を行うのが有効です。
また、エレベーターの利用が前提となるため、エレベーターの使いやすさが集客に大きな影響を与えます。
利用者数に対して1基しかなく定員数も少なかったり、エレベーターホールが薄暗く清潔感がなかったりすると、
待つことを嫌う人や安全面・衛生面に不安を感じた人は、店に来る前にそもそもエレベーターに乗るのをやめてしまうかもしれません。
空中店舗の家賃は低めというメリットがある反面、集客対策をしっかり練らなければ、思った以上に人が来ないということをしっかり認識しておきましょう。
 
また、ショッピングモールなどの中に出店する店舗を「インショップ型店舗」と言います。
インショップ型店舗の場合、最初から買い物などを目的としてショッピングモールに訪れる購買意欲の高い人から集客できるという点が、最大のメリットです。
ただし、来客数が多い人気のショッピングモールは、やはり賃料が高めです。
 
インショップ型店舗の賃貸借契約の形態としては、固定賃料と歩合賃料、もしくは一定の売上金額を超えると何%か上乗せされるという、
固定・歩合両方の性質を持った契約もあるようです。
デメリットとしては、営業時間や休日をショッピングモールの規定に合わせなければならないこと、
店頭の飾り付けや集客のためのチラシの配布や声がけなどが規制される場合があることが挙げられます。
 
また、季節ごとのショッピングモールのイベントやキャンペーン企画に伴って、割引商品の提供をはじめとした参加要請を求められることもありますが、
イベント期間中は大幅な集客が見込めます。

「スケルトン物件」と「居抜き物件」の違い
内装・設備がない、コンクリート壁がむき出しの状態で貸し出す店舗のことを「スケルトン物件」と言います。
反対に、前店舗の内装や設備一式が残っていて、すぐにでも開店できる状態で貸し出される物件を「居抜き物件」と言います。
 
スケルトン物件は、むき出しのコンクリートなどの状態になっているため、内装からすべて作り上げていかなくてはなりません。
施工費、設備購入費がかなりの金額になり、開店まで時間もかかります。
しかし、徹底的に内装にこだわりたいという人であれば、自分の思い通りの店づくりができます。
 
居抜き物件は、あらかじめ店舗設備が整っている状態で貸し出されるので、開店までの準備期間を短縮できます。
一方で、前店舗の設備をそのまま引き継ぐので、自分が入れたい什器や内装にできないなど、店舗設計の自由度は低いです。
前店舗のイメージを払拭し切れない可能性についても留意すべきです。
ただ、開業資金を節約して、時間をかけずに出店したい人には向いています。

事業用賃貸物件と居住用賃貸物件はどう違う
事業用の賃貸物件を借りるという経験をする人は、居住用に比べて格段に少ないでしょう。
居住用と同じつもりで事業用物件を借りようとすると、戸惑うことが多々出てきます。
なんとなくわかったつもりでは、スムーズに借りられないことにもなるので、双方を比較しながら改めて確認していきましょう。

二つの大きな違い
事業用と居住用では、まず物件そのものの使い方が違います。また、借りるときにかかる費用も違ってきます。
 
【使用目的の違い】
事業用賃貸物件を探していると、「テナント」という語句を見かけます。
本来テナント(tenant)とは、主に借家(地)人という意味の言葉ですが、
日本では一般的に「店舗や事務所を賃借して使用する人」という意味合いで使われています。
 
事業用物件を借りるときは、「テナントが商売をするために利用する」という目的があります。
つまり、物件を利用するのはテナントのほか、その先にいる多数のお客様や従業員ということになります。
借主自身が暮らすためにある居住用物件との最大の違いは、この点でしょう。
 
事業用物件は多くの人が利用するため傷みが早いので、居住用物件に比べて高めの賃料設定になっています。
 
【初期費用の違い】
賃貸物件を借りるときには初期費用がかかります。
事業用物件は、居住用に比べてこの初期費用がかなり高額になります。
まず、そもそも賃料が高いということが第一の理由で、賃料が高ければ、
「賃料の○カ月分」として算定される一連の初期費用にすべて掛かってくるからです
。前家賃、保証金(敷金)、礼金、仲介手数料がそれに当たります。
 
また、事業用物件では、保証金(敷金)の額は居住用と比べるとかなり高く設定されます。
もしも事業が低迷すると、賃料の滞納が起きる可能性が高くなります。
居住用よりもそのリスクは高いということで、保証金の設定は、賃料の3カ月分から6カ月分以上にもなります。
ですから、事業用物件を賃借するときの初期費用は、一般的な居住用物件の何倍にもなると思われます。

居住用物件の事業用への転用はNG
飲食店に限らず、明らかに不特定多数の人が出入りする店舗や事務所を営むなら、事業用の物件を借りることになります。
ただ、「倉庫として借りる」「お客の出入りはない」「パソコン1台を使うだけ」など、個人使用の事務所として賃貸物件を探すときに、
「居住用物件を事務所にできないか?」というアイデアが浮かぶかもしれません。
しかし、「居住用」という名目で借りた物件を事業用に転用することはNGです。
もちろん客が出入りする商売をすることもできません。
 
そもそも一戸建て以外の居住用賃貸物件の場合、同じ建物に住む他の住民たちは普通に生活している状態です。
その中の一戸だけに見知らぬ人が往来するのは、他の住民にとっては気持ちの良いものでなく、防犯面での不安を生じさせてしまいます。
こっそりと事業用に使っていることが露見した場合、契約違反として違約金の支払いや契約解除を求められることもあります。
基本的には目的に合った物件を借りて、定められた用途通りに使用すれば問題ありません。
 
ただ、お客様の出入りがほぼないような状態で個人的な事務所と自宅を兼用にしたいとき、
その旨を契約前に伝えることで了承を得られるケースはあるかもしれません。
しかしその場合は、物件探しの段階で不動産会社に伝えておき、必ず貸主の承諾を得ることが必要です。
賃貸借契約書にも、その旨を必ず明示してもらいましょう。


退去時の原状回復について
事業用賃貸物件も居住用賃貸物件も、退去時には「原状回復義務」があることは共通しています。
そして、民法では賃借人の原状回復義務について、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と規定しており、
その適用についても双方同じです。
 
「通常の使用による損耗」とは、例えば家具を置いた箇所の畳のへこみなどです。
また「経年劣化」とは、例えば日光による壁の変色などで、これらは退去時に借主が原状回復の義務を負わないということが明示されているのです。
 
では、どのような場合に借主が原状回復義務を負うのかというと、例えば重くて硬い物をうっかり落として床をへこませた、
家具を移動する際に壁や柱にぶつけて傷つけたなどです。
このように借主に責任がある損傷については、当然借主に原状回復義務があるということです。
 
以前は賃貸物件の退去時の原状回復義務については、貸主・借主の責任範囲の解釈が分かれるため、
敷金(保証金)返還をめぐるトラブルになる可能性が高かったのですが、
民法の規定として条文明示された以降(令和2年4月)は、線引きが明確化されてトラブルが減少することが期待されています。
 
ただし事業用賃貸物件では、賃借した後は多くの顧客が出入りしますし、日常的に荷物の搬入などもありますから、
人が生活するだけの居住用物件に比べて損耗の度合いや損傷の可能性が高いという見方ができます。
ですから、事業用物件の賃貸借契約では、貸主側は「特約」として借主が原状回復を負担する範囲を契約書に明記しておくことが、慣例として多いようです。
 
特約を把握しておかないと、退去時に初めて負担を知ったということになってしまうので、
必ず重要事項説明時、契約締結時に確認しておくことが大切です。
また、退去時に借主の責めに帰す損傷か否かがわかるように、
入居時に物件の写真を撮ってメモ書きとともに残しておくことは有効です。造作譲渡するのか、
内装を解体撤去するのか、どちらにしても「原状」を記録して、できれば貸主と共有しておくことをおすすめします。


店舗経営に伴うリスクと備えについて
どのようなビジネスにおいてもリターンがあれば、リスクも存在します。
中には、事業に大きなダメージを与えるリスクもあります。
開業後の不測の事態に備えるために、店舗経営・事業運営する上でのリスクとその回避策を知っておきましょう。

起こり得るリスクと保険
店舗を経営するとなれば、大小の違いはあれ、必ずトラブルは発生するものです。
それは毎日の営業の中で十分気をつけていても、すべて避け切れるわけではありません。
そのような「付き物」である店舗経営のリスクには、どのようなものがあるのでしょうか。
リスクが生じたときの、経済的損失を補填する備えとして有効な保険とともに解説します。
 
【財物損害リスク】
店舗には什器や設備、商品などさまざまな財産的価値を持った物が存在します。
それらの物品が、災害や事故によって破損したり、盗難によって失われたりすることを「財物損害リスク」といいます。
こういった財物損害に対しては、企業財産に関する保険である補償保険に加入することによって、リスクに備えることが可能です。
 
【売上金の盗難リスク】
レジスターや金庫などに、店舗の売上金は一定期間必ず保管されます。
あるいは集金や金融機関への入金・出金の際に売上金を持ち歩くこともあるでしょう。
これらいずれの場合も、現金は盗難・紛失のリスクにさらされていると言えます。
売上金などの現金(業務用通貨)もしくはそれに類する証券は、火災保険やその他損害保険の補償対象から外れる場合が多くあります。
損害保険に加入する際は、現金の補償が含まれているかを確認しましょう。
補償内容によっては、現金用の保険加入や特約の付加を検討する必要が出てきます。
 
【食中毒に備える保険】
飲食店を経営していく上で、食中毒は事業に大きなダメージを与える厄介な問題です。
まず、食中毒になってしまったお客様への損害賠償が発生します。
幸い賠償責任を問われなかったとしても、治療費用などは必要でしょう。
営業停止処分を受けると、売上がなくなります。営業再開までに消毒や洗浄措置が必須です。
また、食中毒を起こした事実は行政が公開するため、広く世間の知るところになり、営業再開できたとしても、
元の客足を取り戻すには相当の困難が予想されます。
 
さらに販売物品だった場合は、商品の回収作業も発生します。
これら食中毒を起こしたときにかかる多額な費用、得られるはずだった売上のダウンに対するリスクに備えるには、保険への加入が必要です。
保険会社により補償範囲や適用条件は異なる部分があるため、自分の店舗に合ったものを選びましょう。
 
【休業のリスク】
災害や事故で、長期間営業ができなくなったらどうなるでしょうか?
その間売上はありませんが、店舗の家賃など固定費は発生し続けるため、資金不足から事業の継続が困難になるリスクが生じます。
こういった休業リスクに関しても、事業用の損害保険に加入することで、一定の安心は得られます。
 
【従業員の労災リスク】
従業員が、業務上や通勤時にけがなどをした場合の労災リスクがあります。労災リスクは国の労災保険制度で補償されます。
原則的に一人でも労働者を使用する事業は、業種や事業規模にかかわらず、すべてに適用されます。
この場合の労働者とは、正規雇用に限らず、アルバイトやパートタイマー、臨時雇用、試用期間など、すべての雇用形態の従事者を指します。
なお、事業主には、労災保険への加入が義務付けられているため、加入漏れがないように注意しましょう。
 
【顧客などに損害を与えるリスク】
業務中に人や物に損害を与えてしまった場合は、民間保険会社の法人用の「賠償責任の保険」に加入しておくことでリスクを軽減することができます。
 
「賠償責任の保険」は、業種に応じて保険の内容が異なります。例えば、飲食店の場合、熱い飲み物をこぼしてしまい、
お客様にやけどをさせてしまうというケースも考えられますし、
ガラスやプラスチックを使ったオブジェなどで、思わぬけがをしてしまうということもあるかもしれません。
事業活動に伴って賠償事故が発生した場合に備えて、被害者への賠償金や訴訟費用などを補償する保険があります。
 
【社用車事故のリスク】
商品の配達などで車両を使うこともあるでしょう。自動車の運転には常に事故リスクが伴いますから、社用車の事故に備えておく必要があります。
従業員の運行による事故についても、それが業務上の運行であるなら、事業者(会社)には「運行供用者責任」というものが生じます。
つまり、事故の被害者に対して損害を賠償しなければならないのです。このリスクをカバーするものとして、法人向けの自動車保険があります。
法人向けの自動車保険には、「フリート契約」と「ノンフリート契約が存在します。
契約自動車数が10台以上の場合はフリート契約を、10台未満の場合はノンフリート契約になります。
契約内容、保険料の割引などが異なりますから、各社の保険を確認しましょう。

社会保険制度について
日本には国民の生活を国が保障する「社会保険」という制度があります。
病気やけが、要介護の状態になったとき、高齢化で思うように働けなくなったときなどのために、
国が財源として費用を蓄えておいて必要な人に規定金額を支給していきます。
 
社会保険には「健康(医療)保険」「介護保険」「年金保険」「雇用保険」「労災保険」の5種類があります(広義の社会保険)。
社会保険の財源は、国民一人ひとりと事業者が保険料を納めることで賄っています。
一般企業の社員や公務員は、社会保険の加入手続きから保険料の納付まで、勤務先事業所が行ってくれるので、
社会保険についてさほど意識していないかもしれません。
 
しかし、個人事業主になると、加入する保険の種類が違いますし、加入できないものもあります。負担する保険料も違います。
何がどう違うのかを理解していないと、万が一のときに思っていたよりも支援が得られずに困窮するようなことになるかもしれません。
反対に理解することで、不足分を民間の保険利用でカバーするという発想などが生まれるかもしれません。以下の各保険の内容を知っておきましょう。
 
【健康保険】
「健康保険」は国民全員が加入し、保険料納付の義務があります。会社員ならば、勤務先の事業規模によりますが、
「健康保険組合」か「健康保険協会」に属すことで健康保険を自動的に利用できるようになっています。
個人事業主の場合は、「国民健康保険」に加入することになります。運営は都道府県が行っているので、
住所地の都道府県に加入手続きをします。保険料率は自治体ごとに違うので、確認が必要です。
 
なお、保険料の負担という点で、会社員と個人事業主では大きな違いがあります。前者は保険料の半分を個人(本人)、もう半分を事業所が納めています。
つまり会社員ならば、本来納付すべき保険料の半分を負担すればいいのです。しかし、個人事業主では、既定の保険料の全額を自分で負担しなければなりません。
また、国民健康保険では、「出産手当金」「傷病手当金」の支給がありません。家族が増えたときにはその分保険料が増額します。
 
【介護保険】
「介護保険」は40歳以上の人全員に加入義務があります。個人事業主の場合は、国民健康保険の保険料に上乗せして納付します。
 
【年金保険】
「年金保険」は2種類に分かれていて、一つが「国民年金」。これは「基礎年金」とも呼ばれ、20歳以上60歳未満の全ての人に加入義務があります。
もう一つが「厚生年金」。これは会社員・公務員が加入する保険で、個人事業主は厚生年金には加入できません。
つまり、会社員・公務員は、国民年金と厚生年金両方の保険料を納付していくことになりますが、その分年金の受取金額も多くなります。
 
一方、個人事業主は国民年金のみなので保険料の負担は少なくて済みますが、支給金額も少なく、将来の備えとしては不十分と言えます。
その分は事業実績を上げることで蓄えを増やすか、独自に民間の年金保険に加入するなどの対応策を考える必要があるでしょう。
 
【雇用保険/労災保険】
「雇用保険」「労災保険」という二つの保険制度は、「労働者」のリスクをカバーすることを目的としており、
個人事業主は労働者には該当しないということで加入できません。
もしも経営難に陥り、廃業することになったとしても社会制度としての保障はありません。
 
以上はあくまでも個人事業主の立場での規定内容ですので、従業員を一人でも雇用するとなると話が変わり、事業者として従業員に対して社会保険に加入する義務が発生します。
その点を間違えないようにしましょう。
 
【遺族年金】
世帯主である夫が亡くなったときに、遺族に「遺族年金」が支給されます。この遺族年金についても、会社員・公務員と個人事業主では違いがあります。
受給対象者が「18歳未満の子のある配偶者」である場合、国民年金の加入者には「遺族基礎年金」が支給されます。
国民年金の加入義務がある個人事業主の配偶者ももちろん支給対象になります。
ところが夫が会社員・公務員ならば、この他に「遺族厚生年金」も受給できますが、個人事業主の場合はこの分の給付はありません。
 
また個人事業主の「子供がいない配偶者」には、「寡婦年金」または「死亡一時金」が支給されます。
「寡婦年金」は、夫が個人事業主となって国民年金保険料の納付期間が25年以上ある場合に、
夫が受け取ることができた基礎年金支給額の4分の3を受給できます(他にいくつか受給要件があります)。
 
「死亡一時金」は、夫が個人事業主となって国民年金保険料の納付期間が3年以上ある場合に、
受け取ることができます。ただし、保険料納付期間が「3年以上15年未満」の場合で、支給金額は「12万円」という規定ですから、文字通り一時金程度と言えます。
「寡婦年金」「死亡一時金」のどちらも受給要件を満たしている場合は、一方を選ぶことになります。
 
やはり、万が一のときの遺族に対する備えとしては、不足と言わざるを得ません。民間保険への加入か、
何か資産を残す手だてを検討することが必要になりそうです。

個人事業主としての将来リスクに備える
前述のように、万が一個人事業主が亡くなったときの、遺族への社会保険による補償はとても十分とは言えません。
また、病気やけがでの休業でも有給休暇などはありません。
高齢に伴い廃業するときにも、退職金はありません。これら、将来への不安・リスクに備えておく必要があるでしょう。
 
【民間の生命保険への加入】
民間の保険にはさまざまな種類が用意されていますが、万が一のことを考えて、生命保険に加入しておけば、
残された家族のことを考えても安心できるでしょう。
 
生命保険には、定期保険、収入保障保険、終身保険などがあります。
「定期保険」は、保障期間が決められている掛け捨て型の保険で、保険期間中に被保険者が死亡または高度障害状態になった場合に、
保険金が支払われます。
解約返戻金や満期時の保険金は支払われませんが、その分月々の保険料は割安です。
 
「収入保障保険」は、保障期間が決められている掛け捨て型ですが、一度に全額が支払われるのではなく、
一定期間に分割して死亡保険金が支払われるという特徴があります。
一時金で受け取ることもできますが、運用益の分が差し引かれるので、分割の場合よりも受取金額は少なくなります。
死亡した年齢が満期に近いほど、支払われる保険金は少なくなりますが、養育費などを考えれば合理的と言えるかもしれません。
 
「終身保険」は、被保険者が死亡するまで保障が続く保険です。「死亡するまで」ですから満期はありませんが、
「定期付き」と組み合わせることもできます。
途中で解約すると解約返戻金が受け取れます。保険料が割高なため、事業主として利用するには、難しい生命保険かもしれません。
 
【小規模企業共済制度の利用】
「小規模企業共済制度」は、国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しており、
小規模企業の経営者、役員、個人事業主などのための、積立金による退職金制度です。
月々の掛金は1,000円~70,000円と幅広く、全額を課税所得から控除できるため節税にもつながります。
 
共済金(退職金)の受け取りは、分割、一括、併用が選択できます。
また、掛金の納付期間に応じた限度額を借り入れられる貸付制度もあるので、傷病災害時や、緊急経営安定のためなど、
一時的に資金が必要になったときの備えとして利用できるメリットもあります。
 
【法人化を検討】
個人事業主が法人化した場合、万が一の場合でも事業を継続できるというメリットがあります。財産も相続の対象にはなりませんが、
一方、個人事業主が死亡した場合、
事業により得た財産はもちろん、設備機器、社用車などすべての資産が相続財産として取り扱われ、課税対象となります。
ただし、法人化すれば、所得税から法人税にかわるため、一定の収益がなければ負担が増えることになります。
まずは収入を向上させ、業績を上げる必要があるでしょう。


店舗物件の「二度の引渡し」とは
店舗を開業するときには、「二度の引渡し」が行われます。一つ目は賃貸借契約を結んだ後の物件そのものの引渡し、
二つ目は、店舗内・外装の施工後の引渡しです。それぞれに気を付けるべき点があります。

借りた店舗物件の引渡し時確認について
物件は、貸主と賃貸借契約を結んだ後に引き渡されます。まずはこのときの注意点を見ていきます。
借りた物件が「居抜き」か「スケルトン」かで気を付けるべきことが違ってきます。
 
【居抜き物件の場合】
まず、引き渡されたときの物件の状態が契約内容通りかを確認します。
具体的には、造作・設備機器・什器備品について、契約書に記載されたものが全てそろっているかを確認します。
特に「造作譲渡費用」を支払っている場合は、対象物品は借主の所有物になるので、一つひとつ確実に見ていきましょう。
 
そのとき、設備機器の動作確認も行いましょう。内見時に一度見ていたとしても、必ず再度確認します。
もしも不具合が見られたなら、至急貸主(または不動産仲介会社)に連絡して、対処について確認しましょう。
 
【スケルトン物件の場合】
躯体(くたい)だけの状態での引渡しが前提なので、そのようになっているかを確認します。
残置物や余計な設備などが置かれていないかを見ましょう。
何か残っている場合には、予定していた内装工事が始められないので、至急貸主側に連絡して撤去を依頼します。
 
契約内容によりますが、スケルトンでの引渡しが前提ならば、撤去手配・費用支払いは基本的に貸主負担となります。
 
【共通の注意事項】
水道(給水・排水)・電気・ガスが間違いなく使えることを確認しましょう。
特に排水については、空き店舗だった時間が長ければ、排水口や排水管の詰まりが起きている可能性があります。
もしも詰まりがあった場合には、高圧洗浄などで解消しなければなりません。
費用については貸主との交渉が必要になりますから、早めに確認して相談しましょう。
 
電気・ガスについては、素人ではわからないので実際に内装工事会社に入ってもらってからの確認になる部分が多いですが、
できる範囲で見ておきましょう。
 
また、退去時のことを考えて、引渡しの時の状態を確認する目を持つことも重要です。
退去時に造作譲渡するにしても、内装を解体撤去するにしても、
原状回復の状態とはどういうものかを貸主側とあらかじめ認識共有しておくことが、円滑な退去の助けとなります。
写真やメモで記録しておけば、時間の経過による記憶の風化や認識齟齬が補完できます。

内装工事完了後の確認について
店舗の内・外装工事が完了すれば、いよいよ開店準備だと気持ちははやると思います。
でも、まずは施工状態を確認することが必要です。
 
店舗の施工が終わった後に行う確認作業を「完成検査」と言います。
完成検査は発注者(=店舗借主)が独自に行うわけではなく、施工会社の工事責任者が立ち会って、
工事内容を説明しながら確認していくものです。
 
確認は、設計図を見ながら一つひとつ細かく行います。
依頼通りになっていない、不備・不具合があるという場合には、改修を求めます。
疑問がある箇所は、そのまま流さずに必ず確認しましょう。主な確認項目を簡単に挙げておきます。
 
1.全体レイアウト
2.ドア・窓・収納など建具開閉部分の可動状態
3.天井・床・壁の建材・素材(法令による内装制限の適合製品か)
4.設備機器の動作確認
5.水道・電気・ガスおよび通信機器の使用状況
 
改修後の再検査を含めて、最終的に施工に問題がないことが確認できたら晴れて引渡しとなります。
その他注意点
引渡し時点では完成検査を行っていますから、施工品質に問題がない状態ではありますが、その後に不具合が見つかったり発生したりする可能性があります。
そのときの対応や保証について、必ず事前に確認しておきましょう。
サービス上保証制度がある場合は、口頭の確認だけでなく書面などの発行を求めましょう。
 
また、それぞれの引渡し時に行う確認作業は、一人の目では見落としや勘違いが起こり得ます。できる限り家族や従業員、
すでに店舗経営をしている知人などに立ち会いをお願いして、
複数の人の目で見ることをおすすめします。


事業主が知っておくべき店舗の内装制限とは
人が大勢集まる建物内で火災が発生すれば、大惨事になりかねません。
そこで建築基準法や消防法では、建築物の用途や構造、規模ごとに、内装に対する制限が細かく規定されています。
内装に使う建築材などを燃えにくく、または有毒な煙やガスが発生しないものにすることで、火災時の延焼や中毒被害を防ぐためです。
店舗開業の際は、当然、店内の仕様については事業主に責任がありますから、基本的な知識は押さえておきましょう。
建築基準法上の内装制限について
飲食店やホテルなど不特定多数の人が訪れる「特殊建築物」の他、火を使う建築物などは、火災発生時にできる限り被害を抑えるために、
建築基準法第35条の2において「内装制限」が定められています。
具体的には以下の四項目になります。
 
1.特殊建築物(劇場類、ホテル、共同住宅類、百貨店類等)
2.階数が3階以上、延べ面積が千平方メートルをこえる建築物
3.政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物
4.調理室、浴室その他の室で火を使用する設備・器具を設けたもの
 
制限の具体的な内容については、項目ごとに建物の耐火性能(耐火建築物・準耐火建築物・その他)と階建てや床面積といった規模などによって、
規制対象となる内装箇所、その部分の規制内容が変わります。
 
例えば飲食店舗の場合に、耐火性能が低い「その他」の建築物で「床面積の合計が200平方メートル以上」の建築物ならば
内装規制の対象となる箇所は「居室」と「通路等」の「壁及び天井の室内に面する部分」になります。
建築基準法の規定では、居室については「(床面から高さ)1.2メートル以下の腰壁を除く」とされていますが、
実は消防法ではこの規定は設けられていないので、壁全面が内装制限の対象となっています。
 
この内装制限を受ける箇所に何をすればいいかというと、仕上げ材料に
「不燃材料」「準不燃材料」「難燃材料」のいずれか決められた防火材料を使用しなければなりません。
各材料の基準は以下のように定義されています。
 
〈不燃材料〉……火災発生・加熱開始から20分間は燃えない物(燃焼・変形・溶解しない)、有毒ガス・煙を発生しない物
〈準不燃材料〉……火災発生・加熱開始から10分間は燃えない物(上に同じ)、有毒ガス・煙を発生しない物
〈難燃材料〉……火災発生・加熱開始から5分間は燃えない物(上に同じ)
 
不燃材料には鋼材、コンクリート、れんが、ガラス、モルタル、漆喰(しっくい)などが認定されています。
準不燃材料には石膏ボード(厚さ9ミリメートル以上)などが、
難燃材料には石膏ボード(厚さ7ミリメートル以上)、難燃合板(厚さ5.5ミリメートル以上)などがあります。
 
上記要件の飲食店舗の場合ですと、居室には三つのうちのいずれかの防火材料を使用し、
通路には不燃材料か準不燃材料のいずれかを使用します。
 
地下店舗の場合は、面積などに関係なく壁・天井ともに不燃材料か準不燃材料を使用しなければなりません。
この他にも細かく複雑に要件が組み合わされているので、自分が出店する店舗がどれに当てはまるのかをきちんと確認することが必要です。

消防法上の内装制限について
消防法上の内装制限は、基本的には仕上げ材のみを規制対象とし、下地については対象外となります。
ただし、クロスなどが下地材との組み合わせによって防火材料の認定を受けている場合は、下地を対象範囲に含みます。
 
また、先に記述しましたが、建築基準法上では定めがある「(床面から高さ)1.2メートル以下の腰壁を除く」
という規定が消防法にはありませんので、
仕上げ材については対象となる壁・天井全面に防火材料使用しなければなりませんから、注意しましょう。
 
消防法上で規定される防火材料は、市場に流通している成形品について、
規格基準をクリアした物品には認定表示マークが付けられています。
消防法上の内装規制が守られているかどうかは、このマークが付された製品を使用しているか否かで判断できることになります。
 
また、消防法では「防炎規制」が定められています。
これは、火災時の延焼を防ぐために、「防炎物品」の使用を義務付けるもので、
政令で定める防火対象物(例えば店舗)では、カーテンやカーペットなどに、
政令で定める基準以上の防炎性能を持つ「防炎物品」を使用しなければなりません。
壁・天井の内装材料とともに、必ず基準に適合した製品を使用しましょう。

事業者は利用者の安全・安心を第一に
内装制限・防炎規制に未対応、あるいは違反している状態では、そもそも営業が開始できないことになりますし、
そのまま営業していた場合には業務停止などの処置を受けることになります。
特に不特定多数の人が訪れる特殊建築物は、万が一の火災が起こってもお客様一人ひとりの生命を危険にさらすことのないよう、
事業主は常に気を配り続けなければいけません。
 
そのため、賃貸物件での内装の施工は、事業主の責任において慎重に行う必要があります。
しかし、内装制限や防炎規制については、かなり細かく専門的な知識が必要である上、施工範囲も広いことが多いため、
内装施工会社の専門家としっかり意志疎通を行いながら出店作業を進めていきましょう。
 
法令遵守(コンプライアンス)は、今や社会通念上、当然に行われるべきものです。火災が起こって被害を拡大させてから、
「知らなかった」では済みません。
内装を無許可で好き勝手に変更した結果、内装制限や防炎規制に違反状態となっている事例も現実に存在しています。
事業成功のためには、まず利用者の安全・安心が第一であることを忘れずに、起業を進めたいですね。


フランチャイズという起業の選択肢を考える
個人で起業を考えるとき、店舗開業の一つの手段として「フランチャイズ」があります。
フランチャイズと言えば、コンビニエンスストアや飲食のチェーン店がまず思い浮かびそうですが、実にさまざまな業種で展開されています。
その分、選択肢が広がりますが、まずは検討の段階に乗せるために、そもそもフランチャイズとはどういうものなのかをつかんでおきましょう。

フランチャイズとは何か
フランチャイズとは、本部となる親企業が商標や店舗デザイン、確立されたサービスメニュー、営業ノウハウなど一式の使用権を加盟事業者に提供し、
加盟事業者は、その対価(ロイヤリティー)をフランチャイズ本部に支払うという事業形態です。
事業の諸権利を提供する本部側を「フランチャイザー」、提供を受ける加盟事業者側を「フランチャイジー」と言います。
 
【フランチャイズ開業までの手順】
フランチャイズでの開業までには、さまざまな確認事項や本部との面談などの段階を踏みます。そのおおまかな流れは、以下の通りです。
 
1.情報収集と業種の選択
まずは資料を請求するなどして情報を収集、比較検討し、候補となる業種を絞り、さらに具体的なフランチャイズを選びます。
次に候補となったフランチャイズ(FC)本部にコンタクトを取って、資料やインターネットの情報だけではわからない部分を把握していきます
直接面談の機会もありますから、開設にかかる費用・条件面について改めてしっかり確認しておきましょう。
この段階で契約を確定するわけではないので、複数候補で迷っているならそれぞれの話を聞いてみることももちろんOKです。
こちらからの質問の回答を保留にしたまま契約を進めようとするような企業には注意が必要です。
また、実際の店舗にも足を運び、雰囲気や店員・社員の様子も確認しておくといいでしょう。
 
2.本部責任者・役員との面談
最初は説明会や相談会への参加、あるいは担当者との面談から始まることは多いですが、
前向きに話が進めば、本部責任者や役員との面談が設定されることもあります。
企業経営を担う上席と実際に話して、事業理念や将来的な事業戦略について確認できる機会は重要です。
大きな方針に自分の考えが合うかどうかを確認しましょう。
面談の予定がなければ、設定できるか聞いてみてもいいでしょう。
 
3.「法定開示書面」を確認する
フランチャイズ契約に際して、FC本部側には契約書面だけでなく、会社概要や契約内容をよりわかりやすく加盟事業者に説明する義務があります。
このことは中小小売商業振興法で定められており、その書面を「法定開示書面」と言います。
後々のトラブルや後悔が起きないよう、契約書と合わせて細部まで確認しておくことが大切です。
 
4.物件探しと評価
新規開業用の店舗を選定する際は、「商圏」「動線」「立地点」を見た上で、これらを満たす場所を選ぶことが、
事業の成功には重要だと考えられています。
 
「商圏」はターゲットとなる顧客層が十分な数を見込め、需要と供給の関係が合致しているか、「動線」は顧客を円滑に誘引できる路面にあるか、
「立地点」は物件そのものの広さや周辺環境の状況、視認性などを確認します。基本的には、FC本部が候補地の評価をして、
事業性の高い物件を選定してくれるとは思いますが、全てを委ねるのではなく、自分なりの視点で将来性を含めて検討するべきでしょう。
 
5.事業計画書を作成する
融資が必要な場合は、事業概要、資金計画、売上予測、人員計画、収支計画、返済計画等で構成された事業計画書を作る必要があります。
金融機関は、事業計画書の内容を見て融資可否を判断しますから、あいまいな部分のないきっちりした書面に仕上げましょう。
 
6.加盟契約をする
加盟契約の際には、フランチャイズ契約とは別に、店舗の賃貸借契約や設備のリース契約なども締結することがあります。
本契約の内容を細かく確認することはもちろんですが、並行して行う契約についても、
互いの関連性などに見落としがないよう、特約や但書きなども必ず確認しましょう。
 
7.事業開始準備を経てオープンへ
実際に店舗をオープンするまでに、店舗そのものの準備の他に、研修を受けたり、店員を採用したりと、
やることがたくさんで忙しい時期になります。
本部のサポートをできる限り活用しつつ、オープン後の戦略も含め入念に準備をしておく必要があるでしょう。
 
【フランチャイズ開業にあたって大切なこと】
上記の流れでもわかるように、自分で調べたり比較検討したり、契約書をはじめ多くの書面を確認したりと、実に多くのことを行わなければなりません。
その一つひとつにしっかり目を通し、今どの段階にあるかをしっかり確かめながら、進めていくことが大切です。
オープンさせることばかりを意識すると、重要事項やオープン後に必要な義務などを見落としがちです。中長期的な展望を持って、
堅実なフランチャイズ開業を目指しましょう。

フランチャイズのメリット・デメリット
事業形態として広く展開されているフランチャイズですが、加盟に際しては当然メリットもあれば、デメリットもあります。
 
 
【フランチャイズのメリット】
 
1.初心者でも簡単に開業できる
開業・運営に必要な諸権利とノウハウ一式がパッケージ化されて提供されるため、起業初心者でも比較的簡単に開業できます。
 
2.広告宣伝・集客に手間がかからない
すでに確立・認知された商標・商号による開業なので、必要以上に広告宣伝に手間や費用をかけずに、開店当初から集客を見込めます。
また、ブランド力により、一過性ではなく継続的に一定の集客が得られます。
 
3.業績向上のためのサポートを受けられる
新商品の開発や季節ごとの販売促進キャンペーンなど、売上を増やすための施策がFC本部から随時提供されます。
また、ディスプレイの変更や接客向上の方法など、業績アップの方策も受けられます。
 
 
【フランチャイズのデメリット】
 
1.独自性が出しにくい
開業・運営・広告宣伝にかかる権利・ノウハウをパッケージ化した事業形態のため、加盟店舗ごとの独自性は出しにくいと言えます。
 
2.ブランド低下のリスクがある
他の加盟店舗が起こした不祥事で、ブランドイメージが大きく下がってしまうというリスクがあります。
内容によっては急激に客足が離れ、ダイレクトに業績悪化につながることもあります。
 
3.ロイヤリティーの支払い負担がある
フランチャイジーは、フランチャイザーに対して事業の権利やサポートの対価として、ロイヤリティーを支払わなければなりません。
基本的には毎月の支払いになります。
その分、利益を得ているのでデメリットとは言い切れない部分もありますが、売上が伸びない月でも必ず支払わなければなりませんし、
独自の起業には発生しないという点ではデメリットと言えます。
支払い形態は、歩合制、定額制、その他条件設定があるなど、契約ごとに異なるため注意が必要です。
 
4.競合店舗の出店リスクがある
業種によっては、自店舗の近隣に同種の競合店舗が出店するケースを想定すべきです。
他ブランドであるなら、商品・サービスの差別化による棲み分けは可能ですが、同一ブランドが出店する場合はハイリスクです。
競合店の方が規模が大きい、あるいは集客しやすい立地である場合は、さらに厳しい状況になります。
独自性が打ち出せないところに、このような競合店の出店の可能性が常にあることは留意すべきです。

フランチャイズ開業時の注意点
メリットもデメリットもあるフランチャイズですが、納得のいく経営をするためにも、フランチャイズ開業時の注意点をおさらいしておきましょう。
 
【契約内容をしっかり確認する】
フランチャイズ契約はもちろんのこと、店舗や設備などの契約があるかもしれません。
一つひとつの契約条件、期間、解約に関する条項などをしっかり確認して、あらゆる状況を想定しておきましょう。
 
【資金面での計画と準備】
融資が必要な場合は、事業計画書の作成・提出が必須になります。
また、事業計画書通りの運営をできるだけ行っていけるよう、初期費用や自己資金の準備もしっかりしておきましょう。
ギリギリのラインで見積もるのではなく、ある程度の余裕をもって計画することが大切です。
 
【独自性を追求し過ぎない】
デメリットでも述べましたが、フランチャイズ店舗には決められたブランドイメージが求められるため、
自分が経営しているからといって、オリジナリティーを追求し過ぎないことも大切です。
与えられている広告、運営方針を上手に「活用」するスキルを磨いていきましょう。
 
【人任せにしない】
事業シミュレーションなどを、フランチャイザー任せにし過ぎないことも大切です。
実際に店舗を運営しているのは事業者本人ですから、自分なりの計画や見積もりをしっかり立て、
比較することで、より良い経営ができるようにしていきましょう。
 
【拘束時間は実質長くなる】
営業時間や営業日などは、統一の規定があるため、自己都合で休業したり、営業時間を変更したりはできません。
会社員時代にそれほど長時間労働を経験していなかった人の場合は、
拘束時間が長くなることを想定しておく必要があるでしょう。
 
【サポート体制を重視する】
フランチャイズ契約において、ロイヤリティーなどの支払い設定(金額)により、受けられるサポート体制が変わってきます。
費用面だけを見て安いからと決めてしまわず、
安心して店舗経営ができるサポート体制の充実した契約を選びましょう。
 
【ライバル店舗の出現防止について確認しておく】
営業地域での独占的な販売権や営業権を、フランチャイザーが加盟店に対して保障する「テリトリー権」を保証するフランチャイズ企業もあります。
競合の出店が気になるのであれば、このような契約事項が入っているかも確認しておきましょう。


リースバック方式での新規店舗開業について
「リースバック方式(建設協力金方式)」は、賃貸事業用の分野では、主にロードサイド店舗に多くの事例が見られます。
新規で店舗開業しようとしている事業主にとって、リースバック方式とはどのようなものなのか、またメリット・デメリットは何かを見ていきます。
さらに、リースバック方式とよく似ている「事業用定期借地権」との違いも合わせて解説します。

リースバック方式とは
「リースバック方式」とは、その土地に出店・開業したいと考える事業主が土地のオーナーに対して、
建物の建設資金(建設協力金)を差し入れ(この差入金は低金利または無利子であることが多いようです)、
オーナーは差し入れられた資金で建物を建て、その建物を事業主に賃貸するという事業形態です。
 
事業主は、契約に基づいて毎月オーナーに土地・建物の賃料を支払います。
当初オーナーが事業主から借りた建設資金は「保証金」をいう名目に変わり、建物賃料が相殺されていく形で、オーナーから事業主に返済していきます。
仮に、賃料設定が50万円、保証金の返済が30万円という場合、オーナー側は、完済するまでは実質月額20万円の賃料収入ということになります。
 
リースバック方式は、出店する事業主側に建物の建設資金が必要なので、個人事業主が直接行うのはなかなか難しいでしょう。
事例としては、多店舗展開している企業が採用しているケースが多いようです。
例えば、ロードサイドのコンビニチェーン店の場合、土地オーナーが必ずしもコンビニ経営もしているわけではありません。
フランチャイズでの起業を考えているなら、フランチャイズ本部からリースバック方式の店舗を紹介されることもあるでしょう。

リースバック方式のメリット・デメリット
リースバック方式を採用するにあたり、事業主とオーナーには以下のようなメリット・デメリットが考えられます。
 
【事業主のメリット】
・土地を所有することなく、新たに建設された自分の事業のための建物を利用できる
・土地オーナーとの交渉により、収益が見込める立地に出店・開業できる
・建物はオーナー名義の所有物なので、契約終了時に建物を残したまま撤退できる
 
【事業主のデメリット】
・初期費用として高額な建設協力金が必要
・事業計画上の売上見込みを精緻に立て、賃料の設定をしないと、収支バランスが崩れ経営を圧迫してしまう
・オーナーとの契約を中途解約すると、保証金の返還を放棄しなければならなくなる(事業が頓挫してしまった場合、リスクがさらに増える)
 
【オーナーのメリット】
・建物の建設費を自己資金または金融機関からの融資で用意する必要がなく、事業主から無利子もしくは低金利で借りることができる
・土地を手放すことなく資産を有効活用できる
・テナントを募集する必要がなく、もしも事業主が中途解約した場合は、オーナーに保証金の返還義務がなくなる(※中途解約になんらかの特約などがある場合を除く)
 
【オーナーのデメリット】
・建物は土地のオーナーの所有物になるため、建物にかかる固定資産税の支払い義務が生じる
・事業主との契約が終了した場合、建物はそのまま残るが同種の事業以外では継続使用が難しいことが多い。
 
事業主は、自身のメリット・デメリットを理解するだけでなく、オーナー側のメリット・デメリットも押さえておくことで、
双方での事業化の話し合いを進めやすくなります。
事業用定期借地権について
リースバック方式とよく似ている土地活用方法として、「事業用定期借地権」があります。これは定期借地権の一種で、以下のような特徴があります。
 
・契約期間(借地期間)は10年以上50年未満
・自動更新はなく、契約期間満了後も借地人が事業を望む場合は、土地オーナーと協議し再契約が必要
・借地権の存続期間が「10年以上30年未満」の場合、契約の更新、建物再築による存続期間の延長、建物買取請求は一切不可
・借地権の存続期間が「30年以上50年未満」の場合、契約の更新、建物再築による存続期間の延長、
建物買取請求を不可にする特約が有効にできる(更新は不可、建物買取請求権は認めるなど、どの特約を有効にするかを選べる)
・契約期間満了後、借地人は土地を更地にして返還しなければならない
・借地人は借地に居住用の建物を建ててはいけない
・公正証書により契約を交わさなければならない
 
リースバック方式と事業用定期借地権とどちらがいいかは、一概には言えません。
オーナーと事業主それぞれの立場で思惑が違うことに加え、契約期間を含め、長期的な見通しによっても変わってきます。
自分のケースはどうなのか、細部まで確認して比較するべきでしょう。専門家に聞くということも必要になるかもしれません。

個人開業で知っておくべき確定申告について
個人事業主として事業を始めた場合、基本的に年に一度「確定申告」をして税金を納めなくてはいけません。
ここでは、確定申告とは何なのか、確定申告をすることで得られるメリット、申告方法をお伝えします。
確定申告とは
日本では、国税について「申告納税制」を採用しているため、自分で税額を申告して納税しなければなりません。
この納税金額を確定する作業が「確定申告」になります。個人事業主の事業年度は、一律1月1日〜12月31日と決まっています。
年度会計をまとめて、翌年の2月16日〜3月15日の間に税務署に提出することで確定申告します。
 
確定申告には、大きく分けて「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。
特に青色申告にはメリット・デメリットがありますので、自分に見合った方を選んでいきましょう。
 
【白色申告】
「白色申告」は、簡単な帳簿付けで確定申告ができるものです。
単式簿記というシンプルな記録方法で、売上金額や取引日、経費、売上先などを記入、保存していきます。
事前に白色申告をする旨を申請する必要はありません。青色申告をしないと自動的に白色申告をすることになります。
ただ、白色申告の場合は、青色申告で享受できるメリット(控除額65万円など)を受けることができません。
 
【青色申告】
「青色申告」は、原則として複式簿記によって毎日の取引状況を帳簿に記録し、それに基づいて確定申告します。
複式簿記は帳簿付けが煩雑で、簿記の知識を必要としますが、大変な分、減税メリットがあります。青色申告のメリット・デメリットは以下になります。
 
【青色申告のメリット】
・最大で65万円を所得金額から差し引く特別控除を利用できる(簡易簿記の場合10万円)
・赤字が発生した場合、その赤字分を翌年度から3年間繰り越せて、黒字の年度所得と相殺できる
・家族従業員の給与(青色事業専従者給与)を必要経費扱いにできる
・30万円未満の固定資産については、少額減価償却資産として購入年度に一括で経費として計上できる
 
【青色申告のデメリット】
・帳簿付けが難しい(複式簿記による詳細な帳簿作成が必要)
・事前申請・許可が必要である
・帳簿書類について7年間の保存義務がある
 
【確定申告が必要ない場合】
開業したからといって、全ての人が確定申告をしなければならないわけではありません。
事業が赤字の場合、納税の必要がないので確定申告は不要になります。
また、個人事業者には48万円の基礎控除があるので、事業所得が48万円以下の場合、確定申告の必要はありません。

確定申告に必要なもの
確定申告は毎年2月16日~3月15日の期間で行われます(暦の都合で設定がずれる場合あり)。
以下に必要な書類などを記しますので、期限に間に合うようにもれなくそろえて、内容に不備がないように準備しましょう。
 
 
【白色・青色申告共通で必要な書類など】
 
1.確定申告書B
確定申告書には、AとBの二つの様式があります。個人事業主が白色申告・青色申告を行う場合には、「確定申告書B」を使用します。
税務署や行政の担当窓口などで入手できるほか、国税庁のホームページからダウンロードできます。
「確定申告書A」は、主に会社員などの給与所得者が納税後の還付申告に使用するものです。
 
2.本人確認書類
確定申告書には、本人確認書類として「マイナンバーカード」か「マイナンバー通知カード」などの番号確認書類が必要になります。
通知カードの場合は、運転免許証や健康保険証などがセットで必要です(いずれも「写し」を貼付)。
また、住所を変更していたり、結婚などによって姓が変わったりしている場合には、運転免許証の裏面に記載されている内容も必要になります。
 
3.配偶者・扶養親族・事業専従者のマイナンバー(必要な場合のみ)
配偶者特別控除や扶養控除を受ける場合に必要になります。この場合は番号を記入するだけでよく、写しを貼付する必要はありません。
 
4.各控除関係の書類
社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除、寄付金控除、小規模企業共済等掛金控除、地震保険料控除、雑損控除などの書類です。
これらの証明書は、日本年金機構や保険会社など、発行する窓口がそれぞれ異なります。
紛失した場合も、問い合わせた上で再発行が可能です。明細書が必要なものについては、別途自身で準備が必要です。
 
 
【白色申告に必要な書類】
 
・収支内訳書
「収支内訳書」は、その年の売上額、仕入額、人件費、家賃、減価償却費などの経費等を記載する書類です。
事業年度である1月1日から12月31日までの実績を記載し、確定申告書Bと共に提出します。
 
また、提出する必要はありませんが、平成26年以降、白色申告でも、帳簿付け(日ごとの収支記録)が義務付けられています。
収支金額や必要経費が記載されている帳簿は、7年間、それ以外の帳簿及びその他の書類(領収書や請求書)などは、5年間の保管が義務付けられています。
 
 
【青色申告に必要な書類】
 
1.所得税の青色申告承認申請書
「所得税の青色申告承認申請書」は、青色申告の対象となる事業年度の3月15日までに、
税務署に提出する必要がある書類です(1月16日以降に開業した場合は、開業日から2カ月以内)。
 
一日でも期限を過ぎてしまえば、その年の青色申告での対象となる事業年度での確定申告はできなくなるため、
前もってしっかり準備をしておく必要があります。
また、前年まで白色申告をしていて青色申告に切り替える場合も、3月15日が期限となります。
 
なお、所得税の青色申告承認申請書は、青色申告を開始する初年度のみの提出になります。継続して青色申告する場合は、2年目は提出不要です。
 
2.青色申告決裁書
全4ページになる書類で、1ページ目は損益計算書、2・3ページ目は損益計算書の内訳、4ページ目は貸借対照表となっています。
損益計算書には、1年間の事業の売上や経費を記入します。4ページ目の賃借対照表では、事業における財産や負債の状況を明示します。
確定申告の方法と手順
確定申告をするには、大きく分けて二つの方法があります。
一つは書類を入手して手書きで記入・作成し、税務署に提出する方法。書類は国税庁のホームページからダウンロードするか、
税務署・市区町村の担当部署で直接受け取ることで入手します。記入を終えたら、必要書類をすべてそろえて税務署に直接持ち込むか郵送します。
 
もう一つは「e-Tax(イータックス)」を利用する方法です。
「e-Tax」とは、国税庁が管轄・運営している「国税電子申告・納税システム」です。
インターネット環境があれば、自宅でも職場でもパソコンを使って気楽に確定申告ができます。
さらにスマートフォンでも利用できるので、書類作成時の自由度は高くなっています。
なおe-taxを使った「電子申告」か「電子帳簿保存」を行うことは、65万円の青色申告特別控除の要件の一つとなっています。
 
また、市販の確定申告用ソフト(会計ソフト等)もe-Taxに対応しているものが複数あるので、それらを利用すれば、
帳簿付けから確定申告までより効率的に進められるかもしれません。
 
いずれの場合も、必要な書類および入力フォームなどに正確な情報を記入し、期限内に提出する必要があります。
申請の期限が迫っている中で、書類の取り寄せや記入内容での不明点の確認などで焦ってしまうと、
書類不備につながり、申請を受理してもらえないという事態になりかねません。
白色申告・青色申告いずれにしても、日頃からしっかり帳簿付けをして、
必要な書類や帳票類を保管しておき余裕を持って確定申告を行いましょう。

「商店会」などの団体について
店舗が立ち並んでいるエリアで開業すれば、周辺で出店している人たちと顔見知りになったり、
あいさつをしたりなど、付き合いが増えていきます。
そこには「○○商店会」などの組織が存在していて、彼等はその団体の中でつながりを持っていることが多いものです。
しかし、初めて開業する人は、「商店会」がどういうものなのかほとんどわからないでしょう。
活動内容のほか、加入メリットについても知り、加入可否を自分で判断できるようにしましょう。

商店会の概要
通りの両脇にさまざまな業種の店舗が軒を連ねているのが「商店街」。
商店街の各店舗のオーナーが集い組織化されたものが「商店会」などになります。
 
ただ、「商店街」内の店舗で「商店会」が形成されていることが多いので、この二つは一般の認知としてはあまり区別されていません。
商店会は、商店街内の店舗同士の相互扶助を目的とした任意団体です。
現在では、その多くは活動の方向を地域活性へと向け、街全体がにぎわい、地域住民が住みやすいと感じてくれることで、
自分たちも事業継続・発展ができるという意識を持っているようです。
 
参加人数などの要件を満たしていると、商店街振興組合法に基づいて、「商店街振興組合」として法人格を有することができます。

商店会の目的・活動内容
人が住む所には商店街があり、そこで暮らす人々の生活利便性や地域の活性化のために、実は陰ながら存在し活動をしているのが商店会です。
当然、自店舗の利益追求は目的の一部にありますが、一店舗だけの活動や努力だけでは、さまざまな面で限界があります。
そこで店主同士が集まり、組織として商店街と地域を盛り上げていくのです。
 
具体的には、お祭りや福引きキャンペーンなどのイベントを季節ごとに企画し、多くの人を集めたりします。
ポイントカードやスタンプラリーにより、地元での消費を定着させるという事例もあります。
こうして商店街に人が増え、街が元気になると、それぞれの店舗も潤っていきます。
 
また、商店街の整備も行います。歩きやすいように路面の舗装を変えたり、夜間の安全のために街路灯を設置したり、防犯カメラを設置したりします。
法人格を有する団体ならば、このような施策に対しても自治体からの助成金や支援の申請などが円滑に行えます。
人々が「歩きやすい」「買い物が楽しい」「夜の帰り道が明るくて安心」と感じる背景には、活気のある商店会の活動が欠かせないのかもしれません。

商店会への加入判断はどうするか
前記のように、商店会は店主たちによる任意団体です。
そのため、開業したとしても「強制じゃないなら加入しなくても…」と参加を迷う人も少なくないでしょう。
そもそも、すでに出来上がっている組織の中に入るのには、勇気がいるかもしれません。そこで知っておきたいのが、商店会へ加入するメリットです。
 
大きなメリットとして、「経営者同士のつながりが増える」ということが挙げられます。
個々の店舗が繁盛するかどうかは、自分の努力が大きいものです。
ただ、他の店主たちとの付き合いから経営に役立つ情報を聞き、自店の利益につながるヒントになることもあります。
事業主というのは悩みが多く、孤独なこともあるでしょうから、単に同じ立場でいろいろと話ができるということでも、助かる部分はあるかと思います。
 
次のメリットとしては、宣伝効果・集客効果が得られるということでしょう。
企画イベントを通じて一時的な売上増加が見込めるのはもちろんのこと、
サービス内容や接客姿勢を知ってもらうことで、新規顧客がリピーターになる期待も生まれます。
 
デメリットにも触れておきましよう。まず、商店会活動費として月々の支出が生じます。
また、活動が活発になるほど、自店舗経営にプラスしてやることが増えていきます。
活動が面倒、人付き合いが苦手な人には積極的な参加はしにくいかもしれません。
 
ただ、その商店街でこれから経営していく上で、なんらかのトラブルが起きたときに、
商店会に加入していることで助かることもあるでしょう。
自店舗の経営方針は守りながら、将来的な事業継続を考えて加入可否を判断することをおすすめします。


店舗開業時にかかる費用には何がある?
夢をかなえる、あるいは人生の転機ともなる店舗開業。高揚する気持ちの一方、資金繰りに頭を悩ませる人も多いことでしょう。
お金のことを考えるのはなかなか大変で、細かな資金計画となればなおさら面倒でもありますが、事業では最も重要な部分です。
まずは、開業に際して必要な費用にはどのようなものがあるのかを把握しておきましょう。
出店にかかる費用について
【店舗を借りるのにかかるお金】
まず、商品・サービスを提供するベースとなる「店舗」そのものが必要です。多くの人が、賃貸店舗での経営を選択しますが、
費用項目を挙げていくと、かなりまとまった金額が必要だということがわかります。
以下に項目を列挙します。
 
・保証金
賃料の数カ月分~12カ月分というように、物件によりかなり幅があります。
「保証金」の意味合いによってその取り扱いは違ってきますが、民法622条の2第1項に定める
「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で
、賃借人が賃貸人に交付する金銭」であるならば、「敷金」と同様の解釈になります。
ただし、事業用賃貸物件は退去時の引き渡し条件が「スケルトン」という場合があり、そのときの造作解体・撤去には相応の費用がかかります。
その負担の取り決めと保証金の取り扱いについては、返還分も含めて契約時に明確にしておくことは必須です。
 
・礼金
物件オーナー(貸主)へのお礼という意味合いのものが費用として慣習化されたと言われています。金額の設定は物件ごとに異なりますが、
「礼金なし」という物件もあります。礼金は一度支払ったら返還されることはありません。
 
・前家賃
契約月の翌月分の賃料を契約時に支払うものです。
 
・仲介手数料
物件の賃貸借契約を結ぶ際に、貸主と借主の間に入って仲介業務を行う不動産会社に支払う費用です。
宅地建物取引業法により、上限金額が定められています。
 
・造作譲渡料
居抜き物件を賃借する場合に、前の店舗の内装や設備を引き継いで使うために支払う費用です。
規模や経過年数などにより金額に幅があるので、物件ごとに確認が必要です。
 
月額賃料が10万円という物件の場合、礼金・前家賃・仲介手数料がそれぞれ1カ月分、保証金が6カ月分だとすると、それだけで90万円になります。
立地や建物の状態などにより賃料はかなり違いが出てくるので、月額賃料と初期に何カ月分が必要なのかをきちんと把握することが必要です。
 
【設備にかかるお金】
まず、「スケルトン物件」を借りた場合に、店舗として形にするためにはどのような費用がかかるのか見ていきましょう。
中でもそろえる設備が多い飲食業を例に、主なものを挙げます。
 
・内装デザイン・設計費
店内をどのようなものにするか、販売物品やコンセプトに沿ったデザインを行いつつ、機能面や法令による規制を踏まえた設計をするための費用です。
店舗専門のデザイン・設計を手掛ける会社に発注するのが一般的です。
 
・内装施工費
デザイン・設計した通りに内装工事をするための費用です。
デザインから設計・施工までを同じ会社が請け負う場合と、各工程を別の会社に依頼する場合があります。
事業主の考え方で選びます。費用の比較は一概にはできませんので、案件ごとの見積り次第になります。
電気・水道などの設備工事、空調設備工事も必要になります。
 
・厨房設備購入費
飲食業特有で必須の設備です。調理設備、冷蔵・冷凍設備のほか、調理器具・食器類の保管設備などが必要になります。
法令で定められた基準があるので、必ずその規定に合ったものを設置しなければなりません。
また、換気や排水、客席エリアとの境界などにも細かな法規制があるので、購入・設置については注意が必要です。
 
・客席用什器・備品
テーブル・椅子をはじめ、来店客用の家具や食器類などの備品を用意するための費用です。
必要数はフロアの広さや客席数によりますが、そのあたりは事業計画に盛り込まれているはずなので、
気を付けるべきは購入物品の金額レベルを予算内に収めつつ、
コンセプトに合ったものを導入できるかということになります。こだわり出すと金額は上がるので、妥当な線をきちんと把握しておくことが必要です。
 
・従業員用什器・備品
従業員が更衣するための場所、業務用品・私物保管のためのロッカーや棚、休憩するための場所および設備などにかかる費用です。
 
・事務設備・機器
売上や経費の記録、商材仕入の管理、従業員の出勤予定や給与計算など、日常で行うべき事務業務を行う場所のほか、
パソコン・プリンターなどの電子機器も必要になります。
 
・外装デザイン・施工費
外壁、入り口扉、窓の仕様、看板類、庇(ひさし)、その他装飾物の設置・施工費用。
 
・商材仕入費
商品として販売するための食材を仕入れるための費用。
 
この他、レジスター、必要に応じ店内クリーニング、その他清掃用具や消耗物品の準備費用も必要になります。
 
「居抜き物件」を借りる場合には、内装についての費用一式および設備機器の購入・設置費用が基本的はかかりません。
ただし、それらを引き継いで使用するための「造作譲渡料」がかかります。
部分的に内装に手を入れる場合や一部設備を交換する場合は、もちろんその分の費用はかかります。
また、設備機器でリース契約になっているものがあり、契約を引き継ぐという形になれば、リース会社にリース料を支払う必要が出てくるかもしれません。
居抜きの場合は、その点を確認するようにしましょう。
 
以上は飲食業店舗での例ですが、その他小売業ではまず厨房設備が不要ですし、客席も不要になりますので、設備面での初期費用は飲食業より安くなるでしょう。
これ以外にかかる費用としては、商品陳列のための棚やショーケースなどが挙げられます。
また、小売業は物品をそのまま販売することが多いので、商品を相当数準備する必要がありますから、より仕入れのための費用が必要になると考えられます。

当面の運転資金を確保しておく
開業したからといってすぐに利益につながるわけではありません。
集客が順調で売上も伸びれば、経営状態は安定しそうですが、出ていく経費についても考えておかなければなりません。
実は事業が長続きしない原因として多いのは、資金が不足して経費の支払いができなくなるというものです。
一見繁盛しているように見えても、その裏側では資金不足により経営がひっ迫しているということは珍しいことではありません。
そうならないために、特に開業当初は運転資金を多めに準備しておく必要があります。
 
運転資金は、基本的には「固定費」と「変動費」の二種類があります。
 
まず「固定費」を見ていきましょう。固定費とは売上の変動に関係なく必ず発生する費用のことです。主に以下のものが挙げられます。
 
〈主な固定費〉
・店舗賃料
・リース料(設備機器をリースしている場合)
・減価償却費(設備機器などを購入した場合)
・支払利息(事業資金融資を受けた場合の利息部分)
・水道光熱費
・通信費
・人件費
・消耗品費
など
 
事業資金を金融機関から融資してもらうと当然毎月の返済が発生しますが、融資返済金額については「経費」にはなりません。
融資分については、借り受けたときにその金額は一度自分の元にあったという解釈で、
返済は文字通りそれを返しているだけなので経費としては認められないということになります。
ただし、利息分は経費として扱われます。しかし、これはあくまでも会計上の理屈なので、経営する上では毎月の固定支出として見ておく必要があります。
 
水道光熱費や通信費は、使用料などによって毎月費用が変わる場合は変動費に入れることもあります。
 
人件費については、固定給与制ならば固定費で問題ありませんが、
アルバイトやパート勤務の従業員で、時給制、シフト制を取っている場合は変動費として扱うべきでしょう。
 
消耗品費は、清掃用品、洗剤、トイレットペーパー、制服のクリーニング代、事務用品全般、ガソリン代などが挙げられます。
毎月消費量が一定であれば固定費になりますが、売上(来客数)によって変わるのであれば変動費にするべきでしょう。
 
次に「変動費」ですが、主なものは以下になります。
 
〈主な変動費〉
・商材仕入原価
・販売促進費・広告宣伝費
 
これら「固定費」と「変動費」を正しく区別して、毎月必要な費用を把握しましょう。
その上で、まずは売上に頼らずに、これら費用を支払っていけるだけの運転資金をあらかじめ確保しておくことが重要です。
少なくとも数カ月から半年分の準備は必要だと言われています。
 
金融機関、取引先への支払いが滞ることは、事業を継続する上では致命傷になりますから、
出店にかかるコストを抑えてでも運転資金は削らないように計画することをおすすめします。
また、開業当初はお客様に来ていただくために広告宣伝にもお金がかかります。その分も考えて初期費用の振り分けと、運転資金の確保について検討しましょう。

費用の削減を考える
どの業種で開業するにしても、一定の収益が見込めて経営が安定するまでにはある程度の期間が必要です。
そのために、まとまった運転資金の準備が必要だということは話しました。
一方で、早期に経営を安定させるためには、できるだけ早く「黒字化」する必要があります。
赤字と黒字の境目は「損益分岐点」で表しますが、この損益分岐点を超えて売上を上げていくことと同時に必要なのが、
経費の削減です。前項で固定費と変動費を把握したら、
次にそれらを無駄なくできるだけ適正な費用となるように精査していきます。
 
例えば、同じ設備でも購入するより安いのであればリースを検討するべきでしょう。あるいは状態の良い中古の物品が市場にあるかもしれません。
広告宣伝のためにサイトを立ち上げる場合でも、ツールを利用すれば自分で制作できます。
 
また、固定費としての電力使用に関して、使用電力に応じた最適な契約プランをすることで余計な費用を支払わずに済むことがあります。
通信費のプランについても比較検討するといいでしょう。
 
ただし、もちろん何でも削ればいいというものではありません。
従業員の時給を下げすぎれば良い人材が集まらず、店の評判が上がらなくなってしまうかもしれません。
商材の仕入れを削れば、それこそ顧客の支持が得られなくなる可能性があります。
 
開業するには資金調達を含めた事業計画が必要ですし、各種申請や手続き、店舗探しなど、大変な労力がかかります。
でも、店舗オープンはゴールではなく、まさにスタートです。
理想の店舗を描きつつ、経営者として収支バランスを常に意識して、事業を継続させていくことが重要です。


開業資金の準備・調達について
起業に際し、一番の課題となるのが資金の調達です。全額を自己資金で賄える場合を除いて、金融機関からの融資に頼るのが一般的ですが、
うまく資金を調達して開業を実現するためには、知っておくべきことがあります。

自己資金について
【自己資金はなぜ必要か】
新規事業を行うために融資が得られるのならば、自己資金は必要ないのでは? と考える人もいるかもしれません。
しかし、これから事業を始めようという人が、自分で全くお金の準備をしていないというのはいかがなものでしょうか。
 
事業を始めるにあたっては、「事業計画」が必要になります。
この事業計画の中では、当然資金計画についても詳細に練られていなければなりませんが、
そこに自己資金の準備がないということが記されていたらどうでしょう。
金融機関は事業計画書を見て、その事業の実現性や将来性に対して融資可否を判断します。
自己資金がゼロの事業主から資金の借り入れを頼まれたところで、金融機関は事業への本気度を疑い、断るというのが実情でしょう。
 
さらに、実際に融資を受ける前から開業への準備は始まっているわけですから、その段階である程度の資金は必要になるはずです。
その意味でもやはり自己資金は必要になります。では、どのくらいの金額があればいいのでしょうか。
 
「2019年度新規開業実態調査」(※)によると、新規開業時の資金調達額の平均は1,237万円で、
うち金融機関などからの借入れが平均847万円(約68.4%)、
自己資金の平均は262万円(約21.2%)となっています。政府系金融機関である「日本政策金融公庫」では、
「新創業融資制度」を利用する際の要件の一つに「(融資)総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方」というものを設定していますが、
上記調査結果から見ると、2割以上の自己資金を準備して開業に臨む人が多いと言えそうです。
実際に問題なく融資審査を通過するためには、3割の自己資金があると安心かと思われます。
 
また、「自己資金」を考えるときに気を付けなければならないことがあります。
それは、融資を申し込む際には、「事業に使用される予定の資金」しか自己資金として認められないということです。
つまり貯蓄があっても、家族の生活資金とか教育資金などは事業用の自己資金に含めることができないということです。
 
自己資金は、基本的に貯蓄を積み重ねたものが金融機関では認められます。
計画性をもって積み立てた実績が、事業経営者の資質として評価されると言われています。
反対に、同じ金額でも一度に口座入金したものは自己資金としては認められません。
これは融資を受けるためにそのときそろえた一過性の金銭だと判断されるからです。
 
ただし、金銭でなくても自己資金として認められる場合があります。開業の準備として事業に必要な物品などをあらかじめ購入した場合は、
その金額分が自己資金として認められる可能性があるのです。
これを「みなし自己資金」と言います。
 
いずれにしても、事業計画に説得力が備わるだけの自己資金と計画的な準備が必要であることは確かでしょう。
 
※出典:日本政策金融公庫 総合研究所「2019年度新規開業実態調査」~アンケート結果の概要~(2019年11月22日)
 
【援助による資金増額】
起業に際し、親や親族から資金援助を得られることもあるでしょう。
資金が増えるという点ではとてもありがたいことですが、融資を申し込むときには援助の形に気を付けなければなりません。
例えば、日本政策金融公庫では、援助された資金が返済の必要がある借入金という扱いなら自己資金として認めない、ということがあるからです。
この場合、自己資金として融資を受けたいのならば、「贈与」という形をとる必要があります。ただし、贈与にすると金額などによっては贈与税がかかってくるので、
こちらもよく考えておく必要があります。

「日本政策金融公庫」の融資制度を利用する
民間金融機関による融資が難しい、実績のない新規開業資金について、積極的に貸し出す方向で支援してくれるのが、
政府出資によって設立された「日本政策金融公庫」です。
中でも多くの事業主が利用しているのが「新創業融資制度」です。無担保・無保証人など、融資条件のハードルは低めに設定されていますが、
事業計画や返済計画等、きちんとしたものを提出する必要があるのは民間金融機関と同じです。
 
【利用条件】
新創業融資制度を利用するには、いくつかの条件を満たす必要があります。大きく分けて、
「創業の要件」「雇用創出などの要件」「自己資金の要件」の三つの要件があるので、利用を考えるならしっかり確認しておきましょう。
 
1.創業の要件
新たに事業を始める、もしくは事業開始後、税務申告を2期終えていないこと
 
2.雇用創出などの要件
雇用の創出を伴う事業、技術やサービス等に工夫を加え多様なニーズに対応する事業、過去に長年勤務した業種と同じ事業(6年)、など
 
3.自己資金の要件
創業時に創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使うための資金)が確認できること
 
 
【融資限度額】
融資には限度額が定められており、最大3,000万円まで(うち運転資金1,500万円)となります。
これはあくまでも上限額であり、審査の結果によって金額は変わってきます。
一般的には、自己資金額が多く事業計画がしっかりと立てられていると有利だと言われています。
 
【新創業融資制度の特徴】
新創業融資制度の特徴は、何と言っても担保や保証人がなくても融資が受けられることです。
起業を支援して日本経済を活性化していこうという、国の政策に沿った経営方針で、
起業に際して必要な設備資金・運転資金を提供します。
また、融資申請の書類を整えて担当者との面談が済んでから審査結果が出るまでの期間が、通常の場合で二週間程度と短めなのも特徴でしょう。
 
このように、日本政策金融公庫の新創業融資制度は、比較的借り入れしやすい融資制度ですが、
堅実な事業計画をしっかりと練り上げ、現実的な返済計画を提示する必要があります。
営業の許認可が必要な業種は、許認可が下りないと融資実行されない場合があるので、対象となる業種については事前に確認しましょう。
また適用要件や金利などは変更されることがあるため、最新情報の確認も必須です。

「制度融資」を利用する
「制度融資」とは、各地方自治体と民間金融機関、信用保証協会が連携して企業融資を行う制度です。
融資を行う金融機関に対して、自治体が金利負担や預託などを行い、保証協会が保証を行う仕組みとなっています。
 
【制度融資の特徴】
制度融資は、まず新規事業資金が借りやすいというのが最大の特徴です。
例えば、企業を退職して個人で商売をする場合、経験も実績もないので、その事業の継続性・将来性が不透明なのも事実ですから、
一般的には金融機関はなかなか融資に踏み切りにくいというのが実際のところでしょう。
 
しかし、社会の活性化のためにセカンドキャリアを支援することは、高齢化が進む中ますます必要になってきます。
その意味で自治体が制度として設けている制度融資は、審査の基準を柔軟にして、
個人事業主に対しても広く融資が得られるようにしています。
 
また、借入金利が低いということも特徴でありメリットです。これも上記の支援方針を前提としているので、
高い金利を課して利用者の事業継続が厳しくなるようなことを極力避けるという、
基本的な趣旨によるものでしょう。ただし、金利の設定は各自治体の制度ごとに異なりますので、それぞれに確認が必要です。
 
借入資金の返済に際しては、「据置期間」が長いということも特徴の一つです。「据置期間」とは、借入元本を返済せずに金利分だけを支払う期間のことです。
この期間が1年程度まで設定できることが多いので、資金繰りが不透明な開業当初においてゆとりを持った返済計画が立てられます。
 
一方、審査期間が長め(2カ月程度かかることもある)、自己資金要件の準備割合が高い(融資額の50%ということもある)、連帯保証人が必要な場合が多い、ということは、
デメリット的な特徴として挙げられますので、合わせて認識しておきましょう。
 
【利用条件・融資限度額など】
自治体が行う制度なので、各自治体の管轄内で事業を営む事業主・企業が対象になります。条件の詳細は自治体ごとに異なります。
 
融資限度額についても自治体ごとの設定内容によります。
業種や事業規模によって変動設定されている場合もありますので、対象地域の制度内容を確認しましょう。


「開業費」「創立費」の取り扱いと節税効果
店舗開業、会社設立の際にかかったお金は、「開業費」「創立費」で費用に計上することができます。
「開業費」「創立費」は繰延資産として税務上処理されるため、節税効果があることが知られています。
当記事では「開業費」「創立費」とは何かを説明し、「開業費」「創立費」を利用した節税術を具体的にご紹介していきます。

「開業費」「創立費」とは
【開業費とは】
会社設立後から営業開始までの間に、開業準備のために支出した費用を開業費といいます。
ポイントは以下の二つです。覚えておきましょう。
 
・会社設立後から営業開始までの期間の支出費用であること
・開業準備のための費用であること
 
まず、期間の縛りがある点に注意しましょう。
会社設立前の支出については、開業費の対象にはなりません。
また、開業準備に直接かかった費用が対象となりますが、費用項目は個人事業主と法人とで異なります。主な項目は、以下を参照してください。
 
【開業費に含まれる費用】
〈個人事業主の場合〉
・土地、建物等の賃借料
・通信費
・消耗品の購入費
・従業員の給料
・電気・ガス・水道料などの公共料金
・保険料
・支払利子
・広告宣伝費
 
〈法人の場合〉
法人の場合、税務上開業費として認められるのは、「開業準備のために特別に支出した費用」と定義されています。
下記のものなどは開業費に計上することができます。
 
・開業のための広告などの制作費
・広告宣伝費・人件費
・名刺・印鑑の製作費
・調査費
・交際・接待費
・交通費
 
なお賃借料、水道光熱費など毎月決まって支出される経常的な費用は、開業にかかった費用であっても開業費としてではなく、
その支出年度の経費として処理することになります。
 
【創立費とは】
会社を設立するために支出した費用を創立費といいます。以下の三つがポイントです。
 
・会社を設立するためにかかった費用であること
・法人として設立登記するまでの費用であること
・設立登記した「法人」のみに認められる費用であること
 
創立費は法人設立のためにかかった費用が対象となりますので、個人事業主には適用されません。
 
【創立費に含まれる費用】
・定款やその他必要な規則作成に要する費用
・株式申込証や目論見書などの印刷費
・創立事務所の賃借料
・設立事務に関わる使用人の給料
・証券会社・金融機関の取扱手数料
・設立登記の登録免許税
・発起人への報酬
 
【法人に適用される開業費・創立費】
法人の場合、設立前に支出した費用は創立費で処理していくことになるので、法人設立登記日で明確に区切って、費用を振り分けていきましょう。
特に法人では、創立費が認められるかわりに、開業費については「開業準備のために特別に支出した費用」だけが対象になります。
法人設立をお考えの人はしっかりと覚えておきましょう。
 
【個人に適用される開業費・創立費】
個人事業主は会社設立登記をしないため、創立費は発生しません。事業を起こすために支出した費用は、全て開業費で処理していくことになります。
そのため、個人事業主の開業費に関しては比較的緩やかな基準がとられているため、開業にかかる幅広い費用を開業費として処理することが可能です。

開業費・創立費の「節税」効果
開業費・創立費は、処理の仕方によって効果的な節税につながります。
どういった仕組みによって節税が可能になっているのか、具体的なシステムを説明していきます。
 
まず、開業費・創立費は「繰延資産」として計上できます。
繰延資産とは、法人が支出する費用のうち、支出の効果がその支出の日以後1年以上におよぶものを指します。
本来は費用ですが、長期的な効果が得られるため一旦資産として計上し、時間をかけて少しずつ償却していくことが可能になります。
この繰延資産が節税効果を引き出すポイントになります。
 
繰延資産の償却方法は二つあります。一つ目は均等償却していく方法です。開業費・創立費については、償却期間が5年となっています。
二つ目は任意償却です。任意償却を選択した場合、償却期間の定めがないので、償却期間・償却額を自由に設定できます。
 
一般的に開業したばかりの事業は赤字になりやすい傾向があります。赤字のときは繰延資産を償却しないで、
事業が軌道に乗ってきたときに繰延資産を償却していくことで「節税」効果を得ることができます。
開業費・創立費は繰延資産として任意償却ができるため、節税効果があると言えます。

開業費・創立費の対象範囲に注意
開業費・創立費で節税を行う場合、「開業費・創立費として認められないもの」に注意しましょう。具体的には下記になります。
 
・一つあたりの取得価額が10万円以上のもの(固定資産になります)
・販売用商品の仕入代金(売上原価になります)
・敷金や加盟金など後日返還が予定されている支出
・礼金
 
前述の費用項目にもありますが、個人事業主と法人では対象項目が違いますので、誤認がないようにきちんと確認しましょう。


事業用不動産賃貸借での「権利金」について
事業用不動産の賃貸借契約の場合、「権利金」が設定されているケースが多くみられます。
「権利金」は法的な根拠があるものではなく、あくまで商慣習として定着しているものです。
国税庁では「権利の設定の対価」として扱っています。当記事では権利金とは何なのかをさまざまな視点で見ていきます。

「権利金」とは何か
「権利金」とはいったいどのようなものなのでしょうか。ここではその言葉の定義や法的な性質、税務上の取り扱いを見ていきます。
 
【権利金の定義】
権利金とは、不動産の賃貸借契約を締結する際に、賃料以外の金銭を賃借人が賃貸人に支払う金銭のことです。
 
【権利金の性質】
権利金は、国税庁では「権利の設定の対価」としています。具体的には何の権利の対価として設定されているのでしょうか。
 
一般的に、権利金は立地上有利な不動産を借りることで得られる利益に対する対価であると言われています。
駅前の一等地や人気の高い商業施設のそばの立地などは集客がしやすく、事業で利益を上げやすいという利点があります。
そういった「利益」に対する対価が、権利金の性質の一つだと考えられます。
 
また、事業用の不動産の賃貸借契約の場合、事業という性質から契約が長期化することが多く見受けられます。
その上、借地借家権は契約期間終了時に貸主に正当な理由がなければ契約の更新を断ることができません。
こうした貸主にとっての貸借上のリスクに対する対価としても、権利金の性質の一つであると言えます。
 
【権利金の税務上の取り扱い】
法人が支払った権利金は、支出の効果がその支出の日以後1年以上におよぶ場合、「繰延資産」として取り扱われます。
繰延資産の償却期間は下記のようになります。
 
・建物の新築に際して支払った権利金などで、その金額が建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、
その建物が存続する間は賃借できる場合 → 建物の耐用年数の10分の7に相当する年数
 
・建物の賃借に際して支払った上記以外の権利金などで、契約や慣習などによって、
明渡しのときに借家権として転売できることになっている場合 → 建物の賃借後の見積残存耐用年数の10分の7に相当する年数
 
・上記以外の権利金などの場合 → 5年(ただし、契約による賃借期間が5年未満の場合で、
契約を更新するときには再び権利金などの支払いをすることが明らかであるときはその賃借期)
 
なお、賃貸人側の権利金の処理は、将来返還しないことが確定している場合は、契約時に「収益」として計上します。
 
※出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/

権利金と敷金・礼金などの比較
【権利金と敷金】
敷金は、不動産賃貸借契約において、未払い賃料や退去後の原状回復義務などの債権に対する担保として、賃借人が賃貸人に支払う金銭を指します。
敷金の性質上、賃貸借契約が終了したときに未払い家賃がなく原状回復費用が不要の場合、
賃貸人は敷金を賃借人に返還する必要があります。通例、居住用物件の賃貸借契約で多く見られます。
 
一方、権利金は基本的に返還されない金銭ですから、敷金とは「返還義務」といった点で相違点があると言えます。
 
【権利金と礼金】
礼金は、その名前の通り、賃貸借契約が成立したことに対する「お礼」として、賃借人から賃貸人に支払われる金銭のことを指します。
扱いが「お礼」なので、これも賃貸人からの返還はありません。その点で礼金は権利金と似通った性質があると言えます。
 
権利金と礼金の相違点は対価の有無にあると言えます。礼金は「お礼」として支払う金銭ですので、なにかしらの権利との対価性はありません。
ですから、そもそも返還される性質を有していない金銭ということができます。
 
対して権利金は、立地上の利益などなにかしらの「対価」が存在するため、個別的なケースでは返還義務が生じる可能性があります。
権利金が返還されるケース
原則的に、権利の対価である権利金には返還義務はありません。しかし、権利金には対価としての性質がある以上、なにかしらの特殊な事情が発生した場合には、
賃貸人は賃借人に権利金を返還するケースがあると考えられます。
 
具体的には、契約期間があらかじめ定められている賃貸借契約の場合、賃貸人の一方的な事由で賃貸借契約が途中解約されるようなケースであれば、
未経過の期間の部分の権利金は返還されると考えられます。理由としては、通常権利金は、賃貸借契約の期間に応じた設定がなされていますので、
未経過の部分に関して賃借人は相当分の利益を享受していないとみなされるからです。
ただし、期間に定めのない賃貸借契約の場合は、未経過の期間の算定ができないため、権利金は返還されることはありません。

入居する店舗はどう選ぶか
店舗開業に際して大事なことはたくさんありますが、どういう店舗物件を選ぶかということは、とても重要なことの一つです。
選ぶ物件によって、初期費用・運営費用のコスト面、集客状況などの収益面が大きく違ってきます。

店舗物件の状態による二つの選択肢
まず店舗選びでは、店づくりにおいてデザインなどの独自性を優先するか、初期費用を優先するかによって、選択肢が分かれます。
独自性を求めると、内装デザインから設備・什器、装飾まで全てを自分でつくり上げる「スケルトン」物件を選ぶことになり、
初期費用をかけないようにするなら「居抜き」物件を選ぶことになります。
 
「スケルトン」とは、前入居者の設備や内装をすべて撤去した、躯体だけの状態の物件です。簡単に言うと、箱のみで中身は全部自分でつくり上げていくものです。
店舗デザインや導入設備の自由度が高い分、初期費用は高額になります。また、デザイン設計~内装工事、設備類の設置をすべて行うので、開業までの時間も長くかかります。

 
「居抜き」とは、前入居者が使っていた内装、設備をそのまま利用するものです。内装・設備の継承に際しては「造作譲渡料」がかかりますが、スケルトンに比べると費用は低く抑えられます。
ただし、造作譲渡料は物件ごとに異なりますから、必ず確認しましょう。また、居抜き物件は既に出来上がっている分、開業までの時間も短くて済みます。
その反面、店舗デザインの自由度は低く、手直しを加える場合、思った以上のコストがかかることもあります。
居抜き物件を活用する場合は、前入居者が「同業種」であることと、事業規模が同程度であることが原則です。専用の設備が少ない物販の店舗だと物件の選択肢が多くなります。

階数による選択
続いて階数位置についてです。一般的な物品販売や飲食店では、前面道路から見つけやすく入りやすい「1階路面店舗」が最適です。
しかし1階路面店舗は賃料が高い傾向があります。逆に同じ立地でも「2階以上」や「地階」は賃料が低く設定されます。
2階以上や地階は店舗が見つけにくいので、顧客を誘引するためにはいろいろな手だてが必要ですが、工夫次第で集客が十分望めます。
 
2階以上の「空中店舗」の場合は、目線より上に店舗があるので気づかれにくいということが最大のデメリットです。
特に階段しかない場合は、年配の人や小さな子供連れの人は上り下りに抵抗感を抱きやすいです。
エレベーターがない場合は、階段などにひと工夫しましょう。
「上りたくなる階段」や「上に視線が行く仕掛け」など、工夫次第で2階のデメリットも解消可能です。
 
「地階」も決して悪くありません。人の視線は平行から下を向いていることが多く、地階の店舗は意外と目に留まりやすいのです。
人の心理でも、上るより下りる方が楽という感覚があり、地下へ行くことへの抵抗感は少なめです。
建物の入口や階段上の目につきやすい場所に看板やメニューボードを置くことができれば、集客効果は上がるでしょう。
もちろん地階なので窓からの景色は望めませんが、夜のみ営業の居酒屋などには適しています。
ただし、地階店舗は消防などの法規制が厳しく、特にスケルトンの場合は、その対応にコストが余計にかかる場合もあるので要注意です。

インフラ・駐車場も要チェック
店舗選びでは、インフラ回りの確認はとても重要です。電気は、電源位置や配線についても自由度が高いので、
ほとんどの業種で問題ありませんが、使用電力量(契約アンペア数)の確認は必要です。
ガスや水道は簡単に変更できない場合が多いので、店舗設計に合っているかを慎重に確認しましょう。
さらに水回りは、給水だけでなく、排水についても必ず確認しましょう。特に飲食店の場合は、衛生面に大きく関わってきますので、
水の流れ具合、掃除のしやすさ、においがないかなども要チェックです。
なお、排水設備には法令による定めがあるので、規定から外れないようにも注意が必要です。
インフラ回りに不具合が発生すると、建物全体で見直すことになる可能性があります。改修ということになれば、営業できない期間が発生することもあるので要注意です。
 
自動車での来店を想定するか否かもポイントです。自動車来店を想定しているのに施設に駐車場がないと、周辺の駐車場の確保が必要です。
その際は、運営経費としてかかる駐車場の賃借料を顧客から回収するか否か、回収するなら価格に上乗せするのか、などの検討が必要になります。
駐車場の状況は、業種によっては集客・収益に直結する場合があるので注意しましょう。

失敗しない「出店場所選び」をするために
店舗を開業する場合、その店舗のコンセプトに合った出店場所選びが必要です。
もちろん人通りの多さなども大事ですが、その業種に合った人通りの質も大切です。
出店場所は一度決めたらなかなか変えることができませんので、最初の選定はとても重要です。

人通りの「質」を調べる
どんなに魅力的な店舗ができても、お客様に来てもらえなくては意味がありません。
人通りが多い立地が集客に有利なのは確かですが、事業としてはもっと戦略的に考えなくてはなりません。
そこで、人通りの「数」だけでなく「質」を見極めることが必要になるのです。
つまり、店舗コンセプトで定義した客層の来訪が、どれだけ望めるかが重要なポイントになります。
 
その街の人口統計(属性内訳)や通りごとの交通量(人・車)のデータは、省庁や自治体が公表しているものがあります。
しかし、必ずしも欲しい情報があるわけではありませんし、場所を絞るほど細かなデータは見つからない可能性は高いです。
ですから、人の「質」について正しい情報を得たいなら、実際に現地に赴いて調査することをおすすめします。
インターネットでの下調べで大体の情報を仕入れた後、現地へ行きましょう。時間帯、曜日による違い、天候による違い、人の流れの方向、行き先(目的)の推察などを行います。
大変ですが、事業の成否がかかっていると思えば必要性が感じられるでしょう。
 
また、どれだけ競合店があるかも重要なポイントです。
一見、競合店がない方が開業するには好都合に思いがちですが、実は競合店が全くないということは、そこにニーズがないとも考えられます。
さすがに競合店が多すぎると淘汰の波に飲み込まれてしまいますが、持ちつ持たれつ程度に競合店があるエリアなら、相乗効果も期待できます。

法令による出店制限を必ず確認
どんなに良い立地でも、法規制により出店できない場合があります。競合店があるから大丈夫かと思っても、わずかな場所の違いだけで出店不可の範囲に含まれてしまうこともあります。
 
まずは、都市計画法で定められた「用途地域」による制限を確認しましょう。商業系の用途地域なら出店に対する制限は少ないですが、住宅系の用途地域では制限が多くあります。
「第一種低層住居専用地域」では独立店舗は出店不可、「第二種低層住居専用地域」では独立店舗は床面積150平方メートル以下との制限がかかります。
また、同じ用途地域内でも業種によって出店可否が異なりますので、出店場所探しでは、この「用途地域」は基本的かつ重要な確認事項です。各用途地域の規制概要は以下の通りです。
 
【第一種低層住居専用地域】
店舗付き住宅のみ出店可能。店舗部分の面積が50平方メートル以下かつ建築物の延べ床面積
の2分の1未満に限定。故に小規模店舗に限られる。
 
【第二種低層住居専用地域】
店舗面積150平方メートル以下なら独立店舗の出店可能。ただし、飲食店は50平方メートル以下に制限。
 
【第一種中高層住居専用地域】
2階以下で床面積500平方メートル以下なら飲食店も出店可能。
 
【第二種中高層住居専用地域】
2階以下で床面積1,500平方メートル以下なら飲食店も出店可能。
 
【第一種住居地域】
床面積3,000平方メートル以下なら出店可能。
 
【第二種住居地域】
床面積10,000平方メートル以下の制限のみ。一般的な業種店舗に加え、遊戯施設なども面積制限付きで出店可能。
 
【準住居地域】
一般的な業種店舗に加え、遊戯施設、劇場・映画館なども出店可能。
 
【近隣商業地域】
延べ床面積が10,000平方メートルを超える大規模集客施設(劇場・映画館・展示場など)まで出店可能。
 
【商業地域】
近隣商業地域の内容に加え、風俗施設の出店も可能。全ての用途地域の中で最も制限が少ない。
 
【準工業地域】
商業地域に次いで制限が少ない。遊戯施設・風俗施設で部分的に制限が加わる。
 
【工業地域】
ホテル・旅館、劇場・映画館などはほぼ出店可能。風俗施設は不可。
 
【工業専用地域】
物品販売店・飲食店ともに不可。カラオケ店はOK。
 
用途地域がクリアできても、パチンコ店など「風俗営業施設」については、「風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律(風営法)」の規制により、
「保全対象施設」が近くにあるとほとんどの場合は開業できません。保護対象施設とは「学校」「図書館」「児童福祉施設」「病院」「診療所」が挙げられます。
風営法の定めにより営業許可が必要な業種を営もうとする場合は、用途地域だけではなく、周辺の施設も確認する必要があります。

背伸びしない出店場所選びを
繁華街など多くの人通りが期待できる場所は、一般的に賃料が高い傾向です。
必ずしも「人通りの多さ=来店客数の多さ」ということにはなりませんので、事業計画以上の賃料の店舗を借りても
、期待を上回る収益が得られる保証はありません。
出店場所選びでは、前述のように店舗コンセプト・事業計画に則り、人通りの「数」より「質」を考慮して、無理な背伸びをしないようにしましょう。
 
また、店舗の広さも事業計画に合ったものを選びましょう。
広すぎると接客プランが変わり、プラスの従業員配置が必要になる可能性があります。
メンテナンス費も余計にかかるので、事業計画で策定した収支予測が崩れる一因になります。
一方、狭すぎると収益率が落ちてしまう懸念があります。
最初は事業計画通りに進めて、開業後の経営状態が順調ならば、賃料をアップしてより広い店舗へ移転する、
または支店を出して事業を拡大する方針を取るといった戦略を検討することもできます。

事業の成否を左右する出店立地について
特に店舗の場合、事業の成否を左右する重要な要素に「立地」があります。
店舗コンセプトに合致して、ターゲット顧客層を誘引しやすい立地を選定するためには、
さまざまな視点で立地を見て分析・評価することが必要です。

出店立地を客観的に評価する
まず、客観的に立地を評価するための方法を見ていきましょう。
 
【商圏データを調べる】
出店を検討している商圏の調査をしていきましょう。具体的には、以下のデータを調べることで状況をつかみます。
 
〈人口調査〉
集客を考える上で、人がどれだけいるか、は最も重要なことです。
人口調査をするにあたっては、現在はインターネットで簡単に欲しい情報を入手することができます。
市区町村など自治体のホームページではさまざまな調査データが公表されているので、出店前の調査に有効に利用することができます。
自治体によって種類や出し方は違いますが、世帯数や男女別人口推移など、細かい人口調査の統計を調べることができます。


 
〈交通量・通行量調査〉
商圏の交通量・通行量を知ることも重要です。交通量は自動車が走る台数で、各自治体のホームページで主要な道路、特定の地点での交通台数を調べることができます。
通行量は歩行者・自転車が往来する数を調べたもので、商店街などでの通行人数がわかります。
店舗開業では有効な参考データになるでしょう。これも自治体のホームページで閲覧できます。
 
〈駅の乗降客数調査〉
駅の乗降客数も把握しましょう。店舗立地を考える場合は、特に降りる人の数に注目します。降りる人は「その街にいる人」と考えられるからです。
また、定期券の利用者数も有効なデータになります。単純に数だけでは出て帰ってくる人なのか、来て帰っていく人なのかはわかりませんが、
安定的にその街に滞在する人数としてカウントできるからです。
 
これらデータは単体での状況把握のほかに、組み合わせて考えるとさらに有効に使えます。
例えば人口数よりも乗降客数がかなり多い場合、よその場所からの来訪者が多い街だなとか、駅に降りる人はどの改札口から出る人数が多そうだなどの予測ができます。
 
【動線を調べる】
動線とは、人や車の動き、流れのことです。例えば、車が高速道路のインターチェンジを降りた場合、どちらの方面に向かって動くのか、
駅を出た人はどのルートをたどるのかなどを示す線のことです。動線を調査することで、人や車の動きの傾向を知ることができます。
 
出店計画に際しては、店舗の前面道路を中心に見ていくことになります。ここで重要なことは、「通行量が多い=売上アップには直接つながらない」ということです。
単に通過してしまうだけのポイントであれば、通行量が多い場所だといっても集客力は低くなってしまうからです。
ですから、動線調査を行う場合は、どの層の人がどの方向に動いているのかに重点を置きます。さらに方向の先に何があるかを調べることで、その目的の予測も立ちます。
動線調査については、個別地点でのデータはまず存在しないので、自分で行うか、専門企業に依頼することになります。
 
【属性を把握する】
「属性」とはこの場合、その土地はどのような場所にあるのか、と言い換えて考えられます。
 
〈繁華街〉
人がたくさん集まるにぎやかな繁華街の客層は、主にその場所を目的としてやって来た人になります。
または、近くまで来た人が「何かありそうだ」などと、何となく足を向けるということも多いでしょう。
ですから、比較的土地感がない人が多いことも特徴です。すでに存在している施設や店舗の種類によって、集まる人の年代・男女比などがわかります。
 
〈オフィス街〉
オフィス街は、当然そこで働いている人々が多い場所です。基本的に学生や主婦、子供はあまりいません。
終業後は家に帰ることになるので、一般的にはオフィス街は昼間に人が多く、夜間から朝にかけては人が少ないという特徴もあります。
同様に休日の人出も少ないでしょう。
また、平日には毎日同じ人が同じように過ごすという事情から、飲食店などでは固定客がつきやすいと言えるかもしれません。
 
〈住宅街〉
そもそも出店の対象として需要が少ないため、まず競合が少ないことが特徴です。比較的賃料が安めでもあります。
住民の潜在需要を引き出すような店舗コンセプトで出店すれば、長期で成功するケースもあります。
 
〈ロードサイド〉
車での来店を主眼に考える場所です。交通量が多ければ集客がしやすいように感じますが、実際は難しい側面もあります。
車で通行しているため、店舗そのものがなかなか目に留まりにくいという傾向があるからです。
出店する際はドライバーの視点に立って、「店を見つけやすいか、店に入りやすいか」などを検討する必要があります。
進行方向の手前や交差点など、目を留めやすい場所に看板を設置するなどの手だてが必要になるかもしれません。
また駐車場に入りやすく、スムーズに出られるかも重要なポイントです。駐車可能台数も含めて安全面を考えることで、リピート率にもつながります。
店舗コンセプトと立地は合っているか
【想定客層との合致】
前段でも触れましたが、立地の属性によってターゲットとなる客層を判断することができます。
具体的にはオフィス街なら会社員がメイン、住宅街であれば主婦層がメインであるなどです。
店舗コンセプトで想定している客層と、立地の属性が合致しているかをあらかじめ確認するようにしましょう。
 
【販売商品との合致】
取り扱う販売商品やサービスと候補立地が合っているか。前述の商圏データや動線の調査結果、立地属性に照らして、
提供商品の需要が十分にある場所かどうかを判断していきましょう。
 
【見つけやすさ・入りやすさとの合致】
例えば、ラーメン店を出店する場合、競合店があったとしても繁華街や商店街の並びにあると、歩く人には認知されやすく入りやすいと考えられます。
また、のれんをくぐってすぐに席に座るという一般的なラーメン店をイメージする人が多いとすれば、1階路面店舗が優先度の高い条件になるでしょう。
 
一方おしゃれな雑貨をゆっくり見てほしい、という店ならば、遊戯施設や酒類提供店舗の隣では入りにくく、ゆっくり見られる環境ではないかもしれません。
やや見つけにくい路地の奥だとしても、「隠れ家」的な雰囲気に引かれる顧客層をつかめることも考えられます。
 
このように店舗コンセプトと店の見つけやすさ・入りやすさが合っていることは、とても大切です。
ただし、たとえ「隠れ家」であっても、路地手前の通りに案内板を出すなどの誘引手法は必要でしょう。

立地選択で注意すべきポイント
【需要の確認】
出店予定の店舗に対する需要が、その立地にあるのかを考えます。例えば、薄利多売の大衆食堂を閑静な住宅街で出店しても、
そもそも人の数が少なく平日昼間は主婦層がメインであることを考えると、
大きく成功する見込みは薄いことがわかると思います。この店の場合、学生が多い地域やオフィス街などが需要と合致する場所と言えるでしょう。
 
【人材確保について】
店舗経営では、規模により従業員が必要になります。店舗コンセプトとも関係しますが、その店で働く従業員が通いやすいか、ということも考えておくといいでしょう。
例えば、駅から遠くても主婦が働きたいと思う店ならば、近隣の住宅街に住む人からの応募が期待できるので、一概に利便性の良さが必要というわけではありません。
 
【宣伝効果を考える】
店舗経営で、「宣伝」は集客に大きな効果を発揮します。1階路面店舗は、空中店舗と比べてその場所にあること自体で「宣伝」になっているとも言えます。
その他の立地でも、効果的に看板や案内板を出すことによって、十分に顧客誘引は図れます。それらの設置が可能かどうかを確認しましょう。


居抜き物件で開業するメリット・デメリット
「居抜き物件」とは、以前使っていた内装・設備などがそのまま残っている物件のことで、主に店舗や事業所など事業用の物件が対象となります。

起業までの時間を短縮
居抜き物件の特徴は、物件を借りる時点で必要な内装・設備・什器が整っているということです。
このように、前の状態をそのまま引き継ぐことを「造作譲渡」と言います。
内装工事や設備・什器などをそろえる必要がありませんから、その分開業までの時間が短縮されます。
物件を借りる契約をしてから、実際の開業まで短い時間で済むのは、起業に際しては大きなメリットになる場合があるでしょう。
設備を購入する費用も節約できる
内装や設備を自分で準備する必要がないということは、その分の費用が節約できるということです。
つまり、開業に際してかかるはずの初期費用が大幅にカットできるわけです。これも居抜き物件の大きなメリットです。
 
この分の予算は留保しておいて運転資金に回したり、メニュー開発を強化したり、あるいは広告宣伝を充実させたりと、
経営を安定させるためのその他資金に転用できるでしょう。
個人で初めて開業するのであれば、居抜き物件の方がハードルは低いと言えます。
 
ただし、多くの場合は無償で造作譲渡を受けられるわけではなく、大抵は「造作譲渡料」を支払います。居抜き物件を探す際には、造作譲渡料を必ず確認しましょう。
中には一部設備の所有権がリース会社にあり、別途リース契約を結ぶ必要があることもあるので、その点も確認しましょう。
 
造作譲渡料を支払ったとしても、スケルトンから全てを自分でそろえることに比べると初期費用は安く上がるはずですが、
この分の予算を考えていないと資金計画を見直さなくてはならなくなるので、
居抜き物件では、造作譲渡料がかかるということを頭に入れておきましょう。

内装・設備が整っていることでのデメリット
すでにある内装デザイン、それに合わせた什器・備品ということは、自分がやりたいと思ったデザイン、雰囲気を持った店づくりはできないということになります。
 
さらに、以前の店のままということは、たとえ屋号が変わりメニューを一新したとしても、顧客は前の店の印象を引きずってしまう可能性があります。
特に前の店の評判があまり良くなかったならば、その悪いイメージを払拭するための戦略を立てなければなりません。
ただ、そこを頑張って「今度の店はおいしい」とか「雰囲気がいい」といった評判を最初に得られたなら、その後は順調にいくかもしれません。
 
手法として、一部分に手を加えて独自色を出す、というやり方もありますが、中途半端な形になると顧客から
「何の店かわからない」といった、コンセプトに対するマイナス評価を得てしまうので、注意しましょう。
 
また、居抜き物件の設備が古い場合、使いにくさを感じることがあります。経費を抑えるためにそのまま使用するか、費用をかけて最新の設備にするかは判断が必要です。
先々十分に使えそうで、少しの使い勝手を我慢できるなら、そのまま使うという判断もあるでしょう。
もしもメンテナンスの面でメーカーのサポートなどがあまり望めない状況なら、思い切って新しいものに交換した方がいいかもしれません。
どちらにしても、開業後の資金繰りは不透明ですから、費用はできるだけ抑えられるように、慎重に検討・判断することをおすすめします。


スケルトン物件を選ぶメリット・デメリット
店舗を開くときには、「居抜き」または「スケルトン」から物件を選ぶことになります。
どのような店づくりをしたいのか、事業計画はどう立てているのかによってどちらを選ぶのかが変わってきます。

スケルトン物件とは
「スケルトン」とは不動産用語では、建物の骨組みのことを言います。具体的には、柱や壁、梁(はり)、床、天井といった建物そのものを支える構造躯体だけの状態です。
内装は一切施されておらず、コンクリートはそのままで、配管や配線もむき出しになっています。
物件の引き渡しは、当然この状態で行われます。内装が何もないところから店舗をつくり上げていくことになります。

スケルトン物件のメリット
スケルトン物件の最大のメリットは、一から自分の店をつくり上げられるということです。
床を張り、天井を仕上げて、壁にクロスを貼る。レイアウト次第で仕切りを設置したり、雰囲気に合わせた照明器具を入れたり、イメージ通りの什器や装飾を探すなど、
自分のこだわりを反映した店舗にしたい人にとってはとても魅力的です。
 
居抜き物件はすでにレイアウト・デザインが仕上がっている状態の物件をそのまま使うので、どうしても以前の店舗イメージが残ってしまいます。
しかし、スケルトンは、自由にレイアウト・デザインが決められるため、全く新しい店舗として顧客に認知してもらえるでしょう。
ですから、新規開店時のインパクトは大きく、広告宣伝をうまく行えば、開店当初の集客は比較的しやすいかもしれません。
 
また、設備も新たに導入するので、メンテナンスや交換の時期が長めになるということもメリットになります。
居抜きの場合は、使用年月や前オーナーの使い方にもよりますが、経年劣化という点では不具合や故障が発生する可能性は高くなるでしょう。

スケルトン物件のデメリット
一方、スケルトン物件のデメリットは、まず費用がかかることが挙げられます。店づくりに関してはすべて自分で準備しなければならず、
開業資金はかなりの高額が必要になるでしょう。
店舗規模や業種によって当然違ってきますが、内装工事、インフラ周りの設備工事だけでも100万円単位で費用がかかります。
さらに必要な設備機器、什器、備品、装飾品をそろえていくと、1,000万円にもなることもあります。
デザイン設計からデザイナーや店舗設計会社に依頼する場合は、その費用もかかります。
このように、費用をかけようと思えばどんどん増額してしまうので、綿密な資金計画、損益分岐点を含む現実的な事業計画が必要になります。
 
もう一つのデメリットとして、開店までの準備期間が長くかかるということがあります。
何もない状態から店舗をつくり上げていくわけですから仕方のないことですが、内装や設備工事の段取りを正確に無駄なく組んでいかないと、
予定通りのオープンを迎えられないということになりかねません。
それには施工会社などへの発注内容が明確で、お互いにきちんと意思疎通が取れていることが必要です。
発注に際しては、必ず複数社から相見積もりを取って、比較・検討の上、発注先を決めましょう。
見積もり内容などで疑問点がある場合は、曖昧にせず必ず確認します。
 
また、スケルトン状態で借りた賃貸店舗は、通常は退去するときもスケルトン状態にして引き渡さなければならないということがあります(原状回復)。
つまり、退去時に内装・設備の解体・撤去が必要になり、工事費用、廃棄費用がかかるということです。
契約前に退去時の取り決めについても必ず確認しておきましょう。


「空中店舗」での集客を考える
1階に位置する路面店舗に比べ、2階以上に位置するいわゆる「空中店舗」は、一般的に集客には不利だと言われています。
実際に路面店舗の需要は高いので、商業ビル内の空中店舗でなければ新規参入が難しいという状況も珍しくありません。
しかし当然空中店舗でも順調に売上を伸ばしている事業主はいます。むしろその特性を知り、
活かすことで強みに変えることも可能になると考えます。

「空中店舗」は「路面店舗」よりもなぜ不利なのか
空中店舗と路面店舗で最も差が現れる部分は、店舗自体が持つ集客力です。
路面店舗は道路通行中の人の目線でごく自然に認知されます。
ガラス張りならば店内の様子を見て入店を判断できますし、
店頭ディスプレイによって興味を引くことで、直接集客力を高める効果につながります。
 
一方、空中店舗は通行人の自然な目線の中にはないので、まず店舗の存在が認知される手だてを施す必要があります。
その点で、集客上はかなり不利と言えます。
ビルの側面に備え付けられた看板だけでは集客施策としては不十分ですので、路面店に比べると集客のための広告宣伝にかかる負担が大きくなります。
 
しかし、店舗選びの段階からこの不利な点を理解した上で、さらに顧客を誘引する工夫をすれば、空中店舗でも集客力を高めることが可能です。
空中店舗の選び方と集客の工夫
空中店舗の弱点をカバーするための、条件の良い店舗選びと、顧客誘引のための工夫として、以下の内容が挙げられます。
 
【わかりやすく入りやすいビル】
空中店舗のマイナス要素として、まず建物に立ち入らなければ入店できないという点があります。
例えば、繁華街などで同じようなビルが乱立していて、現地を特定しにくいとか、
あるいはビルの入り口がわかりにくければ、そもそも店舗にたどり着くことが難しくなります。
 
また、せっかくビルに到着したとしても、他のテナントが空室だらけだとか、エントランス、エレベーター、
通路などの共用部分の清掃・管理が行き届いていないと感じてしまうならば、
目的としていた店舗に魅力を感じていたとしても、客足が遠のいてしまうことが考えられます。
飲食店や女性をターゲットにする店舗なら、なおさら顕著でしょう。
 
そのため、空中店舗を選ぶ際には自分の店舗について考えるだけでなく、建物そのものに人が入りやすい物件を選ぶ必要があります。
中には、エレベーターがないために入店を取りやめる人もいます。ビル内の昇降についても確認が必要です。
 
【注目を集める工夫】
ビルの入り口付近に人目につく看板やフライヤーを設置すれば、通行客の注意を引くことができます。
空中店舗選びの際には、他のテナントがビルの入り口などで、どんな方法で顧客を呼び込んでいるかに注目するとよいでしょう。
場合によっては、ビルオーナーの意向や近隣との取り決めで、自由に看板などを使用できないことがあるため、事前に確認してみてください。
 
【見られたときの印象を高める】
空中店舗であっても2階から3階くらいであれば、道路から少し見上げてもらえば、窓を通して店内の様子を感じ取れる場合があります。
例えば飲食店ならば、窓際席を作り照明を工夫することで、外から雰囲気のよい店だと感じてもらうことや、
窓の景色を見ながらゆっくり過ごせそうだと期待感を持ってもらうことができます。
 
【Webの活用】
オリジナルWeb サイトやSNS、口コミサイトなどを利用した集客活動は、空中店舗の運営において必須です。
Web を活用したダイレクトな集客効果は、路面店舗と空中店舗で基本的に差異はないので、店舗そのものの魅力を伝えられるようなページ作りを行いましょう。
 
特に進化が著しいWebの世界では、複雑なプログラミングができずとも自分でWebサイトを作れるCMS(Contents Management System)ツールなどもあり、
ドメイン・サーバー利用料などを含めたとしても、
安価にWebサイトを運営することができます。
 
TwitterやInstagramといったSNSで広報活動を行い、ユーザーの興味を引くとともに周囲に宣伝(拡散)したくなるようなメニューやイベント、
特典を考えるということも検討できるでしょう。
ただし、Webでの情報発信は、定期的かつ頻度の高い更新を心がけなければ、逆効果となってしまう恐れがあることも認識しておきましょう。
空中店舗ならではのメリット
空中店舗ならではのメリットももちろんあります。主なものを以下にまとめます。
 
【賃料の安さ】
同じビルでも1階の路面店舗に比べ、空中店舗では賃料設定がかなり低いことがあります。賃料は経費の大きな割合を占めますから、
それを圧縮できれば、浮いた分でメニューやサービスの充実を図るとか、販売価格を下げて競合する路面店舗に対して競争力を高めることもできます。
また、広告宣伝費の増額も考えられるでしょう。
 
【眺望の良さ】
空中店舗は、窓からの眺望に魅力が出る場合が多々あります。高層階にある飲食店やバーなら、窓から見える夜景などを楽しみに来る人も多いので、
眺望が最大の訴求ポイントになります。
 
【喧騒から切り離された居心地の良さ】
路面店舗は、人の往来がある多い分、その喧騒からは離れられないとも言えます。
しかし、上層階に行くほど地上の音は届きにくくなりますから、空中店舗なら、落ち着いた隠れ家的空間を演出するということも可能になります。

店舗開業に必要な手続き・資格について
店舗を開業するには、店舗そのものの準備の他に、さまざまな手続きをする必要があります。
また、業種によっては資格の取得が必須のものもあります。何が必要なのかを確認して、滞りなく開業できるように備えましょう。
開業に必要な手続き 1 〈税務署への届出等〉
開業に関する手続きというと、まずは開業届が思い浮かぶのではないでしょうか。
しかし、その他にしなければならない申請類はいくつもあります。まずは税務署で行う手続きをまとめていきます。
 
【個人事業主の開業届】
まず必要なのが開業届です。個人が新たに事業を始めることを税務署に届け出ます。
具体的な手続きとしては、「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。
この開業届は開業後1カ月が提出期限になっています。
「個人事業の開業・廃業届出書」は、国税庁ホームページからダウンロードができます。
マイナンバーと運転免許証などの本人確認書類が必要となりますので、開業届を記載する際にあらかじめ用意しておくとスムーズに書類を書くことができます。
届出に際して手数料などはかかりません。
 
【所得税の青色申告承認申請】
青色申告を予定している場合は、「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出します。新規開業の場合の提出期限は、開業後2カ月以内です。
初年度から青色申告をするならば、開業届出書と一緒に提出するといいでしょう。
次年度以降に青色申告に変更する場合は、同申請書の提出期限は、申告しようとする年の3月15日までとなります。こちらも国税庁ホームページにて入手できます。
 
【給与支払事務所等の開設届出】
給与支払事務所等の開設届は、開業に際して従業員を雇う場合に必要になります。ですから、自分一人で事業運営する場合は必要ありません。
この届出は、事務所等を開設した日から1カ月以内に、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を税務署に提出することで行います。
 
【源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請】
事業者が従業員の給与から源泉徴収した所得税の納付は、本来は毎月行わなくてはなりません。
しかし、従業員が10人未満の事業者については、「源泉所得税の納期の特例に関する申請書」を提出することで、特例として年2 回、まとめての納付が可能になります。
提出期限に定めはなく、提出日の翌月分の給与から適用されます。
 
【青色事業専従者給与に関する届出】
青色事業専従者給与額を必要経費に算入する場合に必要な届出です。「専従者」とは家族従業員のことですから、
青色申告で確定申告をしている事業者が、家族に支払った給与を経費として計上するために、「青色事業専従者給与に関する届出(変更届出)書」を提出して申請します。
提出期限は、所得税の青色申告承認申請と同じです。
 
【都道府県税事務所への提出書類】
地方税である「個人事業税」については、課税主体である都道府県税事務所に、「事業開始等申告書」を提出します。
「個人事業税」は、所得額が290万円以下は控除されます。類似の届出を税務署の他にしなければならないということで、忘れないようにしましょう。
業に必要な手続き 2 〈その他公的機関への届出等〉
開業に必要な申請は税務関係だけではありません。次に各種公的機関への届出など、必要な手続きを記します。
 
【保健所への営業許可申請】
食品に関する事業を始める場合、保健所に営業許可の申請をしなければなりません。税務署への申請類と違い事前準備に時間を要するため、時間に余裕をもって申請しましょう。
提出期限は所管する保健所ごとに異なりますので、必ず事前に確認してください。準備するものと、申請の流れはおおむね以下のようになります。
 
〈事前に準備するもの〉
・営業施設の大要・配置図
・営業許可申請書
・営業許可手数料(自治体・業種により異なる)
・食品衛生責任者の資格を証明するもの
・登記事項証明書(法人のみ)
・水質検査成績書(貯水槽使用水、井戸水使用の場合)
 
〈申請の流れ〉
(1)保健所への事前相談
(2)営業許可申請
(3)施設検査の打ち合わせ
(4)施設の確認検査
(5)営業許可書の交付
(6)営業開始
 
【消防署への届出】
営業を開始する7日前までに、所轄消防署に「防火対象物使用開始届」を提出します。
また内装工事をする場合は、着工の7日前までに「防火対象物工事等計画届出書」を消防署に提出しなければなりません。
火を使用する事業内容の場合、既定の条件に当てはまるときは「火を使用する設備等設置届出書」の提出が必要。
さらに、従業員を含む収容人数が30人以上の場合は、防火管理者を選任して届出をすることが義務付けられています。
 
【警察署への届出】
飲食店が深夜0時を超えて営業する場合、警察署に「深夜における酒類提供飲食店営業開始届出書」を提出しなければいけません。
届け出が必要な飲食店は、お酒をメインに営業している飲食店になります(業態として、通常主食と認められる食事を提供している店舗は除かれます)。
また、風俗営業に該当する店舗の場合には、「風俗営業許可申請」が必要になります。
開業に必要な資格
開業するにあたって、業種ごとに取得が必須な資格があります。飲食店を中心に、必要な資格を見ていきます。
 
【食品衛生責任者】
飲食店を開業する場合、「食品衛生責任者」の資格が必要になります。食品衛生責任者は、食品の製造・販売を行う営業所や店舗に必ず1名配置しなければなりません。
自治体や保健所での講習を受講すれば取得できます。
例えば、公衆衛生学が1時間、衛生法規が2時間、食品衛生学が3時間の合計6時間(午前10時~午後5時)などの講習内容です。受講料は1万円程度かかります。
 
【防火管理者】
収容人数30人以上の事業所など、一定の基準に該当する場合、防火管理者を選任して、所轄消防署に届け出る必要があります。
 
【その他】
従業員を雇う場合に必要な手続きがいくつかあります。まず、「労働保険」への加入です。
労働保険には「労災保険」と「雇用保険」があり、それぞれ手続きを行う場所が異なります。
必要書類をそろえたら、労災保険は所轄の労働基準監督署に、雇用保険は同じくハローワークに提出します。
また、事業規模によっては、個人事業主でも社会保険への加入が義務付けられます。

「飲食店営業許可」と申請手続きについて
独立開業に飲食業を選ぶ人は多いと思います。
しかし、飲食店を始めるには飲食業の許可を得なければならず、それには諸々の準備が必要になります。
申請に漏れや不備があると開店が遅延することにもなりますので、どのようなことが必要なのか、きちんと把握しておきましょう。


「飲食店営業許可」の概要
開業に際して許認可が必要な業種はたくさんあり、それぞれになぜ許認可制なのかの理由があります。
飲食業については、不特定多数の顧客に対して飲食物を提供することで、健康被害を発生させる恐れがあります。
ですから、食品衛生法の定めで、営業を行う場合は保健所長の許可を受けなければならない業種の一つとなっています。
 
飲食店営業許可は各都道府県が管轄する保健所が行います。
各保健所による許認可は、都道府県が定める食品衛生法施行条例に基づいて行われますので、細部の規定は異なりますが、大枠は同じです。
営業許可を受けるために必要な書類はかなり多いので、抜け漏れのないように準備しましょう。
飲食店営業許可に必要な書類は、おおむね以下のものになります。
 
・営業許可申請書
・店舗施設の図面
・付近の見取り図
・食品衛生責任者の資格を証明するもの
・登録事項証明書(申請者が法人の場合)
・水質検査成績書(井戸水などを使用している場合のみ)
・製造方法の概要(製造業の場合)
・申請手数料(2万円前後 ※業種により異なります)
 
店舗施設やインフラ関連以外の要件に、食品衛生責任者の配置があります。
食品衛生責任者の配置は、食品衛生法および食品衛生法施行条例により定められた義務で、営業施設ごとに1名が必要です。
食品衛生責任者になるためには、以下の要件を備えていなければなりません。
 
・栄養士・調理師・製菓衛生師・食鳥処理衛生管理者・船舶料理士・ふぐ包丁師・食品衛生管理者などの資格を持っている者
・各自治体が主催する食品衛生責任者養成講習会を受講・修了した者

申請前に行う保健所への「事前相談」
実際に営業許可申請をする前に、重要な工程があります。それが保健所への「事前相談」です。
事前相談の主な目的は、開業する店舗が許可基準に適合しているかの確認です。
不適合な内容で申請しても許可は得られませんから、必要な書類をもって保健所の担当者にチェックしてもらうわけです。
必要な書類とは、店舗施設の概要がわかる図面などです。
 
事前相談のタイミングは、内装工事を始める前であるべきです。
もしも相談の時点で改善点を指摘されれば、その部分は必ず指示通りに変更しなければなりません。
着工後の設計変更・改修は、工期・費用への影響が大きいので、それを回避し、かつ円滑に許可を得るために、
店舗プランがほぼ固まったタイミングで相談するのがいいでしょう。
 
あくまでも「相談」という段階なので、店舗設計上で決めかねている点やわからないことの確認もできます。
ですから、提示する図面などは、完璧なものでなくても大丈夫です。
むしろ最終的な設計図面まで進めていると、もしもの場合、修正のための時間をロスすることになってしまうので、
設計担当者やデザイナーに前もって事前相談のタイミングを確認しておきましょう。
営業許可申請の流れと注意点
飲食店営業許可を申請する際の流れとは、大まかに以下のようになります。
 
1.保健所への事前相談
詳細は前述のとおりです。スムーズに許可を得られるように、不明な部分などはこの段階ですべて解消しておきます。
 
2.申請書類の準備~営業許可の申請
事前相談が済んだら、改善指示などをすべて反映した形で各種申請書類を準備します。書類がそろったら、管轄保健所に営許可申請を行います。
申請書の提出は、店舗施設が完了する10日ほど前に行います(自治体により異なりますので、事前に確認してください)。
 
3.店舗への確認検査
申請後一週間程度で、保健所の担当者による店舗の実地確認検査が行われます、申請内容と実際の施工状態が合っているか、事前相談時の指摘事項などが反映されているかを必ず確認しておきましょう。
確認検査には原則として事業主が立ち会います。店舗の確認検査で問題がない場合、自治体によって異なりますが、一週間程度で営業許可が下ります。
 
4.営業許可書の交付
検査に合格すると営業許可証が交付されます。事前に伝えられていた営業許可証の交付日に保健所などの交付窓口に行って受け取ります。
受領に際しては印鑑が必要なので、忘れないようにしてください。
営業許可証は食品衛生責任者の名札と共に、店内の見やすい場所に掲示しましょう。
 
次に、営業許可を得るための注意点を見ていきます。設備に関して、保健所でチェックが入りやすい主な項目を記しました。
設計時に漏れがないようにしておきましょう。
 
【厨房床の清掃のしやすさ】
衛生的な環境を保てるように、水が流せて水はけがよいなど、掃除しやすい床を選択しましょう。
 
【厨房の2層シンク設置】
厨房のシンクは2層が必須です。基準を満たさず交換、ということになると無駄な費用が発生してしまいます。
そうならないように細かな規定も確認しておきましょう。
 
【厨房・トイレの手洗い場設置】
厨房にはシンクの他に手洗い場が必要になります。トイレにも手洗い場の設置が必須です。手洗器の大きさにも規定があり、
それぞれ「幅36センチメートル×奥行28センチメートル」以上が必要です。
 
【厨房と客席エリアの区分け】
厨房と客席エリアの間は、扉などで区切られていなければなりません。ただし、扉があればよく、ばねで開閉するスイングタイプのドアでも可です。
 
【客席エリアに冷蔵庫等の食材置き場がないこと】
基本的に客席エリアには調理場や食材置き場があってはいけません。ドリンクのみの冷蔵ケースなどはOKの場合があるので、事前に管轄保健所に確認しましょう。
 
【冷蔵庫の温度計設置】
一般的に業務用の冷蔵庫には、庫内温度がわかる温度計が付いていますが、付いていない場合は見やすい場所に別途設置する必要があります。
庫内温度を測れる後付けの温度計も市販されているようです。
 
【厨房内のふた付きゴミ箱の設置】
厨房内に置くゴミ箱は、必ず「ふた付き」のものが必要です。
 
【戸が付いた食器棚の設置】
食器をしまう食器棚には、必ず「戸」が付いていなければなりません。戸の材質は特に規定がなく、ガラス・木・ステンレスなどのどれでも問題ありません。
 
【害虫などの侵入防除設備】
店内にネズミや害虫が侵入するのを防ぐために、厨房やトイレの窓に網戸を取り付けるなどの設備対策をしなければなりません。
換気扇のシャッター、排水口の金網なども同様の理由により、設置が必要です。
 
設備関連以外にも、スムーズに営業許可を得るためには、疑問点は解消しておく必要があります。
また、規定を外れると飲食店以外の営業許可や届け出が必要になる場合も出てきてしまうので、無用な手続きが発生しないように気を付けましょう。

深夜営業するときの届け出と注意すべきこと
一定の条件に該当する飲食店が、深夜0時以降も営業を行う場合、
「深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届」を警察署に届け出なければなりません。
当記事では、深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届とはどのような場合に必要があるのか、
またどのように届け出ればよいのかを解説していきます。


深夜営業の規定と届け出について
深夜営業とは、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下風営法)」で、
深夜(午前0時から午前6時)に酒類をメインとして提供する飲食店が営業を行うことを指します。
酒類をメインにしているのか否かで、「深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届」を警察署(公安委員会)に届け出る必要があるのかが決まってきます。
 
深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届が必要か否かは下記で判断します。
 
・深夜(午前0時から午前6時)営業を行うのか
・メインとして酒類を提供しているのか
 
例えば、ファミリーレストランでもお酒を扱っているところが大半ですが、ファミリーレストランの場合は提供するサービスのメインは明らかにお酒ではなく食事なので、
例え午前0時以降も営業しているとしても、深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届は不要です。
 
ここで疑問になるのは、酒類の取扱い種類が多いレストランや寿司屋などの分類についてです。このように、
酒類をメインとしているかどうかが判断しにくい飲食店の場合は、
届け出が必要かを直接警察署(公安委員会)に問い合わせるようにしましょう。
もしも届け出をせずに深夜に酒類提供飲食店営業を行った場合、風営法第34条の規定により50万円以下の罰金が科せられます。
また、届出書の記載が虚偽であった場合も同様の罰則となるので、自己判断での線引きは絶対にやめましょう。
 
深夜営業の届け出の際に準備すべき書類は、以下の通りです。
 
・深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出書
・営業の方法(を記載した書類)
・営業所の平面図(求積図、照明・音響設備図)
・飲食店営業許可書
・営業所に係る賃貸借契約書(賃貸店舗の場合)
・本籍記載の住民票の写し(外国人の場合は国籍記載のもの。法人の場合は役員全員分)
・本籍地の市区町村長が発行する身分証明書
・成年後見登記制度での登記がされていないことの証明書
・誓約書(内容は管轄警察署に確認のこと)
 
上記の書類をもって、営業所の所在地を管轄する警察署(公安委員会)に届け出ます。届け出書類一式が受理されれば、10日後から深夜営業を行えます。
届け出書類に不備があると受理は見送られ、修正や追加書類の準備などをした上で、再度提出することになります。
こうなると余分な日数を過ごしてしまい、予定の店舗オープンなどに間に合わないかもしれません。
書類は事業主自身が一人で準備をするには難しいものもあるので、費用はかかりますが、専門家(行政書士)に相談するとスムーズにいくでしょう。
また、個人と法人とでは準備書類に違いがありますし、所轄警察署ごとに細部が異なる場合もあるので、必ず事前に必要書類内容を確認するようにしましょう。

深夜営業で守るべきこと
深夜営業では、風営法の定めによりやらなければならないことがあります。
これらに違反すると罰則を課されることになりますから、よく理解して遵守することが求められます。
以下に主な守るべきことを記します。
 
【店の構造、設備基準に従う】
・客室の床面積を9.5平方メートル以上とする(客室が1室の場合を除く)
・客室に見通しを妨げるような高さ1m以上のつい立てや仕切り等の設備を設けない
・善良な風俗または風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾、その他の設備を設けない
・店内の照度が20ルクス以下とならないようにする(調光器付き照明は要注意)
 
【従業者名簿を作成・保管する】
〈従業者名簿の記載事項〉
・氏名・住所・性別・生年月日・本籍とその確認年月日
・従事する業務の内容
・採用年月日、退職年月日
 
従業者名簿には上記の内容を記載し、確認書類をコピーして添付し従業者名簿ファイルを2冊作ってファイル綴じにしておきます。
また、電磁的方法により記録されたもので、必要に応じて直ちに表示することができる場合は、当該記録を従業者名簿に代えることが可能です。
深夜営業の禁止事項
深夜営業では、禁止事項の違反に対しても厳しい罰則があるので注意しましょう。
 
【接待行為をすること】
「接待行為」は、そのこと自体を深夜営業で行ってはいけません。
具体的に言うと、通常の飲食店で行う接客行為、例えば来店時に客席まで案内するとか、注文を取る、給仕をするといったこと以上の会話やサービスは禁止となります。
客席に同席してお酌をしたり、カラオケでデュエットしたりということはすべて接待行為に当たります。
接待行為をする場合は、別に「風俗営業許可」が必要なので、この許可がなければ無許可営業として摘発されてしまいます。
 
【深夜0時以降に顧客に遊興させること】
深夜0時以降は、顧客に「遊興させる」行為は禁止です。
「遊興させる」とは、店側が顧客に対して積極的に遊興を促すことを言います。
具体的には顧客にカラオケをすすめたり、ビンゴ大会を開催したりといった行為です。
ただし、顧客同士がカラオケをすすめ合うなど、自発的に何かをすることが禁止事項に該当することはありません。
 
【夜10時以降の18歳未満の者に対する禁止事項】
夜10時以降に、18歳未満の者に客に接する業務をさせることは禁止です。
従業員側が年齢を詐称していたとしても、雇用側には確認義務・雇用責任があるので「知らなかった」では済まされません。
また顧客としても、夜10時以降に18歳未満の者を店に立ち入らせることは禁止です。ただし、保護者同伴であれば可能です。
 
【20歳未満の者に対する酒類やたばこの提供】
20歳未満の者に対して酒類やたばこを提供してはいけません。深夜営業にかかわらず、日本の法律では当然のことです。
 
【客引き行為をすること】
店外での「客引き行為」は禁止です。客引きのために進路に立ちふさがる、つきまとう、など一切してはいけません。
ただし、適正な手続きを取った上での路上でのチラシ・広告入りティッシュ配布などはこの限りではありません。
営業に必要な集客行為で判断に迷ったら、管轄の警察署に相談しましょう。

店舗の賃貸借契約時の留意点
店舗開業に際して、店舗物件を探して賃借する場合は、貸主との間で賃貸借契約を結ぶことになります。
開業準備はやる事がたくさんあって大変ですが、この賃貸借契約も重要な事柄の一つです。

内見・申込みから審査まで
店舗を借りる前には当然どの物件にするかを選びます。まずは契約に至る前に、物件を選んでから決めるまでの留意点を確認しましょう。
 
【内見について】
アットホームなどの不動産情報サイトで候補物件を見つけたら、物件情報を提供している不動産会社に「内見」をしたい旨を伝え予約します。
内見は基本的には1物件につき一回なので、その機会に見たいところは全て見て、確認しておきましょう。
契約時や契約後に見落としが発覚して、それが営業形態を左右するような重大なことだとしたら、契約を白紙にしなければならなくなるかもしれません。
そうなると時間を浪費するばかりか、それまで準備した金銭面での実損も出てきますので、細部にわたるチェックリストなどを事前に用意して内見にのぞむことをおすすめします。
 
物件の状態がスケルトンか居抜きか、または空き店舗かまだ前テナントが入っている状態かによって見られる箇所が制限されたり、
見るべき箇所が違ってきたりもしますが、不明な部分については同行してくれる不動産仲介会社または管理会社に確認しましょう。
 
【申込み~審査について】
内見を経て気に入った物件が見つかったら、次に「申込み」をします。申込み時点ではまだ自分が借りられると決まったわけではありませんが、
一旦他に借りたい人が出てきても最優先順位は確保できます。
言い換えれば、複数の候補物件で迷って申込みを保留にしていると、他者に賃借の優先権を取られてしまう可能性が高くなります。
 
そうならないためには、候補物件について不明点を残さずに確認し、迅速に比較検討して一つの物件に早めに決めることが必要です。
 
申込みに際しては、物件によっては「申込金」の支払いを求められることがあります。
その場合は、もちろん指定の金額を指定の期日までに入金する必要がありますが、賃貸借契約が成立したときにはその申込金が何に充当されるのか、
契約に至らなかったときには全額返還されるのかを確認した上で、「預かり証」を発行してもらいましょう。
お金のことで後の無用なトラブルを避けるためには、必要なことです。
 
また、申込み時には、必ず「事業計画書」を提出することになります。
事業用賃貸物件では、貸主にとってその物件で営まれる事業が順調にいくかどうかが最大の関心事です。
事業計画がしっかりしていれば月々の家賃の支払いが滞る可能性が低く、長く貸せると判断してもらえます。
もちろん借主の人となりも重要ですし、業種や店舗の雰囲気にこだわる貸主もいますが、最も重要なのは事業計画が細部まできちんと練られていて継続性・将来性が期待できるかということです。
 
この貸主による事業計画書の確認は、イコール「入居者審査」となります。
この審査に通らなければいくら物件を気に入っていても借りることはできません。
ですから改めて事業計画書の重要性を認識しておきましょう。

契約内容の確認
無事審査に通れば、いよいよ貸主と借主の間で店舗の「賃貸借契約」を取り交わすことになります。
内見、申込みの段階で、契約条件などについては不動産仲介会社といろいろと話をしているはずです。
しかし、最終的に重要なのは契約内容ですから、途中で交わした会話の内容を含めて、条件にかかわることは賃貸借契約書に間違いなく記載されているかを必ず確認しましょう。
 
契約を結ぶ前の「重要事項説明」の段階でも、重要事項説明書の内容に認識違いや想定していた内容の記載漏れがないかを確認します。
もしも不明点や疑問な部分がある場合は、必ず確認しましょう。
主要な確認項目について挙げておきます。
 
【契約形態・期間について】
まず、「普通賃貸借契約」か「定期賃貸借契約」かで、契約期間満了後に契約更新できるか退去しなければならないかが違ってきます。
この点は必ず理解して確認しましょう。
契約期間についても2年なのか3年なのかで、更新手続きの頻度が違います。
契約更新時に「更新料」の支払いが定められている場合は、更新ごとに借主にはその分の費用負担があるので、設定金額を含めて確認します。
 
【保証金・敷金について】
「保証金」・「敷金」は、契約時に支払う初期費用です。支払い時の金額がいくらなのかは当然確認するとして、
退去時に返還される金額についても取り決めをする必要があります。
先のことですが、退去時点で不満に思っても契約内容は変えられませんから、必ず確認しましょう。
 
【契約解除について】
ここでは貸主側からの「契約解除」について記します。
この場合の契約解除は、借主が貸主に著しく不利益を与えるような事柄や信頼を損ねるような事象を発生させた場合に、
貸主は即刻賃貸借契約を終了できるという取り決めです。
家賃滞納がその事由として記載されることが多いですが、その場合は家賃滞納期間の設定を確認しましょう。
もしも期間設定が1カ月ならば、延長が可能か交渉してみてもいいでしょう。
不可避の外的要因で一時的に売上げが低迷することはないことではありません。
その際に1カ月の家賃滞納で即契約解除(退去)の措置が取られるのでは、事業者としてはリスクが高いですし、
1カ月の家賃滞納が「著しく不利益を与える・信頼を損ねる」とまで言えるかという問題もあります。
 
【中途解約について】
借主側の都合で契約期間の満了を待たずして解約しなければならないこともあります。そのときの解約予告期間や違約金の有無などを確認しましょう。
 
【退去時の物件状態について】
退去時に、借りていた物件をどのような状態にして返すかという問題です。「原状回復」を具体的にどのような形とするのか、
スケルトンで借りたのか居抜きで借りたのかでも大きく違いますが、細かな点まで確認しておきましょう。
原状回復の工事内容によって、解約通知時期と解約時期の調整が必要になります。
 
【特約について】
上記の各契約内容については、「特約」として定められることが多々あります。
法令上特約の設定が可能なものについては、その記載内容は有効になります。
もしも借主にとって不利だと思うような内容の特約が記載されている場合や、よく内容がわからないものは必ず確認して不明部分を残さないようにしましょう。
 
上記のような契約内容を確認した上で、納得がいく結論に至らなかったならば、契約を取りやめるという判断もあります。
曖昧なまま契約を進めるのは大きな後悔につながるのでやめましょう。
 
ただし、契約直前の段階では、貸主も不動産仲介会社も相応の労力を使っていますし、その間は他の賃借人募集をストップしているのですから、
気軽に契約を取りやめることはするべきではありません。
そうならないためには、最初から自分の意思や希望条件などを詳細かつ明確に貸主側に伝える努力をして、認識にずれがないようにする必要があります。

融資を受ける場合
店舗の開業資金を金融機関からの融資で賄おうとする場合、店舗物件の契約と融資が確定するタイミングができるだけ合っていることが理想です。
 
物件の賃貸借契約が先行しすぎていると、もしも審査に落ちて融資が受けられなかった場合、開業ができなくなる可能性があります。
さらに余計な費用負担だけを背負うことにもなります。
 
反対に、店舗が借りられるという前提で融資の申込みを進めていて物件の審査に落ちたならば、融資の話は白紙になるかもしれません。
 
これを合わせるのはとても難しいことですが、それぞれの申込み時にどこまで確定していれば受け付けてくれるのか、
見込みで動いてくれるのかを仲介不動産会社、金融機関双方に確認しておきましょう。
 
いずれにしても重要なのは事業計画書の内容です。事業の実現性はもちろんのこと、収支予測や資金計画を含め、
継続性・将来性まで細かく丁寧に練られていることが必要です。

失敗しないための店舗デザインの考え方
店舗事業の成否にかかわるポイントの一つに、店舗デザインがあります。
営業を開始してから変更しようと思っても気軽にできないので、しっかりと作り上げておく必要があります。
店舗デザインで失敗しないためにはどのような考え方で何に気をつければよいか、要点を知っておきましょう。

店舗コンセプトの確立とデザインの一致が重要
まず重要なポイントは、店舗デザインは店のコンセプトと一致していなければならないということです。
飲食店を構えるにしてもレストランや居酒屋、カフェなどいろいろな店があります。
出すメニューの種類によってターゲットも異なります。
ターゲットが求める雰囲気と異なる店内にすると、違和感、居心地の悪さを感じさせてしまう可能性が高くなります。
 
そうならないために、最初に店舗コンセプトをどうするかしっかりと練り、納得できるものを確立しましょう。
確立した店舗コンセプトに沿って、自分がやりたいことと顧客ニーズを考え合わせて、お客様が楽しみながら店内の雰囲気と提供するサービスに没頭できるデザインに仕立て上げていきます。
 
例えば、ファミリー層向けにするのであれば、店内は明るい方がいいですし、食材や調理にこだわったメニューをゆっくりと味わってもらいたいのならば、
少人数を見込んだ落ち着きのある雰囲気が合っているでしょう。
ただし、和食でも創作料理だからあえて現代アート風の斬新な店舗デザインにするといった手法もあります。
これも店舗プロデュースの一貫ですから、ギャップが生む新鮮さが支持を得る事例としていくつも見ることができます。
いずれにしても、根幹となる店舗コンセプトがしっかりとしていることが必要です。

外観のデザインで店の情報を伝える
内装だけでなく、外観デザインも重要です。街行く人たちは、まず外観を見て雰囲気がよさそうだな、料理もおいしいのかなと興味を持ち、あなたのお店に入ろうとするのです。
 
その意味では、外観にも店舗コンセプトを反映させるのが定石となります。
例えば、ひと目見てメインメニューがわかるように、外に食材や料理を模した大型のオブジェを設置しているお店があります。
間口の広さや入口の状況により、店外に大型オブジェを設置するのは難しい場合は多々あります。
しかし、店外にスペースがないのなら、ガラス張りにして、外から中を見せるという方法もあります。
例えば、大きな水槽を置いて生きた魚介を見せることで、食材の新鮮さをアピールしたり、調理場面をそのまま見せることで、
おいしそうだと思わせるとともに衛生面での安心感を訴えたりということができます。
 
また、外観で店のコンセプトを伝える手段として、ディスプレイボードや立て看板もよく使われています。
その日のおすすめメニューや特典情報、最近のちょっとした話題などを書き込んでいるものを目にすることがあるでしょう。
あえて「手書き」にして、手作り感や親しみを感じさせつつ速報性を演出するケースも増えています。
 
このような手段を用いて人の目を引く、あるいはどういう店か、何を売っているのかを入店前に知ってもらうことは、集客においてとても大切です。

店舗デザインの注意点
一方で、内装や設備に関しては、ただむやみにこだわればいいわけではありません。実用性との両立を図って、不便にならないデザインが求められます。
 
基本的に、厨房は機能面を重視しましょう。作業手順とそれに基づいた動線をしっかり定めておかなければ、とても使いにくい厨房になってしまいます。
厨房が不便だと作業効率が落ち、料理を出す時間が遅れるなどのサービス低下、来店客からの低評価につながります。
 
内装に凝ると、ついつい付加価値をつけたり、装飾したりしたくなるものです。
しかし、店内の存在で最も重要なのはお客様ですから、内装はお客様の快適さを妨げてはいけません。
通路が狭いので行き来しにくい、何がどこにあるかわからないなどというお店は失格です。
内装も見せるところは見せ、シンプルなところはシンプルにしましょう。
 
今の時代、インターネット上での情報拡散が集客手段として大いに役立ちます。
例えば、店の象徴となるディスプレイを一つ作り、写真撮影用のスペースを設ければ、面白い店だと思われて拡散が期待できます。
料理メニューに関しても、特徴的なものならば拡散が狙えるでしょう。
ただし、見た目だけが奇をてらったもので、接客姿勢がよくないとか味そのものは平凡だとしたら、厳しい顧客の目はごまかせないでしょう。
写真映えするというようなことは、堅実な土台があってこそ生きてくると考えた方がいいのではないでしょうか。
 
最後に店内デザインでのNGポイントについて記します。考え方としては、お客様に不快な思いをさせるようなものは避ける、ということです。
例えば、セクシーな物品は、たとえ芸術性が高いとしても、ファミリー向け店舗では不向きです。
また、当然ですが、反社会的なイメージを想起させるようなものもNGです。
提示する側がユーモアの範囲だと考えていても、見る側が個人的に不快感を抱くこともありますから、
自分の趣味や嗜好(しこう)を反映させる場合は、特に慎重に考える必要があります。
ターゲットを狭く絞るのであれば、とがった印象を与えるデザインも悪くないのですが、
根底には人を不快にさせないということを忘れないようにしましょう。

店舗レイアウトを考えよう
店舗をデザインするときには、機能性が高くかつ効率的に動けるように店内レイアウトを考えなければいけません。
レイアウトをよく考えていない店舗の場合、まずお客様が居心地の悪さを感じてしまいます。
さらに、従業員も動きにくいので、業務効率が低下するばかりでなく、店内の事故が起きる可能性も高くなります。
特に飲食店で店舗レイアウトを考えるときは、客席ホールのレイアウト、厨房内のレイアウト、そしてお客様と従業員それぞれの視点での動線を考える必要があります。

厨房内の基本レイアウト
飲食店で、サービスの主役となる料理を作るのが厨房です。その重要な厨房のレイアウトは、料理の出来栄えと出来上がるまでの時間に大きく影響します。
使いにくい厨房は従業員だけでなく、結果的にお客様にも大きなストレスを与えてしまうのです。
 
厨房の基本的なレイアウトは、従業員ができるだけ厨房内を行き来することがなく、最小限の体の動きで調理の一連の流れがこなせることが理想です。
食材を出し、調理台で加工、下ごしらえをする、加熱調理して盛り付ける、完成品を配膳係に渡す。
これらがベルトコンベアのように一連の流れの中でこなせれば、狭い厨房内を動き回る必要がないので、料理を出すまでの時間を短縮できます。
これが冷蔵庫、調理台、ガス台、洗い場、食器置き場、カウンターなどを、作業手順と人の動きを考えずに配置すると、大変に混乱します。
 
つまり、「動線」が交錯したり無駄に往復したりするので、作業効率は上がりません。
しかも人と人がぶつかったり、はずみで物を落としたりなど、けがや物品損傷のリスクも高くなってしまいます。
ですから、作業台の近くに冷蔵庫を置いて上半身の動きだけで食材の出し入れと調理作業が連続でできるようにするとか、
食器洗いのシンクと食洗機、水切り用の置き場は横並びにするなどという、スムーズな動線を考える必要があるのです。
 
ただし、レイアウトの「正解」は、厨房の広さや設備の規模、人の数などによって違うので、それぞれの状況によって最適な配置を組みましょう。

お客様と従業員の動きを考える
まずはお客様に来店してもらわないと始まりませんから、お客様を店内に呼び込むための店構えを考えます。
お客様をスムーズに呼び込むためには、まず入り口を開放感ある作りにしましょう。
会員制のお店でもない限り、外から見て自然と中をのぞきたくなるような、中の見える入り口にします。窓側の席も設けると良いでしょう。
 
また、入り口に通行の妨げになるものを置いたり、視線を遮るものを置いたりするのは控えましょう。
扉を開けて中に入ると、店内を見渡せるようにしておくといいでしょう。
中が見えないと、人はどうしても不安を抱くものです。
 
ただし、すでに入店しているお客様のことも考えなくてはいけません。外から中の様子が見えるということは、店内にいる人は外から見られるということです。
ガラス越しや入り口付近からの他人の視線で、客席にいる人が不快に感じないような配慮が必要です。
窓の視線部分にカーテンやスクリーンなどで目隠しをしたり、店内に観葉植物を置いたりという工夫でも対処できますね。
 
お客様にとって居心地がよく、従業員にとって動きやすい店にするためには、お客様の動線と従業員の動線を意識的に分ける必要があります。
お客様の動線はある程度決まっており、基本的に入り口と客席の一往復になります。これに客席とお手洗いとの動線を加えればほぼすべてです。
入口から店内が見渡せれば、案内された客席に問題なく向かえます。
あとは席間の通路幅が狭すぎないようにして、直線距離は近いのに遠回りしなければたどり着かないような箇所ができないようにレイアウトしましょう。
 
一方、従業員は店内のあちこちを行き来します。厨房に行ったり、客席に行ったり、レジに行ったり、時には店の外に行くこともあるでしょう。
両手に料理を持って店内を動き回ることもあるので、その面でも通路は広めに取っておくべきです。
店内では、お客様優先が前提なので、配膳中の従業員がお客様とすれ違わなければならないときでも、脇によけて道を譲れるくらいの通路幅は確保したいものです。
お客様に「狭いな」と感じさせずに、接客姿勢が礼儀正しいという印象を持ってもらえます。
また、お客様とぶつかることで、その拍子に衣服を汚してしまうなどのリスクを防ぐことにもつながります。

衛生面・防災面でのレイアウト必須項目
飲食店を運営するときには、保健所(衛生面)そして消防署(防災面)の検査を通過しなければいけません。
店舗レイアウトについても、クリアすべき検査項目があります。
 
【衛生面での必須項目】
保健所の検査は、衛生面での安全性が確保されているかをチェックします。
レイアウトに関連した項目を挙げると、厨房(調理場)とホール(飲食する客席場所)は、仕切りにより明確に区別されていること、
お手洗いはお客様用と従業員用が別々に必要であること、
従業員用の更衣室などがあること、シンクが2槽あることなどがあります。
 
これらが実践されていないと、保健所からの営業許可は下りません。もちろんこの他にも、設備の仕様などの検査項目もたくさんあるので、
漏れがないように注意しましょう。
 
【防災面での必須項目】
お客様と従業員、多くの人が集まる事業所・店舗では、万が一の災害時に対する備えが必須です。これらは消防法で細かく定められています。
 
店舗レイアウトに関する内容とすれば、避難口と避難経路が確保されていることが挙げられます。外に逃げ出せる避難口と、
そこにたどり着くまでの道筋が十分な形であることが必要なので、
通路があっても何か物品などで通りにくくなっている状態は不可です。
 
避難器具の有無やその他設備などの必要性は、店舗規模、所在階など、その店の置かれた状況によって異なります。
自身の店舗はどのようにしなければならないのかを事前に把握して、確実にレイアウトに反映しましょう。
 
また、消防法上の内装制限もとても重要です。建築材は法令基準をクリアした製品の使用が必須ですし、カーテンやじゅうたんといった追加で設置する物品についても、
消防法に基づいた試験に合格した防災性能を有するものでなければなりません。
こうした防災面での規制をクリアしなければ、店舗をオープンすることはできませんので、しっかりチェックしておきましょう。

店舗内外装デザインから施工の依頼について
出店する物件が決まったら、いよいよ店舗の内装・外装工事を行います。
構想した内容を、いくらでどの程度実現してくれるのか、設計・施工の依頼先選定では思い悩むことでしょう。
依頼先企業を業態別に分けて、それぞれの特徴を理解すると、自分の店舗の場合はどのような会社に頼むのがいいかが見えてきます。

店舗専門のデザイン・設計会社に依頼する
内外装工事を工程で見ると、「デザイン・設計」と「施工」に分けられます。
「デザイン・設計会社」は、名前の通り前工程のデザイン・設計を請け負う会社です。
デザイン・設計会社に依頼するメリットは、何といってもデザイン力でしょう。
発注側の意図にオリジナリティーを加えたデザイン・設計が期待できます。
また、構想ではやりたいことが膨らんでいても、なかなか具体的にはイメージできない場合が多いですが、
そういうときでもデザインという形で提案してくれるのがこの会社です。
 
デザイン面でこだわった店舗にしたいのであれば、それを実現してくれるデザイン・設計会社への依頼を検討すべきでしょう。
店舗づくりには、特有の知識や技術が必要になるので、店舗専門もしくは主業務としている会社を選ぶことをおすすめします。
 
ただし、デザイン・設計会社はあくまでも設計までを請け負うのであって、施工は行いません。
ですから工事については、別の施工会社に依頼する必要があります。
2工程を別々の会社に発注すれば、当然一社にまとめて依頼するときよりも費用は高くなります。
またこだわりが強いほど、材料にもお金がかかりますから、トータルコストがかさむことになります。
工程が完全に二分されることで、
デザイン開始から工事完了までの期間が長くなってしまうこともデメリットとして挙げられます。
 
一方で、デザイン・設計と施工を別の会社に依頼することで得られるメリットもあります。それは「現場管理」という点です。
これは、建築現場において、工事が設計通りの材料で図面通りに進められているかを確認する仕事です。
設計までと施工からの担当会社が違う場合、設計会社(建築士)が現場管理を担ってくれれば、施工に安心感が増します。
 
予算と時間にゆとりがある場合は、デザイン・設計会社に依頼をして、こだわりの店舗をつくるのもいいでしょう。

デザインから施工までを同じ会社に依頼する
デザイン・設計から施工までを一貫して引き受けてくれる会社には、内装専門の施工会社、工務店などがあります。
一社に発注する最大のメリットは、費用が抑えられるということです。
設計と施工が連携されていることで、具体的な工事内容を踏まえたデザイン案や、調達しやすい材料での見積りが行われると考えられます。
 
ただし、当然デザイン会社に比べると、デザイン・設計での幅広さやオリジナリティーは不足しがちです。
会社によっては、独立したデザイン部門を備えているところもあるので、施工実績とともに事業体制も確認するといいでしょう。
 
一社発注のメリットには、もう一つ工期の短縮があります。
最初のデザイン工程から竣工までを見通して作業が進むので、おのずと全体の期間が短めになります。
デザイン性を優先せずに、コストと時間を重視するなら、一社への依頼を検討してみましょう。
 
発注に際しては、必ず店舗の施工実績を確認しましょう。店舗の施工実績が多いということは、多様なケースでの対応力の高さが期待できます。

店舗コンサルティング会社に依頼する
そもそも最初の店舗コンセプトから立案を頼みたいという場合は、「店舗コンサルティング会社」に依頼するという手段もあります。
マーケティングを含めた「店舗プロデュース」を行ってくれますが、相応のプラス予算が必要になります。
 
依頼する範囲は、用意されたプランメニューや契約次第ですが、どのエリアでどのターゲット層に何を売るかという根本の出店計画から、集客効果が上がる店舗デザイン、
メニュー策定といった店舗づくり、施工手配、備品の購入、さらには人員募集から教育、接客マニュアルの作成まで、要望に応じて行ってくれます。
 
ただ、ここまで任せてしまうと事業主は実際に自分で手を動かすことはなくなるので、この場合は店舗開業をあくまでもビジネスとして、収益を最優先の目的と考える人向きだと言えます。
自分の店を持つことが夢だったという人は、やはり自分で考えて自分で立ち上げたいという想いが強いので、ここまでの範囲で丸々やってもらうことにはかえって不満が残るでしょう。
 
その場合は、部分的に手伝ってもらうこともできます。
また、開業後に経営の改善や売上増加の施策についても相談できるので、各社のサービス内容を見てみるといいでしょう。

店舗施工でまず重要な見積もりとその見方
店舗内外装工事に際して、発注者と施工会社が互いに認識のズレがなく、
同じ完成形を目指すためには、正しい見積書と記載内容の確認は不可欠です。
見積書の内容が大雑把だったり、確認不足で曖昧なまま工事を始めて、後から食い違いが出てきてしまったりしても、
変更やキャンセルを行うことは簡単ではありません。
無用なトラブルを防ぎ希望の形で開店を迎えるために、正しい見積書の見方を知っておきましょう。

見積書のチェックポイント
まず見積書を見るときは、金額の確認を最初に行うのが普通です。
ただ、費用総額が自分の伝えた予算内に収まっているかどうかを確認するだけでは、もちろん不十分です。
細かな施工項目に漏れがないか、依頼した内容と違っていないか、理解できない項目や記述がないかなどをしっかり確認するようにしましょう。
 
【見積内容(内訳や詳細など)のチェック】
店舗施工について詳しい知識がなければ、材料や作業内容、費用の妥当性を判断することは難しいです。
とはいえ、見積書にはできるだけ詳しく内訳が記載されていることが必要です。
 
例えば、項目に「キッチン設置工事一式」という記載のみで、その金額が記されていたとします。
この場合、どのメーカーのどのキッチン製品が使われるのかがわかりません。
また製品の価格と設置工事の作業費用の内訳もわかりません。
つまり「一式」の内容を一切把握できないため、適正かどうかを検討することも困難になります。
 
【有効期限に注意】
見積書には、一般的に1~3カ月ほどの「有効期限」が表記されています。
これは材料費や人件費などの変動が想定されているためで、期限切れの見積書を元に発注する場合は同じ金額で発注できるとは限りません。
従って、見積書の期限内に正式に発注するか否かを決める必要があります。
もしも期限を過ぎてしまった場合は、現見積書通りの内容・金額で発注できるかを確認しましょう。
 
また、細かい話ですが、金額の記載方法が「税別」「税込」のどちらになっているかも確認しましょう。
大抵は、項目ごとの費用が税別で表記され、各項目の合計金額が下部に「小計」として記載されます。
これに消費税額を加算したものが「総額」などとして表わされます。
しかし、見積書の書式は発行者ごとに自由なので、必ずしもこの形とは限りません。
後に金額認識に相違が出ないように、念のため消費税の記載は見ておきましょう。

施工項目とその概要を知っておく
見積書を見る際、どんな工事や作業が必要なのかがわからなければ、記載内容の是非を見極めることは難しいでしょう。
技術的な部分まで細かく理解する必要はありませんが、大体の施工項目とその概要は知っておくべきです。
一般的な店舗内装工事で必要になる工事・作業について、いくつか見ていきましょう。
 
【電気工事】
電気工事では、コンセントやスイッチの位置変更、配線工事を伴っての照明や空調機器、スピーカーの設置、必要に応じて分電盤内のブレーカー増設などが行われます。
配線工事では、どのように配線を取り回すかで費用に幅が出ますし、天井の点検口の有無などで作業費が変わる場合もあります。
現地でしっかり確認して見積もりを依頼する必要があります。
そもそも必要な電力量が足りているかも確認しておきましょう。
 
【ガスや給排水などの工事】
キッチンの移設や、特殊な調理器具の設置が必要になる場合、ガスや給排水などの配管工事を行う必要があります。
配管工事では、既存の配管が床下などのどこに設置されているのかがポイントになります。
特に排水管に関しては、キッチンを高くするなどして傾斜をつけた上で建物のメインとなる排水管へ接続しなければならない場合があり、
希望する場所に設置するためにはかなりの費用がかかることがあります。
 
【空調工事】
業務用のエアコンがもともと天井に埋め込まれている場合には、そのまま利用できることもありますが、古くて性能に不安があるようなときは、
本体や室外機の交換を視野に入れなければなりません。
エアコンに関しては「付随設備」という見方はありますが、物件の賃貸借契約次第で個々に異なります。
まずは貸主に交換や修理の場合の負担はどちらにあるのかを確認する必要があります。
 
契約書の内容をよく確認し、記載がない場合には明確に取り決めた上で施工に盛り込むかなどを判断するといいでしょう。
また、「ダクト工事」が必要になるとその分費用は追加されるので、空調用のダクトのほか、特に飲食店の場合は厨房からの排気についてきちんと考えましょう。
 
【建材・設備機器】
床・天井・壁をきれいにするには、床材やクロスといった製品が必要になります。
カウンターや扉などを店舗の雰囲気に合わせたもので設えるなら、その建材が必要です。飲食店ならば、業務用の調理機器や洗浄機器、保冷機器などが必要になります。
これらについて、自分の希望があるならどのようなものなのかを明示する必要があります。
これが曖昧だと施工側は困ってしまいますし、見積もり時にも独自の判断で製品を選ばざるを得ません。
結果的に発注までのやり取りが長くなり、着工後のトラブルにもつながりかねません。施工側の提案を受け入れるにしても、
必ず製品については細かく確認・把握するようにしましょう。
 
【追加工事】
事前に現場を確認していても、配管や配線の劣化など表面上での判断が難しい部分で、作業困難な事態に直面することがあります。
その場合、変更・追加工事で対応することになりますが、通常は別途見積りとなります。内容によっては高額になりますので、
事前に想定できる範囲だけでも追加工事の可能性と概算費用などについて相談しておき、不測の事態に対する心積もりがある程度できている状態が理想です。
 
とは言え、追加工事は発生しないには越したことはないので、できる限り見積り依頼の段階で、精緻な内容を提示するように努めましょう。

比較検討には相見積もりが必要
一社からの見積書だけでは、その内容や金額が適正なものであるかを判断することは困難です。そのため、複数の施工会社に見積もりを依頼し、
比較検討することで最適な一社に絞り込んでいきます。
必要に応じて不明点を確認した上で、再度見積書を出してもらうこともあります。
 
同じ発注内容で複数の会社に見積もりを依頼することを「相見積もり(あいみつもり)」と言いますが、相見積もりの際にこそ、
金額だけでなく内容についてもしっかり確認・比較する必要があります。
例えば、会社Aが配線作業費を10万円で設定しているのに対し、会社Bが5万円で済むというのなら、
詳細な内容について質問・相談してみることをおすすめします。
会社Bが経費削減などの企業努力で安くできているのか、あるいは両者の施工内容認識の違いによるものという可能性もあります。
 
このように、相見積もりは、発注内容と費用を適正に判断し、最良の依頼先を決めるためには不可欠です。
そのためには、必ず同じ条件・内容で見積もりを出してもらうことが重要です。

店舗施工で失敗しない依頼先選定時の注意点
店舗が決まれば、内(外)装工事を依頼することになります。施工会社選びは、店舗づくりでの重要な要素の一つです。
失敗しないために、選定の際に注意しておくべきポイントを見ていきましょう。

自分のイメージを明確に伝える
どんな会社に施工を依頼するにしても、自分の希望するイメージを明確に伝える必要があります。
イメージが具体化されていない状態で施工を依頼されても、受けた方が困ってしまいます。
お店を持ちたいと考えたときに、「こんな店にしたいな」とか「あの店すてきだったな」とか、思い描くものがあるでしょう。
施工はあなたのイメージを具体的に実体化するものですから、人に伝えるということを前提にできるだけ明確にしておきましょう。
 
どうしてもイメージを具体的に示すことができない、ということはあると思います。そういう場合は、依頼先のデザイナーに相談してみるといいでしょう。
いくつかのヒントから、想像と経験によって、要望に合ったデザイン案の提示に努めてくれます。

施工依頼先の見つけ方
仕事が確かで信頼でき、かつ料金が適正だと納得できる会社に依頼したいものです。以下施工会社を探すときの参考にしてください。
 
【気に入ったお店の人におしえてもらう】
普段から気になるデザインや内装のお店があるなら、そのお店に施工会社をおしえてもらえるかもしれません。
一見(いちげん)だとなかなか難しいですが、顔見知りや知り合いの場合は、実際の使い勝手や改良点など、
参考にできることを無理のない範囲で聞いてみるのもいいでしょう。
もしも、紹介してもらえるなら、その後の商談がしやすくなるなどのメリットがあるかもしれません。
 
ただし、知り合いや紹介の場合のデメリットも把握しておく必要があります。見積書を検討した結果断る場合、ビジネスライクに断りにくいこと。
相見積りを取る場合には、こちらの意図は事前にきちんと伝え、紹介者、施工会社双方に誤解などが生じないようにしましょう。
 
【ネットなどから探す】
一番手軽ですぐにできるのが、インターネットで探す方法です。大抵の会社は施工実績を画像で公開しているので、
自分のイメージと合うかどうかをある程度は確認できます。
会社によっては大まかな費用の目安を提示していることもあり、概算での予算との照らし合わせができます。
 
注意すべき点として、施工実績が十分であることのほかに、目指す業種を手がけているかどうかを必ず見ましょう。
例えば、飲食店と美容室では法令上の規制が異なり、必要な設備などに大きく関係してきます。そういった知識という面でも
、自店舗と同業種を手がけた実績を持っている会社を選ぶと安心ですし、有益なアドバイスを受けられます。
 
【意見交換ができる会社を選ぶ】
発注側は施工に関しては素人ですから、いくら勉強して一所懸命に計画案を立てても、やはり足りない部分は必ずあります。
プロとしてデザイン・施工をしてくれる側には、そういう部分を確実に埋めてくれることを期待したいですよね。
その意味では、発注側の要望にまずい点があれば、その理由を共に明確に指摘してくれて、よりよい改善案を提示してくれるような会社が望ましいと言えます。
 
一方で、こちらが知識不足だという前提で、自社のプランや設備機器の導入を押し付けてくるような会社は、正しい意見交換、
コミュニケーションが取れるとは考えにくいです。
このような感じを受けたなら、その会社は避けた方がいいでしょう。
 
予算の中で、互いのイメージを共有しながら、一緒に良い店舗をつくろうという方向に進める会社を見つけましょう。
まずは、施工実績から自分のイメージ・好みと合うなと感じたところをピックアップしていくといいかもしれません。

見積もりは複数社に依頼し十分に比較
施工会社をいくつか選んだら、必要な情報と共に自分の希望するイメージを伝えて見積もりを依頼します。
ここが重要なポイントですが、見積もりは必ず複数社に依頼しましょう。
いわゆる「相見積り」と言われるものです。相見積もりは、施工会社を比較検討する上で最も大きな材料となってきます。
 
何社にも見積もりを依頼するのは手間や時間がかかりますが、見積書の説明を受ける過程でそれぞれの特徴が見えてくるとともに、
改善点や変更点が見出せることもあるでしょう。
施工会社が新しい提案をしてくれることもあり得ます。相見積もりは価格の比較だけではなく、
トータルで施工会社を選ぶ機会を提供してくれる重要なツールなのです。
ですから、見積書の記載内容については、できるだけ詳細な費用項目を出してもらうようにしましょう。「○○一式」というような、
総額だけを表示した見積書では比較検討ができません。
 
また、できるなら、見積書に記載のある材料や設備、建具などについて、
具体的にどのようなものかわかるような写真付きの見本資料を付けてもらえないか、確認しましょう。
文字と数字だけの見積書だけではつかめなかったイメージを思い浮かべることができます。
 
見積りを依頼し、出された見積書を比較検討し発注先を選ぶ。これだけでも結構な時間がかかります。
項目漏れや値引き交渉などで再見積りということになれば、さらに時間は追加されます。
時間が少ないと十分な検討時間が取れず、「ここでいいか」という雑な選定になりがちです。
このような発注の仕方は、後悔のもとですので、スケジュールはゆとりを持ってあらかじめ引いておきましょう。
 
店舗開業を成功につなげるために、施工会社の選定はとても重要なポイントとなります。
見積書にはさまざまな記載がなされてきますが、金額の比較だけでなく、対応などを含めた点を総合的に判断することが大切です。


バリアフリーを考えた店舗づくりについて
幅広いターゲットを狙った店づくりをするためには、高齢者でも利用しやすいバリアフリー対策を検討する必要があります。
体の不自由な人でも使いやすく、また来店しやすい店づくりをするためには、具体的にどのような取り組みが必要なのでしょう。
そのポイントを紹介します。

全ての人が使いやすい店に
店に一人でも多くの人を呼び込みたいと思ったら、若年層だけでなく高齢者や体の不自由なお客様の来店も想定することが必要です。
そういった人でも利用しやすい店内環境づくりができれば、特に不自由でない人にとっても使いやすい店になることでしょう。
 
基本のバリアフリー対策として、まずは段差をできる限りなくすことを考えます。
段差があると車椅子の人は店内に入ることができませんし、高齢者はつまずいてけがをすることがあります。
健康な人でも体調が悪かったり、アルコールが入っていたりすると段差でつまずく危険性があります。
段差をできる限り少なくすれば、そのようなリスクが少ない店づくりにつながります。
 
段差をなくすためには、スロープを設置するのが最も一般的な方法です。
前面道路から店内に入るのに高低差があるのはよくあることですが、この部分が階段ではなくスロープになっていれば車椅子でも店内に入りやすいですし、
小さな子供をベビーカーに乗せている場合もそのまま入れるので楽ですね。また、スロープには手すりを付けるべきでしょう。
高齢者は手すりがあれば安心してスロープを登ることができます。
車椅子はどうしても幅を取ってしまうので、車椅子でも入りやすいようにスロープの幅は広くしておきます。
さらに、スロープの勾配が急だとかえって危険なので、できるだけ緩やかにしましょう。
また、スロープ部分の床色を変えておくことをおすすめします。そうすることで、フラットな部分との区別がしやすく、より安全です。
 
店内通路も車椅子が通れる幅を確保します。
また、客席の椅子をよければそのまま車椅子で着席できるような仕様にしておけば、利用者はストレス少なくくつろげるでしょう。

トイレなどの設備対策
入り口や客席のバリアフリー対策以外に、トイレの安全対策も重要です。
車椅子でも入れるトイレはかなりの広さを必要とするので、なかなか設置は大変ですが、できる範囲での対策は考えられます。
 
まず、誰でもトイレを安全に使えるように、手すりの設置をおすすめします。できるだけ広めにして、介助者が一緒に入れるようにしておくということも有効です。
より細かな配慮として、洗面台や鏡の位置を高すぎないようにしておくことも挙げられます。
 
誰でも入りやすい入り口、動きやすい店内、誰でも使いやすいトイレがあれば、その店のバリアフリーへの配慮はお客様に伝わるでしょう。

空中階でのバリアフリー店舗について
2階以上の空中階でバリアフリー対策をした店舗を開くときには、別の注意点があります。
 
まずはエレベーターの設置が必須だということです。
足の不自由な人にとって、階段を利用するのは大変に困難ですから、エレベーターを使うことを前提として、
かつ使いやすいエレベーターのあるテナントビルを選びましょう。
 
使いやすいエレベーターの条件とは、まずは十分な広さがあるかどうかです。5~6人用の小さなエレベーターの場合、車椅子1台が乗ると、
あとは介助者のほか一人か二人入れるかどうかという大きさです。
この場合、他の利用者が乗れないなど、気兼ねや遠慮の気持ちが生じて快く利用できないかもしれません。
できるなら10人定員程度の大型エレベーターがあるといいでしょう。
 
またビル入り口からエレベーターまでの通路、エレベーターを出てから店舗までの通路の状態も当然見ておく必要があります。
通路幅が十分にあるか、段差がないかを確認してから、空中階店舗のテナントビルを選びましょう。
 
店舗づくり以外の部分でも、メニューを読みやすいものにする、筆談で注文できるようにするなど、
体の不自由な人や高齢者に対する配慮の方法はさまざまあります。
高齢化が進む日本社会の状況、あるいは多様な個性を持つ一人ひとりに対応するためには、
誰でも使いやすい公共の施設はますます必要になってきます。
店舗のバリアフリー工事に対して、助成金を出している自治体もあります。
これらを利用して、多くの人に優しい店舗づくりを検討してみてはいかがでしょうか。

店舗の外装について知っておくべきこと
店舗の外装は「店の顔」ともいえるとても大事な要素ですが、ただ目立てば良いわけではありません。
集客にも大きく影響する外装デザイン、まずは基本的な考え方をきちんと押さえておきましょう。

コンセプトに基づいた主張を明確に
店舗の外装デザインはまさに「店の顔」。その第一印象で店舗のイメージが決まります。
どんな業種なのかはもちろん、デザイン次第でコンセプトまで伝えることができます。
しゃれた見た目でも何の店なのかわからなければどうでしょう。
おそらく入るのをためらう人が出てくるのではないでしょうか。
また、大きな看板を設置して店名と業種はわかるけど、何も特徴を感じないとしたらどうでしょう。
おそらく「ここがいい」ではなく、「ここでいい」というお客様の来店が多くなるでしょう。
 
では、お客様にきちんと「ここがいい」と選んで来店してもらうためにはどうすればいいでしょうか。
それはまず、確固たるコンセプトを決めて、それに基づいて外装デザインを立案することです。
何を主張したいのかを明確に決めておけば、デザインの方向性が大きく外れることはないでしょう。
まずは大きな主張で、第一印象としてアピールすることを心がけます。先に細部からこだわっていくと、全体の印象が薄くなってしまうことがあるので注意しましょう。
 
また、集客を前提にするならば、店の外観デザインは、「この店ではどのような時間が過ごせるのか」が一目でわかるものになっていることが理想です。
例えば、安くて誰でも入りやすく回転率の高い店なのか、
安くはないけれどゆったりとした時間とサービスを楽しめそうなのかなど。
その考え方でいけば、可愛くポップなスタイルで、子供連れのファミリーが楽しく過ごせる店をアピールすることもできるし、
シックな雰囲気で大人がお酒を楽しみながら静かに過ごせそうな店を表現することもできるでしょう。
 
どんな店舗であるのかをアピールするには、看板やディスプレイの素材、色合いなどが重要な要素になります。
木を使った天然素材の温かみを出すか、金属素材を入れて重厚感を出すか、
アクリル素材で発色のいい色合いを見せるかなど、店舗の方向性によって適正なものを検討しましょう。
店名の書体や夜間のライティング具合でも与える印象はガラリと違ってきます。
 
また、店のガラス面から店内がよく見えるようにするというのも、店のイメージを簡単に伝える方法の一つです。
まず、通りかかる人の興味を引いて、瞬時にどのような店と判断してもらえるだろうかという視点で、店舗の外観・デザインを考えましょう。

出店地の環境も考慮する
店舗の外装デザインは、コンセプトが明確に示されているべきですが、出店地の環境についても考慮する必要があるでしょう。
例えば繁華街や商店街といった、多種多様な店舗が立ち並ぶことで活気ある雰囲気を形作っている場所の場合は、
比較的自由に店舗のデザインを決めることができます。
一方、ショッピングモールなどの複合商業施設や商業ビル内に出店する場合は、
施設全体のルールの範囲内でデザインを考えなければいけません。
 
また、地域によっては、街並みとの調和を求められるケースもあるでしょう。
景観法・景観法施行関係整備法・都市緑地法は、景観緑三法と呼ばれ、この法律に基づき、
「景観行政団体」は、街の景観を守るための条例を制定することができます。
こういった地域に出店する場合、デザインの自由はある程度制限されることになるでしょう。
中には、屋根の色だけではなく材質まで決まっているという地域もあり、看板や庇について明確なサイズが決まっているケースもあります。
制約があるとはいえ、街並みにも調和したデザインであれば、地域や観光客に好意的に受け止められる、というメリットも期待できるでしょう。

施工時の道路使用などには許可が必要
店舗の多くは道路側にスペースの余裕があまりありません。
そのため外装(内装)工事の際は、資材運搬や工具置き場などのために車両が路上駐車をすることになります。
工事のために公道に車両を駐車する行為は、道路本来の人や車が通行するという目的から外れるため、「道路使用許可」が必要になります。
道路使用許可申請は、管轄の警察署で受け付けしています。
 
また、店舗外装で看板などを公道に置く場合は「道路占用許可」が必要になります。それが移動式の看板だとしても、
営業中に継続的に公道に置くならば、同許可が必要です。
また地面に設置するだけでなく、空中にある看板や庇などが建物から突出して道路にかかってしまう場合にも「道路占用許可」が必要になります。
地域ごとに道路面から高さ何メートル以上、道路境界線から突出幅何メートル以内など、明確な規制があります。
道路占用許可の申請先は、その道路の管理者が誰(どこ)なのかによって違います。
国道、県道、市道などのどれなのかを把握する必要があります。
 
「道路使用許可」の申請は、工事期間中のことなので大抵は施工会社が行ってくれます(大抵有償)。
しかし、場合によっては事業主が自分で申請しなければならないこともあります。
そのとき、時間がないとか申請書類の準備などが難しいというのなら、行政書士に申請の代理を依頼できます。
法令の規定で、有償で道路使用許可申請を代理できるのは行政書士だけとなっているので注意が必要です。
 
道路占用期間には上限があります。規定期間を超えて占用を続ける場合には、更新手続きが必要になりますから、忘れないようにしましょう。
 
道路使用、道路占用ともに無許可で行った場合は、当然法律違反として処罰対象になりますから、確実に申請・許可の手順を踏んでください。